第32話 第二章 『さあキスをしよう! 話はそれからだ』(23)
「これは本棚だな、木製だ。中の本は変わった材質だ・・・パピルスではない。パピルスより目が細かく薄いし、何と言っても文字が読みやすい」
「それは『紙』といって、この時代の主流となっている記録媒体だ」
「『カミ』か・・・妾はこの匂いが好きだ。我が王家自慢のアレクサンドリア大図書館の中もパピルスだらけであるのだが、これと似たような匂いが充満していてな、妾はその匂いに囲まれて何時間も読書をするのが大好きだった・・・」
アレクサンドリア大図書館、それはプトレマイオス朝の首都にあった『当時の貴重な文献を集めた巨大書庫』のことだ。
初期のころには、有名な発明家アルキメデスや学者エラトステネスなど多数の知識人が在籍し、図書館というだけではなく研究機関としても機能した、まさに『人類の智の集積地』であったのだ。
おそらくファラオになる前から、王族の特権を利用し、読書や研究のためそこを利用し研鑽を深めたのだろう。また、あるときはそこに集っている優秀な学者に師事を仰いだこともあっただろう。
そういえば彼女は、要点をとらえて分かり易く簡潔に話す傾向があるが、おそらく・・・そのように話す教育を受けてきたのだろう。
ダラダラ話したり、難しい単語を使って説明するのは簡単だ。
だが、その逆というのは難しい。
彼女は、かなりの高等教育を受けているに違いない。
また、なにより理解が早い・・・呑み込みが早いというか。
これは、アタマの回転が速いということで、彼女の元々持っている素質が優れているということだ。
外見の美しさだけではなく、中身も優れているってわけだ。
「でも、この滑らかさはパピルス・・・すなわち草が材料とは思えないわね。パピルスのように圧搾や脱水などではなく、組成をそもそも変化させる原料と製法か・・・」
やはりセクメトナーメンは、ぶつぶつと言いながら分析をしている。
「そのとおり。木材を原料に、薬剤を何種類も添加して柔らかく、薄く、滑らかに加工しているんだ」
俺が答えを言う。
すると、セクメトナーメンは回答を聞いて満足げに、
「なるほど、やはりそうなのですね。ところで・・・ええと西郷殿? この製法はいつごろ開発されたのですか?」
「開発自体は古く、クレオパトラの時代の前後だ。だがエジプトに伝わるには、さらに千年近くかかっているかな」
彼女たちは、相変わらず完璧にプトレマイオス朝エジプト人を演じているな。
こちらも、ついその演技に乗ってしまう。
・・・演技・・・だよな?
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