第5話

「いやだ。行かないよ。」

「付いていくと思った?」

東京湾の夜景を背中に、苛立ちが心を占めた。


彼女は会った初日に、体を許した。

「私ADHDなんだよね。薬も飲んでる。」

ADHDは、じっとしていられず、いつもなにか動いてしまう、衝動性を抑えられない発達障害だ。

最初半信半疑だったが、付き合ううちにその通りだと思った。


そんな彼女に俺は、つい自分の暗い過去を話していた。


話したとき、彼女は自分を励ましてくれたけど、いつも通りに家に誘うと断られた。


なにが悪かったんだろう?

YouTuberが、セフレを作るには、好きでも嫌いでもない、ただ会っているときは大事にすることだと言っていた。


会っているときに、他の女の話をしたら、それはダメだろう。


それに自分がしたことは、新宿で暗い過去を打ち明けられた女と同じことだ。


与えて与えて心許してもらって、初めて弱さを受け入れてもらえるのに、与えずに愚痴を聞いてなんてオナニーだ。


自分の自己中さに気づけない愚かさ。


でも会わなくなったところで、お互いなにも失わなかった。


たぶんクラミジアをもらったのは、自分の方だ。

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