おまけ娘の異世界チート生活〜君がいるこの世界を愛し続ける〜

蓮条緋月

始まりの章

プロローグ 聖女のおまけ

 ある女子大学生が道を歩いている。大きなカバンをを肩から下げ、友人と旅行へ行くために駅に向かう途中、その学生は高校生の女の子とぶつかった。


「ごめんなさい、大丈夫? 怪我してない?」

「いえ、大丈夫です。すみません」

「こちらこそ、ぶつかってしまってごめんなさい」


 そう言って差し出した彼女の手を女の子が掴んだ時、二人の真下に魔法陣が現れ、咄嗟に女の子を抱き寄せた。

 彼女は女の子を庇いながら見知らぬ床に座っていた。一瞬の静寂の後、部屋を揺らすほどの歓声が響き渡る。


「成功したぞ!」

「聖女様の降臨だ!!」

「これで我が国は救われる!!!」


 訳が分からず戸惑っていた彼女だが彼らの会話からどうやらどっかの異世界に召喚されたらしいと理解する。こういう時に冷静になれるのは両親の教育とファンタジーオタクのおかげだろう。

 彼女は数あるジャンルの中でも異世界物が大好きだった。いろいろなジャンルを読むが異世界ファンタジーだけは特別熱中していて、その異常なまでのハマり具合からいつしか『ファンタジーオタクの残念美人』と言われるようになった。それこそ自室の本棚が全て異世界もので埋め尽くされるほどには。家族も友人もここに関してだけは早々に諦めた。

 だからこそこのような事態になっても状況がすぐに把握することができた。彼女が咄嗟に庇った女の子は状況が分からず彼女の腕の中で震えていたが無理もないだろう。

 そんな状況にも関わらず歓声を上げ続ける人達に向かって彼女が声をかけた。


「あの」


 声を発した途端あたりは静まり返り視線が集まる。そしてしばらくの沈黙の後、一人の人間がこちらを指差し震えていた。


「な……ななな……せ、聖女様が二人っっ!?」


 その声に同調して周りが騒ぎ出す。


「馬鹿なっ! 今まで召喚されたのはお一人だけのはずだ!」

「召喚が失敗したのかっ!?」

「そんなはずは……っ!」


 口々に喚き出す周囲とは対称的に緋夜は冷静に状況を理解する。彼らの会話から察するにどうやら本来ここの呼ばれるのは一人だけだった。しかし目の前には二人いて、今までは一人しか召喚されなかったため大混乱、といったところだろう。向こうで何が起きたのかなど彼らは考えない。召喚というものが意味するものに気づかないから。のことなどはじめから頭に入っていないのだ。


(読んでて思うけど召喚ってつまり……)


 そう考えている彼女達の前にローブを着た金髪の男の人が立った。様子からして召喚を行なった人達のリーダーだろう。


(この人神官長かな、それとも魔導師長? てことはこれから行われるのは)


鑑定だろう。どちらかが聖女なのか、それとも両方聖女なのか、あるいは両方とも聖女ではないのか。


「失礼ですがこれからお二人の鑑定を行います。こちらへお呼びした理由はそのあとにお話しします」


 ローブの男の人が優雅に言うのを普通は逆だけどね、などと心で突っ込みを入れながら見ていた彼女のことなど露知らず鑑定を行うため、何やら球体のものを取り出した。

 最初に行われたのは彼女が庇っていた女の子だった。


「ここに手をあててください」

「……は、はい」


少女は謎の球体に手をあてている間ずっと彼女にしがみついていた。彼女に少女の震えが伝わってくる。大丈夫だと言うように彼女が背中を撫でると少女の震えが少しおさまる。彼女達が謎の球体に目を向けていると球体が純白に輝きだし、途端周囲から歓声がわき上がった。


「やはりこのお方が聖女様だ! この純白の光をっ!!!」

「美しい……」

「さすがは聖女様です!」


口々に叫ぶ男性達に少女は怯え彼女にしがみついて再び震えだしたのに対し彼女は、目の前の光景を冷ややかに見つめていた。


(すっごく喜んでる……罪って自覚がないんだね。まあこういった類の場合期待するだけ無駄か。それよりも問題は私の結果だけど)


 こういう場合、両方ともということもあるにはあるが大体はどちらかがハズレだ。そしてそれが判明した途端に追い出されて冒険者になって無双する、なんて話がよくある。それが城に伝わると帰ってきてと言ってきて今更何? となる訳だ。そしてその場合、大抵元の世界に帰れなかったりする。

 彼女はなんとなくそうなるかもしれないと嫌な予感を覚えて鑑定が終わるのを待った。

 結果は……


「ふむ……失礼ですが貴女には属性どころか魔力もございません。これは触れたものが魔力持ちであることが前提ですので光らないということは魔力がないこととイコールになります」


ご丁寧な説明とともに放たれた無慈悲な発言を頂戴した彼女のは予想は的中。魔力なし属性なしの完全なる一般人だった。地味に落ち込む心を全力で隠して目の前の男性に笑顔を向ける。こういう時は役者の娘、幼少から親から教わり技術を盗んできただけのことはある。加えて聴こえる母のお言葉。


『いい? 嫌な時や辛い時ほど役者になるの。どんなに理不尽でもそれを悟らせてはダメよ。ここは舞台、カメラの前。そして自分は今役を演じている。やり直しのきかない本番。そう思い込むの。悲しんだりするのはいつでもできるわ。役者になって自分に有利になるよう動くのよ。そしてその状況で一番重要なことをやりなさい。そうすれば後から楽になるから』


(ありがとうお母さん。でもこんな奴らに笑顔を向けなければいけないのは苦痛です)


 目の前の男性達から浴びせられる哀れみ、蔑み、嘲りの視線の数々。誰でも嫌になるだろう。しかしそれでも今は舞台の上だ、と必死に言い聞かせ笑顔で口を開く。


「なるほど、分かりました。つまり、私は聖女ではないただの一般人ですね」

「はい、言ってしまえば聖女様のおまけ、ということになりますね」


(笑顔で言うことかこの野郎)


 言って欲しくなかった言葉をストレートに言われて心の中で思わず突っ込んだ彼女は挫けそうになるのを全力で保ち、そしてそれを一切表に出すことなく笑みを浮かべた。

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