第2話
制服に身を包んだソフィアはドアを開け、廊下へ出る。
「あ、」
「あら」
同時に、隣の部屋からも人が出てくる。
先ほど、青い髪の男が出てきた部屋からだ。
「おはよう」
「おおおおはようございます」
「なに慌ててるの……?」
漆のように黒く輝いた瞳で慌てふためくソフィアを覗き込むのは、背の高い女だった。彼女は肩に乗った黒髪を背中に降ろし、
「もしかして、昨日騒ぎすぎちゃったかしら。ごめんなさい、しばらく両隣の部屋が空いていたものだから、気にすることも忘れていたわ」
「い、いいえ!そんなことないですわよ! 昨晩はぐっすり眠りましたとも!」
「そう? それならいいのだけど」
でも、今後は気をつけなきゃいけないわね、と付け足す隣人に、ソフィアは何に気を付けるのかとは問えなかった。
聞いてしまえば墓穴。ソフィアの純情な精神は朝方からの詮索ですでにキャパシティギリギリ。ただの予想や妄想でこれなのだ。事実を突き付けられたらどうなるのか。思春期の好奇心よりも胸焼けが勝ってしまっている。
「ねえ、よかったら朝食をご一緒できないかしら?」
「え⁉」
どうしようかと、一瞬で迷いが生まれた。部屋を出た目的はまさに誘いの通りで、こちらの予定を崩すことは一切ない。だが、これ以上この女性と話をしていると知りたくもない情報。それも、今後の寮生活に支障をきたす類のものが与えられそうで、避けたい気持ちもある。
「その、お誘いは嬉しいのですが──」
今のソフィアは胸焼けを起こしている。それは、隣人の性生活を勝手に妄想したおかげだ。決して、脂質の摂取しすぎなどではない。つまるところ、胃は空っぽのままだ。
腹の虫が食事を要求する。
「はうっ」
慌てて腹を抑えるソフィアに女は微笑んで、
「決まりね。入学式まで時間もあるわ。ゆっくりお話しましょ」
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