第18話

 前言撤回。

 やっぱりクソだ。

 機関銃の弾丸が背にした車の側面に穴を開けていく。

「こんな話聞いてないっ」

「俺だって知るか」

「お前が応援を待たないから」

「お前じゃない。バーンズだ。名前くらい覚えろ」

 半眼で見合ってからどちらともなく舌打ちをついて嫌そうにため息を吐いたのまで重なったところで弾丸が頭の横を過ぎていく。牽制で引き金を引くが明らかに劣勢を期していた。

「くそ。オリビアがいれば。なんであいつは休んでるんだ」

「俺が知るか」

「相棒じゃないのか」

「相棒だからってなんでもかんでも知ってなくちゃいけないのか。なにも話そうとしないのは向こうだ」

「⋯⋯ふぅん。へぇ。お前たちうまくいってないのか」

 バーンズのさも知った風な上から目線の表情に苛ついて、敵の脚に弾丸を打ち込む。

「それはあんたも同じだろう」

「あ?」

「オリビアが好きなんだろ。ああ。あんたの場合相手にもされていないか」

「な、なななななにを言っているんだ。俺はオリビアのことなど」

「噛み過ぎ。よくそれでそばにいれたな」

「うるさい、お前には関係ないだろう」

「さあどうだか」

「なんだその答えは。⋯⋯まさかお前あいつとなにか」

 愕然とした顔で言葉を彷徨わせるバーンズの表情に妙に気分がいい。

「さあ」

 ないと言えば嘘になるがオリビア自体覚えてないんだからないも同然だったがこいつにそれを話すのは癪だったので言わないでおいた。意味ありげににやりと口角を上げれば口をぱくつかせて間抜けな顔をしている姿に少しばかり胸がすっとして、引き金を引いて抗戦する。

 我ながら大人気ないとは思うが悪いこととは思わなかった。

 嘘ではなかった。

 少なくとも俺の中では。

 ひとりふたりと敵を倒してはいるがそれは足止めにしかならず背にした車の側面に銃痕を増やすのみだった。

 廃車工場跡地にはいくつも車が積み上げられ逃走ルートなんてものは地に理がある向こうに容易く塞がれていた。

 おまけに機関銃で追いかけられれば散らばった連中に居場所が知らされる。

「さっさと出てこいよ。お互い弾は無駄にしたくねえだろう」

 ひときわ声を張り上げた男はやたらとテンションが高く頭部に撃ち込んでいくと操作していた主の重みが機関銃に加わり連弾と遠くの方で被弾したらしき声が上がっていた。

 まさかこちらの情報がもれているとは自身が窮地に立たされようやく理解した。

 敵地に乗り込んだもののこちらにはじゅうぶんな装備品はなくその場で抗戦しつつ退路を探していた。

 その場で武器を調達しつつ凌いできたが工場に身を潜めたのが悪かったと自身に舌打ちを向ける。

 いくつかあったハンドガンの内最後の銃に予備を差し込んで銃弾の合間で確実に撃ち込んでいく。おそらくバーンズも似たようなものでこのままではやがて弾は尽きるだろう。

 なにかないか。

「なあ」

「なんですか」

「お前が持ってる弾全部寄越せ」

「なにか策でも?」

「ない。お前は逃げろ」

「嫌です」

「ああ?」

「まずあんたの命令なのがむかつく」

「そんなことを言っている場合か」

「なにを今更まともな大人ぶってるんですか。最後まで付き合います。あんたに死なれてオリビアが悲しむのが嫌なんで」

「⋯⋯お前、ほんと根性悪いな」

 じっとりと目を細められ向けられた視線を受け流し「それはあんたも同じでしょう」敵の足元に撃ち込んでいく。

「こっちは死ぬ覚悟まで決めたんだが」

「寝覚が悪いこと言う暇があるならさっさと策を練ってください」

「お前弾はあといくつあるんだ」

「予備がひとつと、えーあと6発」

「奥の奴仕留められるか?」

「ああ」

「まさかお前と死線を共にするとはな」

「最期に見るのがあんたの顔なんてこっちだって嫌ですよ」

「ジルレネット」

「なんですか、まだ」

「まあ、精々背中は任せた」

 続く言葉は消えてバーンズに向けられた言葉を了承するように唇が緩んでいた。

 劣勢を期してはいたが妙な高揚感で満ちていた。

 頭が的確に敵の居場所を知らせていく。

 考えなくてもわかる。

 身体が反射的に動いて勢力を三割ほど削いで逃げ出せるだけの道を作り武器を調達して弾を装填する。

「ジルレネット!」

 張り上げた声に考える間も無く銃弾の雨を突っ切りバーンズの背中を追いかける。

 振り向くことなく伸びた銃口が顔側面をそれて、後ろでなにかが弾けた音と遅れて崩れた音が聞こえた。

「馬鹿野郎殺す気か」

「うるせえお前がちんたらしてるからだ」

 続け様に数発横切り背後を振り返ればドラム缶に打ち込んだ弾が起爆剤となり「まずい逃げろ!」「証人がっ」「言ってる場合か!」ドラム缶は膨らみ弾けて爆風を伴って燃え上がった。

 窓に走り込んで脚からダイブすれば割れた窓硝子から爆風によって外へと投げ出された。

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