第7話
夜遅く自宅へと入ると壁を隔てた向こうから女性が艶やかな声を乗せたハートが飛んできてげんなりして八つ当たり気味に荒々しく音を立ててクローゼットを開けると服や鞄やアクセサリーが綺麗に整えてあった。
ごめんね、使わせてね。
ミラに心の中で断りをいれてその中から黒地のワンピースを手に取り鞄に詰め込んだ。ついでにと下着や着替えや黒のヒールを詰め込んでパンパンに膨らんだ鞄を担いで部屋に出て鍵をかけていると隣から慌てたように音を立てて出てきた男はこちらに目が合うと少しだけ目を逸らしてから「どっか行くのか?」と訊いてきた。
「それがなにか?」あからさまに嫌そうな顔を向ける。
「⋯⋯できれば、一緒に寝てくれないか?」
はあ?なに言ってるのよこの男は。今し方楽しんでた男となにごともなかったように寝ろと?嫌よ。馬鹿じゃないの。声にできない言葉に苛ついて「一緒に寝てくれる人はいるでしょ」と部屋の中に視線を向ける。それにジルは少しだけ考えるように宙を見てから「あー⋯⋯あれか」となんでもないような顔で少し考えてから「あれは動画で抜いてただけで部屋には誰もいない」「ああ、そう」だから女性の声だけだったのかと納得してから改めてジルの発したその意味に気づいた。真顔で顔を突き合わせてそんなことを言われて反応に困ったのはほんの数秒で「私急いでるから」と言い置いて踵を返し足早にその場を後にする。
階段を駆け下りて車に荷物を積み込んで車を走り出した。
大通りに出て交差点をいくつか過ぎてから路地に入って車を止めてからハンドルに身体を預けて盛大にため息を吐く。
ジルの口からあんな言葉を聞くとは思わず答えるだけでいっぱいいっぱいで逃げる様に置いてきてしまった。
だってあんなのどう反応すればいいのよ。
今までそんな話をしたことはなかったしあんなことを言われて一緒に寝るのも躊躇うしあいつはあいつで平然な顔してるし馬鹿じゃないの。
正解などわからず覗き込んだミラーには顔を真っ赤にしたあどけなさが残る少女の顔が見えた。
ジルは、もしかしてこういう顔の子がいいのかしら。
⋯⋯複雑だわ。
相棒の踏み込んだことのない姿が見えた様な気がしてため息を吐く。
しばらくあの部屋に帰るのはやめよう。
エンジンをかけて建物へと横付けして鞄を担いで階段をのぼり部屋へと辿り着いた。壁に備え付けられたクローゼットに鞄の中身を出していく。明日に備えて汗を流して早めに眠りについた。ベットに入ってから眠れられずにいたので酒に伸ばした手を止めた。昨夜の失態を思い出したからだ。
ベットに倒れ込んで悪態をつくしかなかった。
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