劣勢………
魔法使い君は勝ち誇ったように言った。
「僕達にタンク役が居なかったことに気が付かなかったのかい?」
魔法使い君の顔は不愉快でしたが、納得しました。あの僧侶の少女は優れた結界を張れるのでしょう。この後の展開は読めました。安全な結界の中から魔法を放つのでしょうね。結界はお互いの魔法を防ぐ壁ですが、結界の側で『魔法を結界の外に構築』すれば安全に魔法を放てます。結界と言う壁一枚の前であれば可能でしょう。
「これでお前は─」
「あ~、それ以上はいいです。結界の中から魔法を撃ち放題と言うのでしょう?弱い貴方のすることは読めましたから」
シオンは言いきる前に声を被せていった。
「くっ、何処までもムカつくヤツだ!こいつの結界は強力だぞ!僕も魔法で応戦するからお前に勝ち目はないんだ!」
「ハイハイ、わかりましたから早く続きを始めましょう」
本当にこの魔法使い君は無能ですね。喋っている間に魔力を練らないのですから。実戦で戦っているのですから、少しでも空いた時間があれば体内で魔力を練って溜めることで、次に強力な魔法が放てるのですよ?これから攻撃しますと言ってから魔力を練っていては遅すぎるのです。
シオンはそう言って、溜めていた魔力を使い魔法を放った!
「怒れる大地よ!我が声を聞け!愚かな者に裁きの鉄槌を!『アース・ドライバー』!!!」
地面からシオンの前に5メートルはある円柱の岩が現れ、回転しながら魔法使い君に向かって飛んでいった。
「わぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!」
余りの強力な魔法に結界があるのも忘れて迫りくる『ドリル』の岩に悲鳴を上げた。
ガガガガッッッッッ!!!!!!
結界を削る音が鳴り響いた。
「ゆ、ユーリ!結界を強化しろ!?や、破られるぞ!」
結界を壊している間に、場所を移動すれば良いのにパニックって逃げる事も、魔法で応戦する事を忘れ迫りくるドリルに目が離せず恐怖に身を縮込ませた。
『本当に弱い子。しょせんは弱い者虐めしかできない者ね。ジャガー王国の民の痛みを知りなさい!』
シオンが魔力を強めると結界が壊れ、魔法使い君を貫き絶命させた。
多少のタイムラグはあるものの、主力の3人を倒したシオン達は残るは僧侶のユーリと呼ばれた少女だけだった。
「後は貴女だけよ!投降しなさい!」
無口な可憐な少女であっても、起こした出来事の責任を取らなければならない。ユーリははにかむように微笑むと、初めて口を開いた。
「………感謝しますわ。これで条件が整いました♪」
静かな声であったが、不思議と辺りに響き渡った。
「どういうことだ?もう貴様1人だ!投降しろ!」
カストルとシオンが捕縛しようとユーリに近付いた。シオンは魔法をいつでも展開できるように準備していた。そんな時、予期せぬ出来事が起こった。
「グハッ!!!?」
!?
後ろを振り向くと、カウスが剣で貫かれていた。
「お父様!?」
「親父ーーーーー!!!!」
カウスを貫いた剣が引き抜かれると、カウスはそのまま地面に倒れた。そして、カウスを刺した人物は…………首が無かった。
「バカな!?首を跳ねられてどうして生きている!?」
ライガとエリザも驚愕した。急いでカウスの元へ向かおうとしたカストルにユーリが囁いた。
「あら?ダメですよ?意識を逸らしては?」
「がっ!?」
カストルの背中にナイフが複数刺さった
「お兄様!?」
「私の事より親父を!」
傷の具合からカストルは大丈夫と判断し、カウスの元へ駆け出した。その間に、ライガとエリザは首なし冒険者ブレイブを吹き飛ばした。
「カストル様!」
「英雄殿!?」
微かに息のあるカウスにシオンはすぐさま、最上級回復魔法を掛けた。
「お願い!間に合って!?」
シオンが手当てで動けない中、エリザはカストルのもとへ駆け出していた。
「カストル殿、大丈夫か!」
カストルは片膝を着いているものの、目の前の敵に意識を集中していた。
「………大丈夫だ。深手ではあるが致命傷ではない。何とか親父が回復するまで奴らを足留めするぞ!」
カストルは収納袋からポーションを飲み、応急手当てをした。
「あら?収納袋なんて高価な物を持っているのね」
ユーリの側には黒焦げになったアンジェが立っており、カストルにナイフを放ったのだった。
「あ、あんな状態でどうして生きているんだ!?」
思わずエリザが叫んだ。
優勢だった状況が、一瞬で劣勢になったのだった。
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