やっと就けた天職を理不尽な差別と裏切りによりクビにさせられてしまった話をしようではないか
夜勤というものを知っているだろうか。普通の人が働きたくない時間にそれでも働かなくてはならない業種がほんの少し高い給金で20時から4時くらいまで働かせるやつのこと。
私はそういう夜勤しかできないタイプの人間だ。朝8時に会社に着くとかむりむり。
…………夜勤しかできないというのは本当に辛い。しかも人間たちは私の容姿で差別をしてくるのだ。全く酷い。
………比喩ではなくストレートにいうと、私は吸血鬼なのだ。
日光を浴びたら即死するわけじゃないけれど、やっぱり万全のパフォーマンスを発揮できるのは夜。そんなわけで昼は室内に篭ったり寝たりして夜に働く。これこそ現代社会にマッチした生き方だ。
…………しかし、ここで吸血鬼というのが足を引っ張る。
何故かって? 若い容姿のまんまだから。具体的にいうとちょっと子供っぽい高校生か大学生に見えなくもないかなあ……くらいで中学生の中に紛れる事ができなくもなくもなくもない程度。だから就ける仕事は少ない。いくら顔がいいからって水商売の類とかそういう接待とかやりたくないし、単純作業は疲れるし、そうなると。
「しねーい!」
ぐしゃ、ぐしゃ。と緋色の魔槍が巨大な蝙蝠風味の魔性のどでっぱらに風穴を開ける。
そして続け様に血液の弾丸が、飛び去り逃げる形容し難き生物の脳天を貫いてはぼとぼとと落としていく。
「あっはっは! くたばれー!」
やっぱり吸血鬼パワーを存分に発揮できる対魔物の夜警こそが天職だろう。
そして今回の標的は通り魔吸血鬼。つまり同族だ。
「おのれ! 人間に従うなぞ恥を知れ!!」
「恥より金! あと娯楽!」
まあ仲間意識とか全くないし、私どっちかと言ったら人間社会の歯車だから罪悪感も覚えない。さっくりと心臓を刺して、
「これで今日の仕事終わりー」
私はなんか血統がいいのか生まれつきすごく強い。あと大して美味しいものを食べれてない現代の野良怪異と比べたら栄養状態もすごくいい。格下を狩るだけでそこまで多くはないとはいえ金が得られるなんて私は超ラッキーだ。
しかも最近は夜でもやってる店が多い。サービスも多い。ふー! 現代ってサイコー! 棺桶から目覚めてよかったー!
…………そう、先日までは思っていた。思っていたのだ。
街を襲っていた龍を何匹か殺した次の日、私は本部と呼ばれる夜警の基地にお呼ばれされた。
そしてそこそこ広い会議室的な個室に……一人、メガネをかけた神経質そうな男の人がいる。
「ええと、君。名前はなんだったかな?」
「夜警のアサガルハルテルマリルシャハラだ。長いからシャハラでいい」
「ああ。シャハラさんで間違いないみたいだね。うん。私はケイン。……とりあえずそこの椅子に腰掛けて」
……やはり。昇進だろうか。昇級だろうか。昇給だろうか! ふふふ、この男。見たことがある。確か現在私が所属してる組合の幹部とかそんな感じだったはず。
そもそも私は結構仕事してる割にそこらへんの警備会社よりちょっといいくらいの報酬しか貰えてないし、ボーナスも貰えてないのだ。
「…………そう。この世界には様々な超存在がいます。それから弱き人々を守るのが力を持つ私たちの使命なのですよ」
「あ、そうですね」
長話をされて、だいぶ眠くなってきた。全く、早く本題に入って欲しいものだ。
「ですがバケモノを容易く狩る存在はバケモノを超えるバケモノでしかありません。そしてあなたは善のものではなく、享楽に耽りいつ爆発するかもわからない火薬庫です」
メガネをくいってやりながら、なんか失礼なことをぬかしやがる。
「……シャハラさん。あなたの力は危険すぎます。吸血鬼であるというだけで、秩序を乱す異分子でしかないのにあなたの性は腐り果てています。……もうしわけありませんが、死んでください」
「え」
唐突に拳銃が向けられ、天井からは音を立てて無数の杭が降り注ぎ、銀色の銃弾が放たれ━━
「うおわあっ!?」
咄嗟に避け、返す槍で牽制の為にケインの腕を刺し壊す。全く何をしやがるんですか。
「ぐ……が……あば……」
………………あ、やべ。下手に相手が避けちゃったせいで、そう。私は全く悪くないけど胴体に突き刺さっちゃって。殺しちゃった。これは人間が脆いのが悪い。
……しかし正当防衛とはいえ組織の幹部を殺してしまった。これはまずい。うっかり見られたら誤解されてしまう……。
「……よくもケインさんを!」
「この場所なら吸血鬼は力を発揮できまい! 数で押しつぶすんだ!」
「うわまたきた」
ドアを蹴破り武装した兵隊が沢山流れ込んできた。これはまずい。まずい。本当に私を殺そうとしているやつじゃんこれ。しかも機関銃とか散弾銃とか痛いのばっか。
とりあえずパンチで無謀にも突貫してきた何人かぶち殺し、ついでにゾンビにして弾除け代わりと同士討ちするように任命。
…………幸い人数も二桁程度だったし罠も小細工程度だったので容易く突破できた。しかしまあ同じ職場の人間だというのに悲しいものだ。思い入れはないけど。
さて……ここからどうするか。全員燃やしてしまえばいい感じに証拠隠滅できて━━
「今物音が……きゃー!? し、しんで━━」
「うわやべ」
目撃されてしまったので、とりあえず事務員の人を逃げられる前に瘴気の霧で窒息させる。もしかしたら死んだかもしれないが、今はそんな場合じゃない。
「くそっ! ゆるさねぇ……とりあえず退職金奪ってくるか」
まさか私のような優秀な人材を暗殺しようとする悪徳組合だとは。もういられない以上は鬱憤を晴らしてやろう。
「ひ、ひぃ! 命だけは奪わないでくれェ!」
「わかった。命以外は全部奪うし、お前は串刺しにした上ゾンビにして死なない程度に日光浴させてやろう」
「そ……そんな……」
ひゅー。ムカついてたからかなんか悪い奴みたいなこと言っちゃったな! まあとりあえず金かき集めて、この基地から逃げてしまうか!
「と、いうわけでヘイトに溢れたブラック企業から逃げてきた」
「うわー。バイオレンスー。君悪名高いからね、やっぱ抱え込むよりぶっ殺したほうが世界のためって判断されたかー」
居場所がないし、なんか基地から逃げても追手がたまにくるものなので、数百年前くらいの旧友のところにきた。しかし旧友はなんか他人事的だ。全く失礼な。
「とりあえず国籍変えて普通の警備会社とかに勤めたら?」
「ええい! 最初に言ったけど私の容姿を見て採用してくれるところ本当に少ないんだってば! 全く差別主義者の人間め!」
「じゃ、吸血鬼とかその辺の組織に入ったら?」
「沢山仕事したせいで向こうにも逆恨みされている! 同族だというのに!」
うう、本当に辛い。まあ生きるだけならその辺の人間を吸えばいいだけだが、娯楽を知ってしまった以上金が欲しい。やっぱり銀行強盗しかないだろうか。
そう思いつめていると、友は仕方ないなあって顔で、
「じゃ、僕にとっておきの解決策があるから……」
…………そういって、一枚のカードを手渡してきた。これは━━━━
「風俗の紹介状」
「やだ!!!!」
「じゃあ家政婦」
「無理!」
「僕のお嫁さん」
「お前ー!!」
…………私は一体、どうすればいいのだろうか。
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