第二章~Get along~②
「えっと……いきなり、そう言われても、ちょっと、ナニ言ってるかわからないです状態なんですけど……それは、オレに放送部に入れってこと? そうなると、時間の都合上、ちょっと……」
難しい、と秀明が続ける前に、昭聞は言葉を遮り、説明を加える。
「ああ、ゴメン! 説明不足やった。今回の企画は、出演者を『放送部以外からも募集する』ってコンセプトもあって、それで、おまえに頼みたいんやけど」
「そうなんや。う~ん、けど、いきなり言われてもなぁ」
放送室内の緊張感は解けたものの、秀明は苦笑して、そう言った。
すると、昭聞は、こんな話しを始めた。
「なあ、秀明。スティーブ・ジョブズってヒトを知ってるか?」
「え~と、アップルコンピューターの創業者やった?」
「そう、PCのMacな。そのジョブズが、ペプシ・コーラの事業部の社長をしてたジョン・スカリーを自分の会社にヘッドハンティングする時に、こんなことを言ったらしい。『このまま一生、砂糖水を売り続けたいのか? それともわたしと一緒に世界を変えたいのか?』って。秀明、昼休みにいつものメンバーと話すのも楽しいやろうけど、アニソンをリクエストして仲間内で楽しむだけで満足か? オレと一緒にお昼の放送を変えてみようと思わへん?」
多弁で口は悪いが、いつもクールなタイプだと思っていた昭聞の熱っぽい口調を意外に思いながら、秀明は
「珍しく熱いやん、ブンちゃん」
と口にする。
「なあ、秀明。オレと一緒にウチの高校の昼休みに革命を起こさへんか?」
「今度は、江夏にリリーフ転向を提案する時の野村監督かい! 革命とか大袈裟な(笑)」
「いま、返事をしてくれとは言わんから、ちょっと考えてみてくれへんか?」
「まあ、考えてみるだけならイイけど。ただ、ブンちゃんなら当然わかってると思うけど……関西弁の『行けたら行く』と『考えとくわ』は、断り文句やで(笑)」
二人で、そんな応酬をしていると、
《ザザッ!》
と、スピーカーから雑音がしたあと、不意に、コンコン、と放送室のドアをノックする音がして、「失礼します」と一人の女子生徒が入ってきた。
自分たち以外、誰も来ないと聞いていた秀明は、見知らぬ生徒の入室に驚きながらも、彼女の制服のネクタイや校章を目にとめた。
(青色のネクタイと校章。ってことは、一学年上の二年生か)
「あ! あきクンと、お友達だけ?」
彼女のそう問う声に、
「はい! 翼センパイ! 紹介します」
と秀明に向けて手をかざし、昭聞が続ける。
「クラスメートの有間秀明です」
「どうも、どうも。キミが、あきクンのクラスの有間クンか~。話しは、いつも聞いてるよ~。私は二年の高梨翼。よろしくねぇ」
自分の戸惑いをよそに進められる会話に何とか追い付こうと、
「あ、どーも。よろしくお願いします」
と秀明が返答すると、高梨翼と名乗った上級生は、
「それで、勧誘は上手くいったん?」
と昭聞にたずねる。
「はい! 有間からは、前向きな答えをもらえました!」
そのクラスメートの返答に、
(おい! オレの話し、ちゃんと聞いてたんか!?)
という目線で昭聞に訴えると、
「あ、ゴメンな~。あきクン、強引に話しを進めようとしてるやろ~。他にすることがあったり、イヤやったら、断ってくれてイイから」
そう言って、ゴメン、という感じで小さく手を合わせて微笑み、彼女のショートカットの髪が揺れた。
(なんか、憎めない感じの先輩やな)
高梨翼の穏和な雰囲気に、話しやすさを感じた秀明は聞いてみた。
「放送部の部外者が参加するのは良いとして、僕みたいな入学したての一年が出演しても大丈夫なんですか? 放送部の他の先輩たちの意見もあると思いますし……」
「あぁ~、その辺は心配せんといて。この日替わりの放送の企画は、私が立てたし、出演してくれるヒトのスカウトも任されてるから」
(ふ~ん。しかし、この先輩まだ二年やのに、新企画の全権を任されてるとか何者なん?)
秀明が、そんなことを考えていると、昭聞が、苦笑いしながら説明する。
「翼センパイは、一年の春に放送部に入部してから、ずっと、この企画を実現するために、色々と動いてたんや。ようやく、内容が認められて、企画が実現できそうなところまで来たんやけど、出演してくれるヒトが見つからんのよ」
「放送部の中に、出演してもイイって言ってくれてるヒトは居てないの?」
秀明が質問すると、今度は、上級生が答えてくれた。
「ウチの部は、音楽好きなヒトは多いけど、映画に詳しいヒトは、ほとんど居てなくて。それに、どちらかというと、制作側に回りたいヒトが多いから」
(なるほど! 学生の自主映画なんかで、企画と脚本とコンテは出来てるけど、出演者が居ないパターンか)
秀明は納得したものの、念のために聞いておく。
「ブンちゃんは、それなりに映画好きやろう? ブンちゃんは出演しないの?」
「オレには、『アシッド映画館』で言うところの《ボンちゃん》の役目があるから」
そう答える昭聞に、
(やっぱり、ブンちゃんは、その役目に落ち着きたいんや)
と、予想通りの答えに、秀明は笑みをこぼす。
「まあ、せっかく久々に放課後に学校に残ったので、話しだけは聞かせてもらいましょう」
秀明が、そう伝えると、放送部所属の同級生と上級生は、彼らが企画する映画情報番組(?)の概要を説明した。
・放送時間は三十分
・出演者は二名(予定)
・放送の収録は前日の放課後に行う
・上映日の近い注目映画を紹介する
・直近に注目作が無い場合はレンタル可能なオススメのビデオ作品を紹介する
「はい! 企画の内容は、だいたい、わかりました。ブンちゃんが、何でオレに依頼したのかも、理解できたわ」
秀明が、二人に伝えると、同級生は、「そうか」と安堵した様につぶやき、上級生は、
「有間クンも、あきクンが聴いてるラジオのリスナーやって聞いたから……。出来たら協力してほしいんやけど」
と、先ほどと同じ様な手を合わせるポーズで、今度は「お願い」と、ささやいた。
(最初は、『イヤなら断って』みたいなこと言うてたのに、この先輩、着実に外堀を埋めてきてるやん)
と感じながら苦笑いし、秀明はたずねる。
「ところで、企画書には、出演者二名と書かれてますが、もう一人の出演者について、メドは付いてるんですか?」
「それが、まだなんよね~。有間クン、誰か映画に興味あるヒトに心当たりない~?」
と、この上級生は、部外者に話しを振り返した。
「残念ながら……」
洋画の外国人俳優の様に、大げさに肩をすくめて、秀明は答える。
「そっか~。もう一人のヒトについては、私たちの方で頑張ってみるわ~」
「チカラになれるか、わかりませんけど、ここまで話しを聞かせてもらったし、僕も何か協力させてもらいます」
そう伝える秀明に、
「さすが、秀明! ありがとう」
「有間クン、ありがとう~」
と、二人が感謝の言葉を口にする。
「と言っても……」
一瞬、秀明の脳裏には、クラスメートの女子の顔が浮かんだものの、すぐに、そのイメージを打ち消して、
「あてがある訳ではないので、あんまり期待しないで下さいね」
と答え、ようやく放送室から解放してもらえることになった。
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