第108話エリア

(なんだか、とても、とても温かくて、安らぐ…)


(ずっと、ずっとこのままでもいい…)


そう感じて精神体の優の目が、薄っすらだが開いた。


でもまだとても眠くて、指一本動かすのすら辛い。


それでも、目の前に小袖越しの逞しい男の胸があり、自分がその男に抱かれて布団に横向きに寝ているのがようやく分かりギョっとした。


そして、だるい体でゆっくり顔を上げると、想像していた通り、精神体の朝霧がいた。


しかも、生まれ変わりの、あの朝霧だ。


何故か、優にはすぐ分かる。


優と朝霧の視線が合う。


「朝霧さん!朝霧さん!」


優は、疲れて動き辛い体で思わず朝霧に抱き付いた。


「えっ!!!」


あの、朝霧が、酷く焦った高い変な声を出した。


優はその反応に、朝霧の胸に埋めていた顔を上げようとした。


だが…


その動きは封じられ、今度は朝霧が、優を強く抱きしめた。


やっと会えたと…


優も、朝霧の胸に更に擦り寄った。


又、朝霧の背中がピクリと反応した。


二人が居たのは、魂、精神だけが存在出来る区域。


そして…


その魂が、まるで体を持つかのごとく実体化する。


二人は何故か、同じ時、助けを求めた村にいた春陽と前世の朝霧と同じ格好で、村の長から提供されていた物と同じ見た目の布団の中にいた。


辺りは、まるで雲海の中のようにただただ真っ白で、布団の下はフワフワしている。


優は、体を江戸時代に置いたままで精神だけになって、春陽の体に入ったり乗っ取ったり、かと思えば出たり本当に忙しい。


しかも、それは優自身やりたいと思いさえすれば出来るモノでもない。


でも、そんな事は今は後で良かった。


それに、互いに言いたい事は山ほどある


しかし、


互いに言わなくても分かる事も沢山ある


この瞬間は二人そのまま、ただただ暫く抱き合った。


やがて…


朝霧の速い胸の鼓動をずっとずっと感じていたいと、優は男同士なのにと思い戸惑いなから、おずおずと口を開く。


「俺が…春陽さんの中に居たように、朝霧さんも、前世の朝霧さんの中にずっとずっといたんですよね?」


「ええ。ずっと前世の自分の中に居ました。そして、ずっと春陽様の中にいる貴方の傍に居ました…」


クールな容姿の朝霧の声が、甘く、とろけるように優しい。













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