第81話獣背の罪のイーリーアース(預言者)
風を切り春陽は、山の原初神のような獣の背に乗り夜闇を走る。
すると、松明を手に、守衛武者の一人と雪菜を探す春頼が見えた。
春頼は無論、雪菜の事も心配だったが、やはり春頼の頭の中のほとんどを占めているのは、兄、春陽の事だ。
(兄上!兄上!待っていて下さい!)
そう、何度も何度も、何度も…心の中で呟いて、飲み込まれそうな闇の中をひたすら進んでいた。
「春頼は、どうする?」
小寿郎が聞いてきたので春陽は、この獣が、何故、どこまで春陽自身の身の回りの事を知っているのか又気になりつつ答えた。
「そのまま行ってくれ!」
「そう言うと思ったぞ!」
謎の獣が前を向いたまま、又呆れたように笑った。
(春頼!お前の事も巻き込みたく無い!
)
そう思った春陽は、小寿郎に跨がったまま春頼を追い越し、背後にし先を急いだ
。
だが…
(気の所為か?今、兄上がいたような…まさか…まさか…兄上?!)
春頼は、黒く連なる木々の間にうっすらだが気配を感じた。
春頼自身、とうに自覚はしていたが、幼少時から春陽の事には敏感だった。
そして時には、それは仕方無い事なのだと一人自嘲する事もあった。
春頼の一日は、朝起きてすぐ兄、春陽を想い出し…
昼は、兄の為に懸命に働き…
夜は、目を閉じる前、兄を又想い出す程なのだから…
春頼は、嫌な予感にその美貌を歪めると
、武者と慌ててその後を追った。
その頃、朝霧は汗に塗れ、春陽を探し、喉が潰れそうな位必死でその名を叫んでいた。
日頃から武士の心得として朝霧も常に冷静沈着を旨としていたが、そんな事はとうにどこかに飛んでいた。
そしてその心は、直に手で握り潰されているかの如く苦しみに喘ぐ。
(ハル!ハル!何処だ!何処だ!頭がおかしくなりそうだ!)
そこにふと、一陣の強い風が吹いて来たので立ち止まった。
「ハル?ハル!!!」
どうしてか?
その風が吹いた方向に春陽がいる気がして朝霧は、又叫んで方向を転換して走り出した。
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