第33話

 馬車は中心街を通り、街から逸れていく。

 拷問した男と避難させた男の言葉を合わせるとキャメロン・コナーは銃を売買しているらしい。

 以前、貴族とカルテルには癒着があると耳にしたことがある。

 それがおそらくキャメロン・コナーだったのだろう。

 表向きは政財界に名を馳せた名門貴族が先頃では銃の売買に関与しているというのは裏の人間からすればそれは往々にしてよくある話だった。

 銃を売り捌いていること自体はよく聞くがそれがカルテルに流れるのとでは話がちがってくる。

 暗黙のルールとして銃を流すにはそれ相応の許可が必要となる。

 アレハンドロに依頼が回ってきたということはつまりカルロスと名を使っている人物、おそらくキャメロンコナーは誰かしらの礼を欠いたのだろう。

 まったく、面倒なことを押し付けられたものだとアメリアはため息を吐いた。

「ところで」狭い馬車で膝を突き合わせた向かいに座る男は切り出した。

「想い人とはその後どうですか?」

「はぁ?」

 なにを切り出したかと思えば。

「旦那様以外に想いを寄せる方ができたので契約を破棄されたんてすよね?」

 彼は、私にそんな人物はいないだろうことがわかっていて口にしているのだとその詰め寄る声色によって直感的に理解した。

 けれど、私が王女様の身代わりだっただなんて口にしたくない。

 それともスペンスは初めから知っていたのだろうか。

 第一、クラウス様もクラウス様よ。

 はじめからそう言ってくれたなら割り切っていられたのに。

 クラウス様が変に恋人のように扱うからこんなことになるのよ。

 どうせクラウス様は私のことは気にも留めていないでしょう。

「会いにこないんだから私がどこの誰とどうなろうが知る権利はないわ」

「それは、会いに来てほしいということですか」

 真っ直ぐと見据えられてアメリアは言葉が出て来なかった。

「つまり、アメリア様のお相手なる人物のことは旦那様ほどお好きではないと」

「ええ、そうよ」

「……へぇ、認めるんですか?」

「悪い?」

「いいえ。ではどうして出て行かれたのか伺っても?」

「……クラウス様と王女様がベッドにいるところに出会したのよ」

「王女様とは、まさか、トリシア様ですか?」

「ええ」

「いつそんなおもしろいことに、……おっと、失礼。いつそんな事態に?」

 前のめりに興味を示し目を爛々とさせている。

 他人事だと思って楽しんでるわね。

「お茶会よ。帰ろうと思ってクラウス様を探したら騎士団の宿舎でおふたりがそうなってたのを見てしまったのよ」

「それはつまり……」

「クラウス様がトリシア様をベッドに組み敷いてらしたからそういうことでしょう」

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