2月
私は一月はあっという間に過ぎてしまったように感じたが、彼(山下君)にとっては違っていたようだった。仕事始めから数週間、彼の営業成績が変化していた。飛躍して伸びたというわけではないので、当初、他の営業部の人は気にしていないようだったが、何かが大きく変わっていた。3週目あたりから山下君宛の問い合わせ電話がきていた。飲食店や物販店など様々なお客様から契約を獲得していたのだった。2週間の無料レンタル完了後に契約となるので時間はかかるのだが、1月末には他の営業と同じくらいの新規契約件数を上げていたのだった。
直属の上司である丸山さんは「俺の指導がよかった」と自画自賛していたが、本当にそうなのだろうか?なぜ、彼の努力をすぐに認めてあげないのだろう?きっと、彼は年末年始の休み中だって仕事のことを考えていたに違いない。のほほんと休んでいた私やあなた達とは違うんだ!
「涼子ちゃん、顔…こわいよ」
真澄さんの声を掛けられハッとした。少し離れた所で話している丸山さんたちを酷い顔で見ていたんだ。これは怒り?「私のお陰だ」と言いたい嫉妬?手柄を取りたがる男性社員と私も大して違わない。きっと私も心のどこかで「天崎さんのお陰です」って言ってほしいんだ。本当に私は小さい…。
2月になり、弊社「OTAMESHI」の期末決算が近くなることで会社全体がピリピリし始めた頃。真澄さんは4月入社の準備と、翌年の求人手配に忙しくしてる。私も決算に向けて忙しくなる。期内に処理しようと様々な書類が一度に届くのだった。もっと分散して書類をよこしてくれたらもっとスムーズに仕事ができるのに…、と毎年思うのだった。
そんな中、私のアドレスに一本の社内メールが届いた。
差出人は「山下泰二」。
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天野さん
年末は本当にありがとうござました。
あれから自分なりにいろいろ考えて仕事に取り組んでみました。
天野さんの言うように「他の人との違い」を十分理解し、「自分の個性」を客観的に捉えることで、今年に入り仕事が面白くなってきました。
一時は退職も考えていた中で、天野さんにお話しを聞いて頂いて、頂いた言葉に「甘えるな」と頬を叩かれた気がします。
これまでのボクは、学生気分が抜け切れていなかった所が多々あったと思います。でも今は、社会人として一歩踏み出せたと実感しています。
全て、天崎さんのお陰です。ありがとうございます。
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何度も何度も読み返した。≪天崎さんのお陰です≫という言葉に口元が緩んでしまう。同時に、あの階段で下りて…声をかけてよかったと思わずには言われなかった。
さらに、文章は続いていた。
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つきましては、またお話を聞いて頂きたいことがあるのですが、お時間を頂けないでしょうか?
もし、2/21(土)のご都合が宜しければ、一日お時間を頂けないでしょうか?
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来週の土曜日?
≪一日≫とはどういうことなんだろう?
しかし、これはどうしたら…?それにその翌日は…。
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