第53話 勝手にプロファイリング

「普通ですよ。特に何をやっているわけでもありませんし」

「それはもうズルよね。スタイルを維持するには、食事や運動。見えないところで、努力が必要だもの」


 寝室に近づいた所で聞こえるのは、会話をする美月とハルノの声。


「大きければ良いってものでもないよ。肩だって凝るし」

「そんな贅沢な悩み。こうしちゃえ!!」


 続き聞こえてくる葛西さんと彩加の声から、騒ぐ音は一段と増した。


 ったく。仕方ないな。やっぱり注意しないとダメか。


「何をやってるんだよっ!? 家の中どころか、外にだって声が漏れてえぇ…………えぇ!?」


 注意しに寝室へ入ると、そこには下着姿で戯れる女性陣がいた。


「あの。えーっと。これは……」

「きゃああああああああ――――――――ッ!!」


 悲鳴とともに、飛び交う枕。一つ二つと頭に顔と直撃し、体は衝撃で戻されてしまう。


「話を聞けって!? これには理由があるんだっ!」

「理由も何も覗いてないで、早く出て行きなさいよっ!」


 弁解の機会を求めるも、ハルノの反論によって撃沈。

 枕に続き投げつけられるは、目覚まし時計や卓上カレンダー。物の硬さが増しては強制的に、寝室から追い出されてしまった。



 ***



「くうぅううう〜! そんな羨ましい光景を見られるなら、オレが注意しに行けば良かったじゃん!」


 啓太は自身で行かなかったことを、指を鳴らし後悔していた。


「それどころじゃねぇよ。早く誤解を解かないと、覗き魔のレッテルが貼られちまう」


 先の展開を考えれば、どんな対応を受けるか。次の手を間違えたらと思うと、今までになく鬱な気分だった。


「で、どうだった?」

「どうだったって。何がだよ」

「んなの決まってんじゃん。寝室の様子だよ」


 こちらの悩みは他人事のようで、啓太の興味は寝室の女性陣へと移っていた。


「見たんだろっ!? それがどうだったって、話じゃん!」


 啓太は鼻の下を伸ばして、女性陣の様子を問うている。


「んな余裕はほとんどなかったよ。寝室に行った目的は、注意だったんだぜ。覗きに行ったわけじゃないんだから、簡単に意識が回るはずもないだろ」


 寝室には服を脱ぎ、下着姿の女性陣がいた。

 しかし突然のことで、弁解に必死。まじまじと見ているような余裕は、全くと言っていいほどなかった。


「蓮夜。ここは正直に言うところじゃん。どうしたって、見えた部分はあるでしょ? ほら。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいたとか」


 諭すような口振りで言う啓太は、穏やか中でも真剣な眼差しを向けている。


「そりゃあ……まあ、多少はな」


 不可抗力で見えた部分があるのも、たしかに事実。


「やっぱり見てんじゃんっ!? このムッツリスケベぇめっ!」


 ついに白状したかと責める啓太は、鬼の首を取ったかのようであった。



 ***



「ったく。羨ましいよなぁ。蓮夜ばかり良い思いして」

「そんなことねぇよ! あとでちゃんと誤解を解かないといけないし。そう考えると普通に……気が重いぜ」


 気楽な啓太と違って、こちらはそれどころではない。

 正直な話。変れるものなら、変わってほしいくらいである。


「でっ! 結局のところ。蓮夜はどの子がタイプなんだ?」


 と言う啓太の質問から、好みとする女性の話へと移行した。


「うーん。タイプって言われてもな。こう言う質問って偶に聞かれるけど、普通に難しくないか?」


 外見を言っているのか。内面を言っているのか。全てを総合考慮して言っているのか。

 考えれば考えるほど、答えは出なくなってしまうものである。


「そりゃあ真面目に考え過ぎなんだよ。可愛い子が好きとか。優しい子が好きとか。芸能人だと誰が良いとか。深く考えずに、適当に答えれば良いじゃん」


 啓太は簡単に言うものの、浮かばぬときは浮かばぬもの。


「なら、啓太はどうなんだよ?」 


 となれば反対に、意見を聞くことにした。


「オレか? 言うなれば、大和撫子みたいな人がタイプかな。清楚で美人。一歩後ろに下がって、男を立ててくれるつっー感じの人!」


 啓太は言葉に詰まることなく、自身のタイプを公表した。


 少し意外だったな。今時の子というよりか、古風。

 派手な啓太とは、真逆って感じか。


「そんなに悩むくらいならさっ! 近くにいる女の子で、考えれば良いんじゃね?」


 と言う啓太の発言から、女性陣の総評が始まった。


「まずは同級生のハルノ。運動神経が良く、ハーフで整った顔立ち。性格は明るくて、ちょぴり気が強い。でもまぁ、そこが良いって人も多いじゃん!」


 啓太の語るハルノの評判は、クラスメイトの意見も反映されているらしい。


「次はシェルターで出会った美月ちゃん。性格はしっかりしていて、周囲に気を配れる良い子。モデル並みの見た目に加え、スタイルも抜群に良い。言葉遣いに品があって、育ちの良さを感じるね」


 美月はどこかのお嬢様ではないかと、啓太は兼ねてから推察していた。


「っつーか毎度のことだけど。よく見てるよな。一々チェックしてるのかよ?」

「そりゃあ当然じゃん! 可愛い子がいるかもと思えば、常にアンテナを張ってないとじゃね!?」


 啓太の情報網によると、クラスメイトは一通り。学年や学部が違っても、めぼしいと判断した子はチェックしているらしい。


「あとは同心北高校で合流した、彩加ちゃんと真弥ちゃん。彩加ちゃんは裏表ない元気な子で、真弥ちゃんはおとなしいイメージを受けるね。でも料理が得意らしいから、家庭的なところはポイント高いんじゃね?」


 啓太は見えぬ水面下でも、情報収集をしていたようだ。


「で、どうよ? 今ここにいる女の子は、こんな感じじゃね?」

「どうって言われてもな」


 女性陣の総評を終えた啓太に問われるも、簡単に選べるものではないだろう。


「おいおい。これだけの選択肢があって、選べないってことは。もしかして、男に……興味があるってことなのか?」


 身の危険を感じたようで、ジリジリと離れていく啓太。


「んなわけねぇだろっ!」


 事実と異なる指摘をされては、誤解をされぬよう即座に否定。

 しかしこのまま意見を出さずでは、あらぬ方向に誤解されてしまいそうだった。


 こう言う話は、あんまり得意じゃないんだけどな。

 でも男好きなんて誤解されるのは、絶対に嫌だ。


「そうだな。俺としてはもっとこう……優しく包み込む包容力があるというか、一緒に居て落ち着く感じが良いかな」

「ほぉーお。なるほど。それは。それは。蓮夜君は、年上のお姉さんがタイプと。まあそれならこの場にいないし。納得じゃん」


 自ら意見を出したことで、啓太の誤解は解かれ納得してくれた。

 しかし望まずして、タイプをプロファイリングされてしまったことだろう。それでも男好きと誤解されるよりは、幾分マシな展開である。

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