第51話 雨宿り
橋の下で雨宿りをするも、一向に止まず。バケツの水をひっくり返したかのよう、雨は勢いを増して降り続けた。
「クシュン!」
雨風に体を震わせ、クシャミをする彩加。
「大丈夫? 彩加?」
「平気っ! 平気っ!」
葛西さんの気遣いある言葉に、彩加は笑顔を見せ答えていた。
雨宿りをする中で、風も強く吹き始めた。雨に濡れて、冷たくなった体。体温は刻々と奪われ、このままでは体調を崩してしまうだろう。
「雨も止みそうにないし。雨宿りを兼ねて、近くの民家に避難しないか」
体を休めようにも、雁来大橋の下。風よけになる物もなければ、落ち着ける場所でもない。
「そうね。このまま橋の下にいても、風邪を引いちゃいそうだわ」
天候の回復が見えない空模様となっては、ハルノも異論なく賛同してくれた。
「それに雨に濡れた服を、早く乾かしたいもの」
雨に濡れてしまったハルノは、服が張り付きボディラインが強調されている。正直なところ、目のやり場に困ってしまう状態であった。
「どこかで小降りになるはずだから。タイミングを見計らって、民家へ移動しようぜ」
雨が小降りになるのを待ち、住宅地へ向かい移動を開始。雨宿りと避難に適した、民家を探すことにする。
雁来大橋の周辺は、一軒家が主流の住宅地。札幌の中心部と異なり、開発されたのも近年。そのため背の高いマンションなどは、一棟たりとも存在しない。
昨日の家みたく、鍵が開いていれば良いけど。
外出するときは、施錠する。防犯意識の高い現代人にとって、一般的かつ常識的なことだろう。
近隣の民家を一軒。隣に逸れて二軒と訪ねて見るも、留守の上に施錠は完璧。
「もう窓を割って、入るしかないんじゃね?」
一向に進展せぬ状況を見兼ね、啓太は強硬手段を提案した。
「雨もまた、強くなってきたじゃん。このままだと本当に、風邪を引いちまいそうだよ」
水が滴る啓太の言う通り、雨は再び土砂降りに。外を歩き続け全員すでに、全身が濡れきった状態である。
「そうだな。家の人には悪いけど。次を見てダメなら、窓を割って入ろうぜ」
次に訪ねた民家も、留守で施錠済み。やむなく家の外周を歩き、入れそうな場所を探すことにした。
「庭先の窓は壊せそうだけど。面積が広すぎるよな」
庭先にある窓は、リビング向けと大きい。壊すことは容易であるも、誰しも侵入が簡単となるだろう。
「側面に回って、もう少し良さそうな場所を探すか」
屍怪の侵入は、できる限り防ぎたい。となればどんな障害物でも、破壊さず残して置きたかった。
「ここの窓はどうでしょうか? 小さい上に高さもあって、良い場所だと思うのですけど」
美月が指を差して示すのは、顔より高い位置にある小窓。
「これだけ高さがあって小さければ、屍怪は入って来られなさそうだな」
家の側面となる場所に、条件の良い窓を発見。良心の呵責はあるものの、破壊する決断を下した。
「啓太。バットを貸してくれ」
「ほいよっ」
啓太から金属バットを受け取り、満を持して振りかぶる。
「音を響かせるのは、嫌だけど。躊躇して壊せなかったら、最悪だからな。容赦せずに、全力でいくぜ」
屍怪を呼び寄せる可能性あり、音を響かせるのは避けたいところ。
しかし中途半端な力で、窓を破壊できず。何度も叩きつける結果となれば、本末転倒。配慮したつもりが、余計にリスクを高めてしまう。
「いいわよ。思いっきりやっちゃって」
衝撃に備えて後退し、成り行きを見守るハルノ。窓を破壊するに、加減は不要であった。
「よしっ! やるぜ!」
掛け声とともに金属バットを、全力で小窓に叩きつけた。
「パリンッ!」
金属バットは小窓を捉え、ガラスを破壊し飛散させた。何はともあれ、民家へ繋がる道が開かれたのだ。
「俺が家に入って、鍵を開けてくるよ。みんなは玄関に回って、待っていてくれ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます