第43話 盗みの手口

「なあ。自転車を使って行くってのは、どう思う? 車と違って小回りが効くし、障害物だって避けられるじゃん」


 札幌の街を歩き進める道すがら、啓太は唐突に提案をした。

 飲食店やコンビニの周り。スーパーマーケットに郵便局の駐輪場と、止められる自転車は多い。


「自転車か。たしかにそれなら、問題なく進めるかもな」


 車道には列を成し、動けずにいる車。進まぬことに嫌気が差してか、歩道に乗り上げているものまである。

 他にも車がぶつかり倒れた電柱に、崩れて転がるコンクリート片。今も自動車を使用して進むとなれば、無理があるのは明らかだった。


「ハルノはどう思う? 自転車を使うの?」


 車の使用は保留になったものの、自転車の話はしていない。

 岩見沢までの道のりは、まだまだ遠い。要す時間と使う体力を考えても、考慮する余地はあるよう思えた。


「自転車ね。でも、どうするのよ? 鍵が掛かっているでしょ?」


 ハルノの指摘は、最もなもの。駐輪場に止められている自転車ならば、盗難防止のため鍵が掛けられているのは当然。


「とりあえず、行って見たほうが早くね? 無用心な人がいるかもじゃん!」


 移動に自転車という手段が浮上し、啓太の態度は明るかった。


「かなりの自転車があるじゃん! これ、選びたい放題じゃね!?」


 無施錠の自転車を発見する前から、明るい声色の啓太。飲食店前の駐輪場には、今も十台近くが止められている。


「どれも鍵が閉まってダメそうね。当然と言えば、当然でしょうけど」


 無施錠の自転車がないか確認するも、全て玉砕となり諦めムードのハルノ。

 今のご時世。無施錠で自転車を止めるなど、そうはいないという現実である。


「チッチッチ。諦めるのが早いんだなぁ。これが。誰かヘアピンとか持ってない? あったら貸して欲しいんだけど」


 鍵が開けられぬ現実にも、啓太は気落ちしていなかった。それ以上に何か、策がある様子。


「ヘアピンなんて何に使うんだよ?」

「まあまあ。蓮夜君。焦りなさんな。で、誰かヘアピン持ってないかな?」


 用途の読めない要求に問うも、啓太は澄ました態度のまま。


「ヘアピンなら、私が持っていますけど」


 学生鞄を探って、ヘアピンを出す美月。


「ナイス! 美月ちゃん! あとは、これをこうしてと」


 ヘアピンを受け取った啓太は、鍵の付近で何やら行い始めた。

 手元が隠されたまま、待つこと数分。


「カチッ!」


 自転車の鍵が、開錠される音。


「おしっ! これで自転車は使えるじゃん!」


 拳を高々と挙げ、ガッツポーズを決める啓太。ヘアピンを用いて、鍵を開錠させたのだ。


「というか、あんた。よくそんなやり方を、知ってるわね」


 非合法と思われる手口に、ハルノは冷ややかな視線を送っている。


「初めてじゃないでしょ? 今の手際の良さ。もしかして、常習犯?」


 最初から当てのあった態度も相まって、ハルノの疑いはますます増すばかり。 


「啓太さんがまさか、そんなことをする人だったなんて」


 手際の良い盗みの手口を見て、美月も不信感を積もらせている。

 それは彩加と葛西さん。ここにいる全員の、揺るがぬ総意となった。


「ちょっ、ちょっと待ってくれよっ! 前に鍵を無くしたとき、業者を呼ぶのは金がかかるじゃん!? だから自分で調べて、開錠しただけだってっ! 盗みをやっていたわけじゃないからなっ!」


 取り繕い弁明する啓太だったが、容易に疑いは晴れなかった。



 ***



 結局のところ啓太が開錠できたのは、シティサイクル。俗に言う、ママチャリが三台。一人に対して一台を渡すとは、残念ながらならなかった。

 しかし自転車には荷台があり、使用するに問題なし。各々が二人乗りをして、先へ進むことになった。


「んじゃさ。ペアを作んなきゃだから。ジャンケンで決めね?」


 一応の立役者である啓太の発案により、ペアを決めることになった。

 必要なペアは三組。グー。チョキ。パー。同じ手を出した者が組み、漕ぎ手と乗り手になるというものだ。


「蓮夜さんと同じペアですね。よろしくお願いします」

「こちらこそ。俺が前でペダルを踏むから、美月は後ろに乗ってくれ」


 同じ手を出してペアになったのは、黒髪ロングの女子高生である美月。

 他の組みは、ハルノと彩加。啓太と葛西さん。という風に決まった。


「他人の自転車で、二人乗りか。以前までの世界なら、考えられなかった話だよな」

「そうですね。窃盗に道路交通法違反。警察に見つかったら、すぐに捕まってしまいますね」


 苦笑いする美月を後ろに乗せ、風を切り前へ進む。自転車に乗ったことで、格段にスピードは上がった。

 今のペースで進めば、想定より早く岩見沢へ着けるだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る