第12話 危機迫る叫び

 ―*―*― 蓮夜視点 ―*―*―



 スマートフォンを取り出し、約二週間ぶりに起動。そこで画面に映し出されたのは、【圏外】とういう文字。

 外へ出れば通信可能であると、期待していた。しかし変わり果てた札幌の街に、再び浮かび上がった【圏外】の文字。地上に出てもなお、通信不能であると自覚する他なかった。


 電話やSNSで他人と繋がれた世界は、終わっちまったんだな。

 相応にしてありうるとは、思っていたけど。現実として受け止めると、かなりショックだぜ。


「やっぱり蓮夜君もダメでしたか?」


 後方から戻ってきた畑中さんの発言は、一連の動作を見て推測したのだろう。『やっぱり』と言うことは、同様の状態を確認したのだと想像がつく。


「圏外になってダメですね」

「そうかい。後ろの人たちも試していたけど、同じような感じだよ」


 俺に限らず、みんな同じようだな。スマホは今も使えないけど。一応は電源を落として、しまっておくか。


 どこかでまた使えればと、淡い期待をしてスマートフォンをしまう。


「あれ? 松田さんは?」


 松田さんの姿を探す、畑中さんの問いかけ。


「向こうに人がいたみたいで。松田さんはあっちの方を見に行ってます」


 応えては松田さんが向かった、人影あった瓦礫の山を指差す。


「ぐわぁああああああっ!!」


 そこで唐突に響いてきたのは、松田さんの危機迫る叫びだった。


 なんだっ!?


 尋常ではない事態を察知し、戸惑いながらも畑中さんと二人。窮地を知らせる、松田さんの元へ。

 白いワンピースを着た長髪女性に、松田さんは襲われていた。肩を噛まれているようで、必死に抵抗をしている。


 なんだか……嫌な予感がする。


 苦戦する松田さんの背後には、新たに迫る二つの人影があった。

 二つの人影は、先んじて到着。引き離すに協力するかと思えば、間髪入れず松田さんを襲い始めた。


「離せっ! 離してくれぇ!!」


 足腰を追加で噛まれては、助けを求める松田さん。しかし長髪女性に新たな二人も、聞く耳を持たぬ様子。

 凶行を継続させては、緑色の制服が赤く染まってゆく。


「何をしているんだっ!? 君たちはっ!!」


 畑中さんは声を荒げ、行動を咎めた。しかし一向として、聞く耳を持たぬこの三人。


「なんだよ。……この状況」


 呆気にとられてしまう展開。松田さんを襲う三人は、血が通っていないのか。と思わせるほど、青白い顔をしている。

 それに衣服は汚れていたり、破けていたりとボロボロ。常人の身形とは、思えぬものだった。


「いい加減にしないかっ!」


 業を煮やした畑中さんは、長髪女性の肩を掴み制止。


 このままじゃダメだっ! 俺も加勢しねぇと!!


 意を決した瞬間。長髪女性は、松田さんの肩から離れた。

 そして身を反転。今度は畑中さんの腕に、穢れた毒牙を突き立てた。


「くっ……このおぉぉ!!」


 腕を噛まれた畑中さんは、苦悶の表情を浮かべ後退。加勢のタイミング悪く、背と衝突してしまった。

 バランスを崩されては、瓦礫に足を取られ転倒。肩に掛けていた預かり物の袋は、ズルリと地へ滑り落ちる。


「なんだっ!? なんだっ!? コイツら!?」


 異常事態に気づき、駆け寄ってくる啓太。畑中さんが長髪女性に噛まれていることから、困惑しつつも引き離しに向かっていく。


 ……なんだよ。コイツら。


 引き離そうと啓太が介入するも、捕まえた獲物を逃がさないと長髪女性。力強く噛みついては、まさに狂気の行動。

 となればさすがの畑中さんも、覚悟を決めたという感じだった。


「くそぉおお!!」


 腕を大きく振り上げた畑中さんは、長髪女性に向けて拳を放った。


「グシャ!」


 鼻を潰す、鈍い音。振り抜いた拳は無慈悲にも、長髪女性の顔面を強打したのだ。


 ここまでやれば……離れるだろ。


「ぐうあああああ――――ッ!!」


 しかし聞こえてきたのは、畑中さんの壮絶な悲鳴だった。

 鼻が変形し潰れようとも、長髪女性は平然と凶行を続けていたのだ。それは腕の肉を裂き、骨をも砕こうとしている様相。


「……ミシミシ」


 骨が軋む、不快音。常軌を逸した凶行。頭が正常に働かず、体も石のように固まり動かない。

 しかし、ふとした瞬間。落とした預かり物の袋に、目がいった。見ると結び目が緩み、紺色の柄が飛び出している。


 これって、もしかして。


 手繰り寄せて引き出すと、銀の縦線が二本入った黒色の鞘。抜き差し口に向かって緩やかに太くなり、鍔とぶつかる場所では台形状に厚みがある。

 鞘は全体的に機械的な構造となっているようで、台形状に厚みがある場所ではより顕著。そこに迫力ある獅子の姿が、銀で大きく描かれている。


 間違いなく、刀だよな? どうしてこんな所に。


 抜刀して映るは、深き漆黒の刃。美しい反りに、微かに波打つ刃紋。

 楕円形の鍔も、銀の機械的な作り。太陽の光を浴びて刃は鈍く輝き、視線は釘付けとなってしまった。


 間違いない。本物の刀だ。


 理解すると同時に、長髪女性の前に立つ。

 持った刀は重い。だが、なぜか手に馴染むという感覚だった。

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