第32話 ムー共和国旅行記②
R112組み立て棟を見学した一行はその後C-8旅客機組み立て棟、BT-37 戦略爆雷撃機を見学した。そのどれもがやはりWWⅡレベルの出来であった。
工場を見学している途中他の見学者のグループに出会った。
彼らは5人グループ出会った。その誰もが竹田達が見覚えのある民族衣裳に身を包んでいた。
竹田、多田をみた彼らは2人の方へ近づいてきた、話しかけてきた。
「お初にお目にかかります。貴方は日本から来られた方なのではないですか」
話しかけられた2人は彼らの操る言語に驚いた。彼らが話していたのは日本の古語であった。
彼らが着ていた民族衣裳というのは狩衣であった。古語も平安時代の文法、単語遣いであった。
竹田が理系畑出身であるのに対して多田は文系畑出身だ。多田はある程度彼らの言語を理解できた。
あまり古語を理解しない竹田に代わり多田が脳をフル回転にして答える。
「確かにその通りです。私達は日本人です。」
相手方の表情がかなり有効的な感情を示していた。
「やはり、日本は我々と同じ言語を理解する者の国でしたか。この世界では初めてです。」
古語を遣う一行の一人は続ける。
「この世界では数多もの国々が乱立しているが、我々と同じ文化を持つ国はこの戦国の世には合わないようです。そのどれもが滅び消滅しました。文字通りに...。貴方がの国が同じ轍を踏まず生き残る事を祈っていますよ。それでは」
何やら暗示めいた言葉を残して平安貴族一行は一礼をして去って行った。
多田も竹田も相手の動きに合わせて会釈をした。
ポール氏は多田がどの様な内容について話したのかは知る由もなかった。
「多田さんは和ノ国の方々とお知り合いなのですか?」
「いいえ、初対面ですよ。少し気になったのですが、彼等にも航空機を売っているのですか?」
どうしても平安時代の武士が飛行機に乗って戦う姿が想像出来なかった多田は素直に疑問を口にした。
「まさか、彼らにも航空機を売りたい気持ちは山々ですが彼らには整備する術がありません。確か和ノ国には小銃を売っていましたね。今回はただ航空機の工場を見たいという要望にお応えして見学して頂いているだけのはずですね」
その日の見学では全機種の生産ライン見る事が出来た。
見学の後は、双方の売りたいもの、買いたいものについて話し合った。
書店で売っている程度の航空雑誌も資料と併せてポールに見せたところかなりの興味を示した。
結論としては、日本側が購入したいものは対魔素自律判断回路欺瞞/防御装置を試験用に数セット。ムー共和国側はUS-2救難飛行艇とF-2を希望したが、F-2の輸出が難しい事は承知の様で、試験用ジェットエンジン、レーダー装置を購入希望とした。
竹田達の初日の予定は全て何事もなく消化された。
彼ら二人の宿はムー共和国の中でも最上級とされる共和国ホテルであった。
車でホテルの前まで送ってもらった。
ホテルに着いた二人は部屋に荷物を入れ、その後レストランで夕食をとりながら今日の成果と内容を話し合った。
「多田くん、今日の見学で何を思ったかな?」
「そうですねぇ、今までもロッキードや三重の生産ラインは見てきましたが何というかそこまで変わりませんね」
「それには同感だ。もっと工作機械や設備に違いがあるかと思ったがそうでは無いようだな。これが部品や素材といった基礎工作が試される分野であれば何かあったかも知れないがなぁ」
「とは言え、技術の差を利用して売り込めそうなものは幾らでも有りますけどね」
「いや......寧ろ有りすぎるな.......」
二人が考えている事はこうだ。
殆ど全ての分野でムー共和国の製品に比べて、日本製のものは量産する体制が確立されているため性能は勿論の事、価格の面でも圧倒的に優っている。
兵器や航空機といったものだけではなく、自動車や家電製品、電子部品といったものも含めて全てだ。
もし取引を開始すれば、ムー共和国は貿易赤字に国内企業の倒産、さらには国内経済の崩壊が安易に予想される。
そうなれば、日本企業は開拓したばかりの巨大な市場を失う事になる。
竹田達商社マンの考える事ではないが安全保証面でも宜しくない。
それだけではない、不幸にもムー共和国は発展途上国ではないため、今までに日本企業が東南アジアや中国に工場を作り雇用を生んできたが、ムー共和国で同じ事をした所でムー共和国の企業が圧迫されるのは避けられない。
実際に上司からも上層部がムー共和国のせいにはあまり興味を示していない旨もそれとなく伝えられていた。
「今日のバイヤースの要望は通ると思いますか?」
多田はネガティブな思考は一旦据え置き話を進める事にした。
「まぁ無理だろうなぁ....」
「当然そうですよね」
竹田は肯定の意を含んだため息をつき話を進める。
「いくらバステリア帝国との戦争で現行法を超超超解釈して自衛隊を送り込んだといえど、武器輸出は依然として制限が厳しいからな」
「法律が変わらない限り無理って事ですねー」
竹田は多田の言葉で何かを思いついたようだ。
「いや今は無理だとしても2年、3年後ならあるいは有り得るかも知れないぞ」
「いや、でも法律が」
「そうだ、法律だ。安全保障に関する法律の改定が目まぐるしい勢いで行われているな。国が転移した途端憲法の一部改正が直ぐに通った程だぞ」
「なるほど!確かに有り得ますね。そしてこの規模の取引であれば2年や3年は普通の事ですね。となるとこの取引は営業零課にかかってますね」
「そうだ、だがその名は軽々しく口にしては行けんぞ。いつ週刊誌砲を喰らうか分からないからな」
転移のあと世界の国々は方向転換を迫られている。組織の変化を嫌う日本も例外であった。もともと極端から極端にふれやすい民族性ではあったが、ここまでも変わるものかという変化が起きている。
マスコミもこれを煽りたて、頑なにまでの非現実的な方法での平和実現はどこへ行ったのかというほどだ。
これもまた日本という国がこの弱肉強食の世界に適応しようとしている証なのかも知れない。
「週刊誌砲と言われて思い出したのですが、先程ロビーにテイクフリー で置かれていた新聞です」
そう言って多田は鞄から『世界新聞 ムー共和国版』と書かれた新聞を1つ取り出した。
「これがこの世界で唯一の全世界に支社を持つという世界新聞か」
竹田は珍しそうに世界新聞に目を遣りながら続けた。
「多田がこれを渡したという事は何か重要な記事があるという事だろうが、どの記事なのかな?」
「私にとってはどうでもいい記事と、重要な記事がありますがどちらが良いですか?」
「じゃあ、どうでも良い方から行こうか」
「それでは、3面を開けてください」
竹田は言われた通りペラペラと3面までめくる。
「おぉ!グッジョブだ多田くん」
『旧バステリア帝国皇都バルカザロス、バルカザロス市国建国へ』
と題された記事であった。
そして大きくローデン元海軍元帥が暫定国家元首として、メイリア副官が官房長官として写真が載っていた。
メディアやネット界隈ではメイリアが“美人すぎる官房長官”として取り上げられていた。
確かに日本人受けしそうな顔立ちではあるが、数ヶ月前までは敵国の中枢の一人であった彼女をここまでもてはやす日本人もある意味現金である。
そして、竹田はそんなメイリアに魅了された1人なのだ。
ニヤニヤしながらその記事と写真を眺める竹田を多田は冷えた目で見るのだった。普段はカッコいい頼れる上司なのにな、と。
人には1つくらい欠点があった方がいいと思うことにしてメイリア官房長官の写真に魅入る竹田への感想を纏めた。
「もう一つの重要な記事はですね12面に書かれていますよ」
「んん......」
多田の声は竹田には届いていないようだ。
「竹田さんっ!」
少し大きめの声で竹田を竹田の世界から呼び出す。
「おっと、失礼」 キリッ
一瞬で普段のカッコいい上司に戻った竹田に多田は「キリッじゃないよ」と心のなかでツッコミを入れたことは秘密だ。
「12面を開いてください」
多田に言われた通り開けた竹田は先のようにだらしない顔は見せずいつもの仕事中の顔をしている。
「ふむ.....なるほどなるほど。確かにこれは重要だな」
「そうでしょう、今日知らずとも明日には多分知っていたでしょうけどね」
「こんな事でも新聞に載るんだなぁ。日本の新聞だったら多分載らないな」
「どこかの国のゴシップを追い掛けてばかりの新聞とは違いますね」
「よし!まぁ今日のところはこんなもんで良いだろう、それでは明日に備えて休みとするか。解散としよう」
**********
翌朝、ホテルの前にはベルトランとソフィが待機していた。
「おはようございます。昨晩はゆっくり休めましたか?」
「お陰様でとても良く寝れました。このホテルはとても快適ですね」
「そうでしょう。この共和国ホテルは東洋世界で最高ランクのホテルですから」
ソフィが車の後部ドアを開けてくれたのを見計らい乗り込む。
ベルトランが今日の予定について話す。
「これから向かうにはバイヤースグループ傘下の造船所です。昨日の航空機工場と同様に共和国軍向けの艦船のみならず同盟国向けの艦船や友好国向けの商船を造船しています」
昨晩多田が竹田に見せた記事もこの造船所についてだ。
「今日の造船分野の見学はある意味昨日よりも興味深いですね」
竹田も昨日の記事を念頭に答える。
「そうでしょう、この分野に関してはそちらの国々に対しても一部優位な部分が有りますからね。ロストテクノロジーとゆうやつですね」
「こちらが事前にお送りしたこちらの海上コンテナの輸送規格についてはどの様に考えられますか?」
船の中でも商船について考えるときどうしてもコンテナの規格がネックになる。当然地球圏の国々は全て同一規格のコンテナによる輸送の効率化を図っている。
コンテナ前提の港湾にRo-Ro船ですらない荷役による積み込みを前提とした貨物船が入ってきたら混乱を極めるのは必然である。
そもそも荷役はどうするのか?荷役には免許が必要であり更に港湾荷役と船内荷役に分かれる。
一朝一夕で荷役の補充などできない。そして概して荷役の斡旋には様々な利権が絡んでいる。
そしてまた、それはムー共和国も同様でコンテナになったのでもうクビ、というわけには行かない。
財力に余裕あるムー共和国はいいとして文明レベルがかけ離れた貧乏国家にはそのようなシステムを導入して維持する資金力がない。
もしそうなれば、喜んで金を貸してくれる腹黒い国はあるかも知れないが。
「これについては、上も判断しかねています。このレベルになると国家レベルでの話になってしまいますので」
20分もすると景色は臨海の工場地帯のそれとなり、建物の隙間から船のマストや大型のクレーンなども見える。
「おぉ!あれですか」
竹田が声を上げた先にあったのは乾ドックに入っている米戦艦のミズーリとニュージャージーだ。昨晩新聞で読んだのもこの事に関する記事であった。
この二隻が退役した理由の中には単純な老朽化だけではなく、戦艦の維持に関わる熟練工の不足と設備の老朽化、砲弾の製造ラインの廃止などがあった。
しかし、戦艦全盛期のムー共和国の設備ならば設備も人手も申し分ないだけ揃っている。
ここでこの2隻の再生、寿命延長工事を行い取り敢えず2040年までは使えるようにする。
普通なら機密の塊である艦船を他国で修理するなどあり得ないが、この二隻に積んである装備で現用のものはCIWS(近接防御兵器)と型の古いハープーンくらいなものだ。問題ないと判断されたのだろう。
「現在この造船所ではアメリカ合衆国の戦艦二隻の寿命延長工事と軍務に耐えうるための再生工事を行っております」
「成る程、どの程度修復できるのですか?」
「博物館艦として保存されていたためあまり状態は良くありませんが我が国の技術でオーバーホールすれば50年程度は現役でいられるレベルになるでしょう」
この造船所にはアメリカの戦艦二隻が入渠しているドック以外にもいくつものドックがある。
ベルトランはその奥のドックで建造されている戦艦サイズの船を指した。
「あちらで建造されているのは、共和国海軍の新鋭戦艦です。艦名はまだ公開されていないので分かりませんが。海軍の次期主力と目されている艦です」
サイズはニュージャージーやミズーリと同程度だ。
ベルトランは更に続ける。
「諸元は誘導兵器を搭載していない事を除いてはアメリカ合衆国のニ艦と同程度です。いやー、実に不思議な感覚ですね。新鋭艦と同等の能力を持った艦がこのような状態で入渠しているというのは」
竹田達を乗せた車は造船所の敷地内に入った。
車はそれらの戦艦が建造されているドックより更に奥のドックへ向かう。
今度はソフィが口を開いた。
「ここからは建造中の空母、巡洋艦、駆逐艦、沿岸警備艇と続きますが、これから向かうのは艦艇のドッグでは無く海外向け標準型商船のドッグに向かいます。」
「大変聞きづらい事では有りますが、ムー共和国海軍の仮想敵国はどこなのでしょうか? 」
正直戦列艦が主力というバステリア帝国海軍と戦うには少々ちぐはぐな装備のように思えてならない。戦艦の大口径砲など不要なように見える。
「共和国海軍の仮想敵はメルト皇国を中心とする魔術文明先進国家群です。あちらにも長射程の破壊力が高い兵器は存在します。ですので彼らと渡り合うために共和国海軍の戦艦はこの様な発展をして来ました。
科学文明世界内での商船建造総トン数の99.9%はムー共和国によって建造されています。
最も人気があるのは8000t級標準バラ積み船の蒸気レシプロエンジン搭載型でその次に15000t級標準バラ積み船の蒸気タービン搭載型です。
これらの型の船は大体日産3隻のペースで建造されています。
ですので、全世界の内燃機関搭載型船舶の殆どはこれらの型のうちのどれかになります。内燃機関を搭載している船は帆船を用いる海賊を振り切る事が出来るのでとても人気ですよ」
「輸出用商船についてはよく分かったのですが、艦艇についてはどうなのですか?」
「共和国は艦艇の輸出は現用のコルベット、雷装を外した駆逐艦又は2世代前の戦艦に限定しています。砲弾はコルベットと駆逐艦は徹甲弾、榴弾 そして戦艦には徹甲弾を供給しています。もちろん共和国海軍の艦船は全て徹甲弾、榴弾、対空弾全ての弾種を搭載していますよ」
この程度のものならば“北”ですら保有しているというのが竹田達の本音だ。(流石に旧式でも大型艦保有していないが)
ドイツやフランスも多少スペックダウンした艦艇を輸出しているが、流石にどれもミサイル発射能力くらいは持っている。
竹田と多田には日本とムーの貿易が成り立つようにムーから輸入する価値のあるものを見つけ出す仕事もあるのだが、段々と自信が無くなっていく二人なのだった。
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