第二章第65話 復活

「エレナ、おめでとう」

「ディーノ……ふふ。ありがと」


 そう言って嬉しそうに微笑むエレナはとても綺麗で、何だか少しドキリとしてしまう。


「あらン? あらン? 何だかいい雰囲気ねン? イイコト♡しちゃうのン?」

「ちょっと! トーニャちゃん!」

「あらン? お節介だったかしらン? でもエレナちゃんはそんなことないみたいよン?」

「え?」


 言われてエレナのほうを見ると、なにやら顔を赤らめてもじもじしている。


 え? え? な、なんだこれは。


 もともとの勝気なエレナを知っているだけにこのギャップはヤバい。


 どうしよう。なんだか俺まで恥ずかしくなってきた。


「あらン? 結婚式はいつかしらン? 赤ちゃんが生まれたらエレナちゃんはしばらく働けないし、ディーノちゃん。がんばらないといけないわねン?」

「あ、赤ちゃん!?」


 エレナはさらに顔を真っ赤にして、そして手をバタバタと振るわせている。


「い、いや。ほら、エレナはまだ学生だしさ。俺ももうほとんどお金ないし。もうちょっとお金が……」

「あらン? じゃあエレナちゃんが卒業したらすぐなのねン? 楽しみだわン。エレナちゃんのウェディングドレス、きっと綺麗なんでしょうねン。あたしもイイオトコ♡が欲しいわン」


 そう言いながらトーニャちゃんはまたしても体をくねらせた。何とも立派な筋肉の塊がくねくねと動くこの異様な光景になぜかホッとしてしまうあたり、慣れとは恐ろしいものだと思う。


「ウェディング……」


 エレナはそう呟いたきり顔を真っ赤にして固まってしまい、微動だにしていない。


 うーん。この状況、俺は一体どうすれば良いんだ?


◆◇◆


 しばらくカオスな状況が続いたが、ようやくトーニャちゃんは満足してくれたようでエレナもそれに伴って落ち着いてくれた。


「二人とも、今日はどうするのかしらン?」

「ええと、それは……」


 俺はちらりとエレナのほうを見遣った。するとエレナは小さく頷いてから口を開く。


「あたしたちは迷宮に戻ろうと思います。まだ夏休みの期間は残っていますから」

「そう。あんな目に遭ったのに大丈夫なのねン?」

「はい。それに、あたしに何かあってもディーノが助けてくれますから」


 エレナはそう言って俺の左手をぎゅっと握ってきた。


「そう。わかったわン。本当はあたしも行きたいのだけど……」

「怪我をしているんですから、ゆっくり治してください」

「んー、それが治らないみたいなのよねン。悪魔の力で体の根幹が傷ついちゃったみたいなのン」

「……そうでしたか」

『あれっ? たぶんそれ、あたし治せるよ?』

「えっ? フラウ、本当か?」

『うん。だって、エレナのも治したじゃん』

「マジで?」

「え? 何? フラウがどうしたの?」

「いや、なんかフラウがトーニャちゃんの怪我を治せるかもしれないって」

「ええっ!?」

「あらン? それじゃあお願いできるかしらン? ダメでも死ぬわけじゃないのよねン?」

『もっちろん! あたしに任せるのだーっ!』

「大丈夫だそうです。じゃあ、召喚しますね」


 俺が召喚すると、フラウを見た二人は笑顔になった。


「よーし。じゃあ、いくよっ! えいっ!」


 フラウの小さな体から暖かな光が溢れ出し、それがトーニャちゃんの巨体に降り注ぐ。


「ああンッ。暖かくて……気持ちいいン。ン。あンっ。そこっ♡」


 トーニャちゃんが体をくねらせながら……喘いでいる。


 これ、本当にエレナを治療したのと同じやつなのか?


 その後もトーニャちゃんの喘ぎ声を間近で一分ほど聞かされ続けたところで光が消えた。どうやら治療が終わったようだ。


「あらン? あらン? 動ける! 動けるわン!」


 そう言ってトーニャちゃんはくねくねと体を動かしているが、先ほどまでのくねくねと何が違うのかはいまいちよく分からない。


「ちょっと、エレナちゃん。もう一回試合してくれるかしらン?」

「え? あ、はい。わかりました」


 突然トーニャちゃんはそんなことを言いだし、エレナはあっさりとそれを受けた。


「今度はこっちから行くわよン。準備は良いかしらん?」

「はい!」


 そうして再び試合が開始された。


 トーニャちゃんがものすごいスピードでエレナに迫り拳を繰り出した。それを体をずらして躱したエレナは細剣を振るうがそこにトーニャちゃんの姿はすでになく、いつまにやら最初にいた場所に立っている。


「今度はこっちから!」


 エレナは先手を取るべく距離を詰めると目にも止まらぬ速さの突きを繰り出したが、次の瞬間に勝負は決まっていた。


 カラン、と乾いた音を立ててエレナの細剣が地面に転がりいつの間にか後ろに回ったトーニャちゃんがエレナの首をロックしていた。


「くっ……。参りました」


 敗北宣言を受けてトーニャちゃんがエレナを解放した。


「これが……Aランク冒険者の本当の力……」


 あまりに一方的な試合展開にエレナは茫然自失といった様子だ。


「ンフフフフ。これなら復帰できるわねン。ありがとう、フラウちゃん」

「えへへっ。よかったねっ!」


 嬉しそうに体をくねらせているトーニャちゃんにフラウはとてもいい笑顔でそう答えたのだった。


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次回「エピローグ」は通常通り、2021/06/13 (日) 21:00 の更新を予定しております。

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