第二章第63話 事情聴取
サバンテに戻った俺たちはそのままギルド支部へとやってきた。事情聴取のために出頭するように命じられたからだ。
最初にエレナの聴取が行われ、そのあとに俺の順番が回ってきた。取り調べは支部長が直々にするらしい。
「さて、ディーノ。どうして呼ばれたかわかっているな?」
「はい。カリストさんの判断を無視して一人で突入したからですよね」
「ああ。わかっているならなんでそんなことをした?」
「……エレナを見捨てるなんて考えられなかったからです」
そう答えると支部長は大きくため息をついた。
「剣姫は随分とお前に入れ込んでいるようだしな。お前も幼馴染で恋人の剣姫が心配なのはわかる。だが、命令違反をしていいという話にはならねぇだろうが! それでお前まで死んでいたらどうするつもりだったんだ!」
「その時は、どのみちサバンテを含む一帯は魔物の領域に変わっていたと思います」
「何だと!? きっちりと体勢を整えて迷宮を攻略する! これが迷宮攻略の鉄則だ! 迷宮に力を与えないことが正しいやり方だろうが!」
支部長は声を荒らげる。普段の攻略ではそれで正しいのだろうが、今回は違ったのだ。あのまま悪魔の計画通りに進んでいたら間違いなく俺たちは詰んでいた。
「お言葉ですが支部長。今回に限っては事情が違ったんです」
「何!?」
ギロリと睨まれた。すさまじい眼力に思わず怯みそうになるが、キマイラに対峙したときを思えば我慢できるレベルだ。
「悪魔はエレナの体を乗っ取り、エレナを迷宮核に取り込ませようとしていました。そしてエレナの、いえ【剣姫】の力を持った魔物を大量に溢れさせることが目的だと話していました」
「何? そんなことが可能なのか?」
「悪魔はそう言っていました。ただ、エレナが必死にそれに抵抗してくれていたおかげでなんとか間に合ったんです。ですがもし俺の救出が遅れてエレナが力尽きていたら、きっと悪魔の計画は成功していたことでしょう」
「……」
「命令に違反したことは悪いと思いますが、今回の俺は間違ったことはしていません。それに、一連の騒動の元凶と思われる悪魔も聖剣の力で倒しました」
「……チッ。いっちょ前な口をききやがって。悪魔が言っていたというそれが正しいという証拠はどこにあるんだ? 大体、本当に悪魔はそんなことを言っていたのか?」
「保証はありません。ですが、フラウは一緒にいてその話を聞いていました。必要なら召喚しますが……」
「いや、あの妖精はちょっと……な」
そう言って支部長は渋い顔をした。どうやらあの時のお姉ちゃん騒動で苦手意識があるらしい。
「フラウの証言もダメというのでしたら、仕方ありません。俺だって悪魔が話していたのを聞いただけですから。ただ、悪魔はキマイラというドラゴンとヘビ、蝙蝠、ライオンといった動物や魔物を合成した生物を手下として使っていました。であれば、迷宮核に人間を取り込ませるということも可能だったのではないかと思います」
「……」
「それに悪魔が迷宮核を操作できるというのは状況からして間違いないと思います。その証拠にあの迷宮はまるで人間が作ったかのように嫌らしい構造をしていたり、フリオを止めてからレッサーデーモンが出るようになったりしているじゃないですか」
「それは……だが命令違反は命令違反だ! 罰金一万マレと降格処分だ!」
「ちょっと! どういうことですか!」
突然扉が蹴破られ、エレナが飛び込んできた。
「そうよン? ディーノちゃんは悪くないと思うわン」
それに続いてトーニャちゃんまで入ってきた。
「そんなこと言ったら普通の迷宮じゃないって分かっていたのに、応援をすぐに呼ばなかったハビエルちゃんのほうこそ責任があるんじゃないかしらン?」
「な……兄貴!」
「お、ね、え、ちゃ、ん♡」
「ぐ……今はそんな話をしている場合じゃないだろう。大体、ゴブリンだけの迷宮で応援なんて呼べるわけがない。そんなことをしたらこの支部は!」
「だからもう四日も経っているのにまだ救援要請を出していなかったのよねン?」
え? マジで?
カリストさんからの報告を受けてもまだやっていなかったなんて!
この支部長、ちょっとヤバいのではないだろうか?
「いや、それは……」
「だから、ディーノちゃんを信じて任せていたのよねン? それなら報酬はたっぷり弾まないとねン?」
「あ、う、ぐ……」
ええと? これはどういうことだ?
「ほら。ディーノちゃんと聖剣の力を信じて秘密作戦を命じたハビエルちゃんの判断は正しかった。そうよねン?」
あ、なるほど。そういうことにしておけば支部長は責任を取らされず、俺も命令違反のペナルティーを受けずに済むってことか。
何やら汚い大人の世界を垣間見てしまったような気分だ。
「ぐ、そ、そうだな。よ、良くやってくれた。ディーノ。後で報酬は弾ませてもらおう」
「はあ。ありがとうございます。トーニャちゃんもありがとうございました。それとエレナも、心配してくれてありがとう」
「あらン? それならイイコト♡しちゃう?」
「だ、ダメです! ディーノはあたしのものです!」
「あらン。ほんとに可愛くなったわねン。でも、その様子じゃイイコト♡はまだなのねン?」
トーニャちゃんがからかうとエレナの顔がまるでゆでだこのように真っ赤になった。
「いい? ディーノちゃんみたいに優柔不断なオトコノコを落とすには、積極的にアタックするのが大事よン? 既成事実の一つや二つ、作っちゃいなさいン」
「き、きせい……じじつ?」
「そうよン。だから早く、イイコト♡しちゃいなさいン?」
エレナが顔を真っ赤にしながらごくりと生唾を飲んだ音が聞こえてきた。
「ちょっと! トーニャちゃん! 何を教えているんですか!」
「あらン? 乙女に必要な心得を教えているのよン?」
「いやいやいや。絶対違いますよね?」
「あらン? そうかしらン?」
そう言ってトーニャちゃんは楽しそうに笑った。
こうして俺の独断で行った救出劇は支部長の秘密命令だったことになり、お咎めなしどころか報酬までもらえるという結果になったのだった。
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次回「第二章第64話 リベンジマッチ」は通常どおり、2021/06/09 (水) 21:00 の更新を予定しております。
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