第二章第39話 おかわり百連と新境地
俺は受け取った袋の中から二万七千マレを取り出すとガチャの画面に投入し、チケットを購入する。
今度こそ、今度こそ『MP強化(大)』と『精霊花の蜜』を引いてやる。
「よし! 行くぞ!」
俺がガチャを引くボタンをタップすると、いつもと変わらず妖精たちが宝箱を運んでくる。
木箱、木箱、銅箱、銅箱、木箱、木箱、木箱、木箱、木箱、木箱だ。
「く。またハズレか。だが、負けるわけにはいかない」
『そうだよっ! せっかくエレナにも応援して貰ったんだからねっ! 一念天に通ず、で頑張ろうっ!』
「ああ!」
フラウに応援してもらい、勇気を貰った俺はすかさず次の十連を引いていく。
爆死だった。
「まだまだっ!」
間髪入れずに次の十連を引いていく。
爆死だった。
「今度こそ!」
俺はしっかりと気合を込めて次の十連を引くボタンをタップする。
お! 銀箱がある!
なんと、八つ目の箱に銀箱がある。
「よし! 変われ! 金! 金!」
だがその願いはかなわず、銀箱のまま宝箱が開く。
『☆4 MP強化』
「あー。あ? ああ。ううん。まあ、当たりか?」
『おめでとうっ!』
「何が出たの?」
「MP が 1 だけだけど、上がったよ」
「ふうん? それはさっきも出た奴よね?」
「まあな。でも大当たりだと 10 上がるからそれが欲しいんだよ」
「10 上がるならそれなりよね」
「ああ」
「ま、あたしがお金を出してあげたんだもの。失敗するなんて言わないわよね?」
「あ、ああ。わかってるよ。今度こそ引いてみせるよ」
エレナのプレッシャーにたじろぎながらも俺は決意を口にする。
『ディーノ! その意気だよっ! 頑張って!』
「ああ、フラウ。頑張るよ」
「あ!」
俺がガチャを引こうとしたところでエレナが突然声を上げた。
「どうした? エレナ?」
「上手くいかないなら叩いてみたら良いんじゃないの?」
「は?」
エレナはさも良いことを思いついたという表情をしているが、言っている意味がさっぱりわからない。
「あ、でも。この場合はどこを叩けばいいのかしら? あんたが触っているあたりを叩けばいいの?」
エレナはそう言って俺の画面のほうに手を伸ばしてくるが、当然のことながら画面に触ることはできずに素通りする。
「あら。やっぱりあたしは触れないのね。じゃあ、代わりにあんたを叩けばいいのかしら?」
「え? いやいや。痛いじゃないか」
何をどうしたらそういう発想になるのだろうか?
「あれ? でもそういえば頬をビンタすると気合が入って上手くいくようになるって話しがあった……あ!」
俺はそこまで言って後悔した。
「じゃあビンタすればいいのね! まかせなさい!」
「ちょっ! まっ――」
止める間もなく神速のビンタが俺の頬を張った。目の前に星が舞うのと同時にパチーンと乾いた音が支部長室に響き渡る。
「あらン? いいビンタねン」
「い、痛くないのでしょうか?」
「大丈夫よン。あの程度なら」
そんなトーニャちゃんとセリアさんの会話が聞こえてくるが、俺の頬からはジンジンと熱が伝わってくる。
「どう? どう? 上手くいきそう?」
エレナはキラキラした目でそう尋ねてくきた。
はあ。殴らないという約束だったが今のは俺が悪いな。エレナ相手にビンタすれば良いなんて軽はずみなことを言えばこうなるのは分かり切っていたことだ。
仕方ない。
「まあまあ、かな。よし。次のガチャだ!」
俺は気を取り直してガチャを引くボタンをタップする。
妖精たちが宝箱を運んできたのは木箱、木箱、木箱、木箱、木箱、木箱、金箱、木箱、木箱、木箱だ。
金箱!
久しぶりの金箱だ!
って、あれ? ビンタってもしかして効果が本当にあるのか?
「どうしたの? 変な顔しちゃって」
「え? あ、いや。ついに金箱が来たんだ」
「金箱?」
「目当てのやつが入っている可能性のあるやつだよ」
「へぇ? じゃあビンタして正解だったわね」
「ぐ……」
そう言われるとぐぅの音も出ないのだが……そうではないと信じたい。
「ま、まぁ。それはさておき開けるぞ?」
俺はちょっと危険なこの話を後回しにして箱を開けていく。
そしてその金箱から出てきたのは。
・
・
・
『☆5 MP強化(大)』
「あ……」
『すごーい! ディーノ! おめでとうっ! やったねっ!』
「あ、ああ」
キツネにつままれた気分というのはまさにこのことだろう。
あまりの事態に俺の脳みそは目の前の状況を整理しきれずにフリーズしてしまう。
これまで一切出てくる気配の無かった☆5が、欲しかった『MP強化(大)』がこうもあっさりと出てしまうとは。
これは……本当にエレナのビンタのおかげなのだろうか?
「ちょっと。何固まってるのよ? どうだったのよ?」
エレナに言われて俺はようやくフリーズ状態から復帰する。
「あ、ああ。なんか、欲しかった『MP強化(大)』が出てな。あまりの状況に呆然としてたというか。まあ、そんな感じだ」
「え? ってことはフラウを召喚できるようになったの?」
「ああ。そういうことになるな。これで 10 増えるはずだし」
「なら早くフラウを召喚しなさいよ」
『待ってー。終わってからだよっ! うんちのお掃除もしなきゃダメだよっ!』
「あ、そっか。それもそうだ。エレナ。フラウが全部終わって掃除してからだって」
「……そう。フラウがそう言うなら仕方ないわね。じゃあさっさとやっちゃいなさいよね」
「ああ。そうするよ」
残りの箱を開けて次の十連を引こうとしたところでエレナは再び声を上げる。
「そうだ! 良いこと思いついたわ」
「なんだ?」
エレナはキラキラとした目で俺を見てきているが、こいつがこういう目で俺を見てくるときは大抵ろくなことにならない。
どうにも嫌な予感がする。
「ビンタして上手くいくならもう一回ビンタしたら良いんじゃないかしら?」
ほら! やっぱりだ!
「いや、でも痛いし……」
「でも、もっと MP 増えたほうが良いでしょ? あんた弱っちいんだから」
「それはそうだが……」
『ディーノ。もう一回くらいなら良いんじゃない? もしかしたらエレナには何か特別な力があるのかもしれないよ?』
「フラウまで……。わかったよ。あと一回だけだぞ?」
「まかせなさい。ちゃんと気合が入るようにやってあげるわ」
エレナが自信満々にそう言ったかと思うと次の瞬間、パチーンという乾いた音が支部長室に響き渡る。
一切反応ができなかった俺の目の前には再び星が舞い踊る。
「やっぱりいいビンタねン」
「痛そうです……」
トーニャちゃんとセリアさんの他人事な会話が聞こえてくる。
「どう? 気合入った?」
「あ、ああ」
何とかそう答えた俺は次の十連を引くためボタンをタップする。妖精たちが運んできたのは、木箱、木箱、金箱、銅箱、銅箱、銅箱、木箱、木箱、木箱だ。
ええっ? また金箱出るのか!?
驚きつつも俺が金箱を開けると、中からは『☆5 MGC強化(大)』が出てきた。
『おめでとうっ! 二連続だなんて、やったねっ!』
「あ、ああ。まさかの神引きだな……」
「ちょっと! どうだったのよ!」
「ああ。ごめん。MP は増えなかったけど MGC が 10 増えたよ」
「ふうん? ならやっぱりビンタして良かったじゃない。次もやってあげるわよ?」
「い、いや。大丈夫だから。ちゃんと自分で気合を入れて引くから!」
毎回毎回ビンタされていたら俺の体はおかしな何かに目覚めてしまうような気がする。
それに、きっとビンタは関係ないはずだ。ただの偶然だ。
そう、偶然のはずなのだ。
そう信じて俺はガチャを引いていくが、その後は爆死が続いてしまう。
そして気付けばラスト十連まで来てしまった。
これまでに追加で『☆4 MGC強化』を一つ引けているので悪くはないのだが、それでも三百連で☆5が一つも出なかったことを考えると物足りない。
もっと神引きできても良いはずなのだが……。
「ほら。やっぱりあんた、ビンタされないとダメなんじゃないの? やってあげようか?」
「いや、大丈夫だ。きっちり自力で『精霊花の蜜』を神引きしてやる」
「ふーん。ま、いいけど」
エレナはそう言ってつまらなそうにそっぽを向いた。
「さあ、来い!」
俺は気合を入れてガチャを引くボタンをタップすると、妖精たちが宝箱を運んできた。
木箱、木箱、木箱、銅箱、銅箱、銅箱、木箱、木箱、銀箱、木箱だ。
よし! あとこの銀箱を金箱に変化させれば良いだけだ。
他の箱を開いていき、銀箱の順番が回ってきた。
さあ! 光れ! 金箱に変化しろ!
「変われ!」
気合の入った俺の声が支部長室に響き渡る。
そして……。
・
・
・
銀箱は銀箱のまま、『☆4 AGI強化』が飛び出してきたのだった。
「ああっ! くそっ! くそっ! くそっ!」
俺は……ビンタをされないとダメなのか!?
────
今回のガチャの結果:
☆5:
MGC強化(大)
MP強化(大)
☆4:
AGI強化
MGC強化
MP強化
魔術師のローブ
☆3:
テント(小)×3
火打石×4
堅パン×2
石の矢十本
鉄のスコップ
鉄の小鍋×3
銅の剣
皮のブーツ×3
皮の鎧(上半身)×3
皮の盾×2
皮の水筒×2
皮の袋×2
片刃のナイフ×2
木の食器セット
☆2:
ただの石ころ×5
枯れ葉×6
糸×7
小さな布切れ×5
薪×7
動物の骨×9
馬の糞×5
皮の紐×6
腐った肉×5
藁しべ×9
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次回更新は通常通り、2021/04/22 (木) 21:00 を予定しております。
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