第45話 難攻不落の第二階層

 作戦会議から二日後、俺たちは再び第二階層へと降りる階段の前へとやってきた。


 今回の作戦はフック付きロープを使って強引に壁をよじ登って上に拠点を確保し、縄梯子を下ろして道を確保して制圧するというのものだ。


 一番危険な登る役目は最も実力のあるトーニャちゃんが担い、そして上にいるゴブリンたちの目を引きつける囮役はリカルドさんと他二人の重戦士、ルイシーナさんと弓士の一人、そしてメラニアさんとその専属護衛である俺が担当する。


 この囮役はトーニャちゃんが登っていることに気取られないようにある程度前に出て耐えつつも反撃しなければならないためこのような人選となったのだ。


 正直怖いがこのまま手をこまねいているわけにもいかない。それに俺はただでさえ足を引っ張り気味なのだからこういう時こそチートな装備品の性能を活かして役に立とうと思う。


 それともう一つ、今回は思いついたことがある。


「(なあ、フラウ)」

『んんー? なーに?』

「(フラウって、俺から離れて移動できるよな?)」

『できるよー。あたしはどこでも行ける自由な女なのっ。それがどうかしたの?』

「(あのさ。この先がどうなってるのか、調べてきてもらえない)」


 フラウは俺以外には誰も見ることも触れることもできない。ということは、だ。こんなに偵察に向いている奴はいないんじゃないだろうかと思ったのだ。


『この先?』

「(そう、俺たちがずっと進めずにいるところの先がどうなっているのか知りたいんだ。お願いできないかな?)」

『それってもしかして、あたしに協力してもらわないと困るってこと?』

「(そうなんだよ)」

『んー、どうしよっかなー』


 そう言いながらもまんざらでもない表情を浮かべている。


 これは意外とイケるんじゃないか?


 そう考えた俺はもう一押ししてみる。


「(頼むよ。な?)」

『どうしても?』

「(どうしても)」

『しょうがないなぁ。じゃあ、あたしにちゅーしてくれたいいよ!』

「え?」

『ほら、ちゅーして』


 そう言うとフラウは俺の目の前に飛んできて目を閉じる。


 ええと、ええと?


『ディーノ?』


 ええい、仕方ない。


 俺はフラウのおでこに軽くキスをする。


『むー。ディーノのヘタレ』


 よ、妖精にヘタレと言われるとは……何という屈辱!


『まあ、最初はこのくらいで許してあげよう。じゃあ行ってくるねー』


 そう言ってフラウは堂々とゴブリンたちの待ち構えるエリアへと飛んで行ったのだった。


「ディーノくん? あなたくらいの年齢の男の子がそう言う事を夢想する気持ちはわからなくはないけど、そういうのは誰も見ていないところでやらないと気が狂ったって思われるわよ?」

「え?」


 ルイシーナさんにそう言われて俺は辺りを見回すがメラニアさんはさっと顔を背け、周りの冒険者の皆さんはニヤニヤしながら俺のことを見ていた。


「あ、えっと、こ、これ、その! よ、妖精が……」

「はいはい。変な言い訳をすると更に墓穴を掘ることになるわよ? みんな大人だから黙っててくれるわ。きっとね」


 そう言ってルイシーナさんはポンと俺の肩を軽く叩くと歩き出したのだった。


 ぐぬぬ。昨日の夜に思いついていれば!


****


「行くぞ!」


 フラウの帰還を待たずしてリカルドさんの合図と共に俺たちは矢と魔法が雨あられのごとく降り注ぐ危険地帯へと突入した。


 俺は今回、鉄の盾を二つ持ってきている。この鉄の盾を両手に持ち、頭への攻撃とメラニアさんを守るのだ。


 体への攻撃は断魔の鎧があるのでその防御力を信じるのみだ。


 数十メートル進むと冒険者の一人が油の入ったガラス瓶を上へと放り投げ、火を投げ込む。


 パリン、というガラスの砕ける音と共に上の方で火の手が上がり、そしてゴブリンたちの姿が照らし出される。


「げっ。凄い数だ」


 正直、この数は想定外だ。芋の子を洗うような状況とはまさにこの事を指すのかもしれない。


 一昨日はこれほどの数は居なかったはずなのに、たった二日間でここまで増えたとは!


「撤退! 撤たーい!」


 それを見たリカルドさんが即座に作戦の中止を判断すると一斉に階段へと引き返す。しかしそんな俺たちにゴブリンたちはこれでもかと矢と魔法のシャワーを降らせる。


 俺の鉄の盾にも矢や火の玉がぶつかり激しい音を立て、焦った俺はつい大きな声でメラニアさんを安心させようと声をかける。


「メラニアさん、俺がちゃんと守りますから!」

「ええ。頼りにしていますわ」


 だがメラニアさんは気負った様子もなくそう淡々と返事をしてくれ、その落ち着いた一言が俺の頭をすっと冷静してくれた。


 なるほど。やはり上位の冒険者ともなればきっとこの程度の事は経験済みなのだろう。


 こうして俺たちは階段へと戻るため、ゆっくりと歩を進めるのだった。

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