第24話 北の森のゴブリン
昨日【剣術】のスキルを追加で手に入れたことで俺の【剣術】スキルはレベルが 2 に上がった。ここは一つ、討伐依頼で試してみるのが良いだろう。
というわけで俺は朝から冒険者ギルドへとやってくるとセリアさんの受付に並んだ。
「ディーノさん、おはようございます。すみませんが魔石の方はまだ……」
「おはようございます。そうではなく、今日は近場で討伐依頼を受けようと思いまして、何か良いものはありませんか?」
「討伐依頼ですか。……そうですね。北の森でゴブリンの目撃情報がまた寄せられるようになってきましたのでそちらへ行ってみてはいかがでしょうか?」
「ありがとうございます。そうしてみます」
「かしこまりました。それではお気をつけていってらっしゃい」
「はい。いってきます」
俺はセリアさんに挨拶すると受付カウンターを後にした。そしてギルド内にはもうお約束になってしまったものすごい目つきで俺を睨んでくるフリオの姿がある。
この時間帯にまだギルドにいるということは良い依頼を取り損ねたという事なのだろう。
それから珍しいことに今日はフリオ一人ではなく複数人で固まっている。中には見たことのある顔の奴もいるのでどうやら同年代の連中を引き連れて一緒に冒険者活動をしているようだ。
「おい、やめておけ」などとフリオを
ただ、正直Fランクの依頼は町の中での力仕事やお手伝いなので人数を集めたところで何の意味もないと思うのだがな。
とはいえ俺はフリオには特に興味はないし、襲われないように用心だけしておけば良いだろう。
そう思い直して俺はギルドを出るとそのまま真っすぐに町を出て北の森へとやってきた。もう五月に入ったためか、前回来た時よりも随分と下草が育っている。もうしばらくすれば森は藪が生い茂って進むだけでも一苦労になることだろう。
俺は魔物や獣に不意打ちをくらわないように慎重に森の中を進んで行くと、すぐにゴブリンを発見した。
姿を見かけなくなるまで退治してやったはずなのにもう湧いてくるとはな。まるでゴキブリのようだ。
そう思ったところで俺はイヤな仮説が頭をよぎった。こんなにすぐに増殖するということはもしかして集落があるのではないだろうか、と。
俺は足音を立てないように発見したゴブリンの後をこっそりとつけていく。
それから一時間ほど尾行をしたところでようやくゴブリンが集落を作っている場所を発見した。集落といっても家が作られているわけではなく、落ち葉や草が積み上げられた寝床らしき場所が無数にあるだけだ。
だが、この数はまずいのではないだろうか?
ざっと五十匹ほどのゴブリンがおり、寝床の数を考えるとおそらくその四、五倍はいる可能性がある。
きっと、前回俺が狩った時に姿を見かけなくなったのは俺から隠れていただけなのだろう。
となると、俺がここにいるのは危険だ。
それにカリストさんの教えでは、こういった場合は急いでこの場から離れてギルドにこの情報を持ち帰らなければならないのだ。
ブラッドレックスとの戦いの後、確実に勝てるという自信が無ければ無駄な冒険はするなということは何度も言われたのだ。
今回はブラッドレックスの時とは状況が違う。守るべき者はいないし町に戻れば多くの戦力が存在しているのだ。
よし。
俺は音を立てないように慎重にその場を後にすると、片刃のナイフを使って木に目印をつけながら町へと戻るのだった。
****
「セリアさん!」
「あら、ディーノさん。おかえりなさい。今日は随分と早かったですね。成果はいかがでしたか?」
「狩らずに戻ってきましたが、報告があります」
「報告ですか?」
「はい。ゴブリンの集落を北の森で発見しました」
「えっ!? それはどのくらいの規模ですか?」
「はい。目視しただけでおよそ五十、寝床の数はそれの四、五倍ほどありましたので、それなりの数がいるものと考えられます」
「……ディーノさん。先月北の森でゴブリンを退治していただいた時は、姿を見かけなくなったのですよね?」
「はい」
「……わかりました。奥の部屋へとお越し頂けますか?」
「はい」
俺はセリアさんに促されて奥の個室へと通された。そしてしばらく待っているとセリアさんはなんとギルドの支部長を連れてやってきたのだ。
やはりこれは随分な大変な事のようだ。
ちなみにこの支部長はスキンヘッドでかっちりとしたスーツを着込んではいるがガタイがとても良い。そう、まるでトーニャちゃんがオネェじゃなければこうなっただろう、といった風貌だ。
「お前がディーノだな。俺は支部長のハビエルだ。ゴブリンの巣を見つけたんだそうだな」
「はい」
俺は支部長に今日見てきたことを説明した。
「なるほど。目印をつけながら戻ってきたのは良い判断だ。すぐに調査隊を出そう。本当なら大手柄だ。お前が狩っていた時に隠れていたという話から考えると、恐らくある程度知恵のある上位種が率いている可能性が高い。もしそうだとするとこのまま放っておけば手が付けられなくなる可能性もあった。よくやったぞ。お前も討伐に参加してもらうから向こう何日間かの予定は空けておけよ」
「はい!」
そう言うと支部長は足早に立ち去ったのだった。
「ディーノさん。これは今回の情報提供に対する謝礼の 100 マレです。本当にありがとうございました。普通新人さんですとここまで落ち着いた対応はできずにやられてしまうことが多いのですが、さすがディーノさんですね。カリストさんが褒めていただけあります」
「あ、ありがとうございます」
「はい」
セリアさんはそう言って極上の笑顔を俺に向けてくれたのだった。
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