第19話 Cランクの実力
「ん? ステータスを上げる方法を知りたい?」
サバンテの町を出てしばらくしたところで俺は隣を歩くカリストさんに思い切って質問してみた。
「はい。皆さんがどうやってステータスを上げているのか、普通を知りたいんです。ゴブリンを殺していれば上がるかと思ったんですけど全然上がらなくて」
「ああ、伸び悩みってことかな。もしかして、ディーノ君は戦闘系のギフトではないのかな?」
「はい」
「なるほど。それでギルドの前を通った時に君くらいの年齢の少年が君を睨んでいたんだね」
「え? 気付いていたんですか?」
「当然さ。僕たちはこの商隊の護衛だからね。どこで誰がどんな視線を向けてきたのか、怪しい動きをしている奴がいないか、その全てに気を配るのが護衛の仕事なんだよ」
なるほど。やはりCランク冒険者というのは伊達じゃないようだ。今の俺には不可能だろう。
「多分あの子は戦闘系のギフトを授かって、『ハズレ』と馬鹿にしていた君に先を越されて逆恨みをした、といったところかな?」
「その通りです」
「ああいうの毎年何人もいるからね。放っておいて、実害が出るようならセリアちゃんにでも報告するといいよ。間違っても自分でどうにかしようなんて思わないことさ」
「わかりました」
「それでステータスの上げ方だったね?」
「はい」
「そうだね。戦闘系のギフトを持っていれば、敵と戦っているといつの間にか上がっている事が多いかな。戦闘系でないギフトだと、一生懸命に鍛えるしかないね。STR を強化したければ重たいものを運んだり剣の素振りをしたり、AGI を強化したかったら走り込みするとかステップを踏む練習をするとかかな。VIT はあまりお勧めはできないけど、強い攻撃を受けると鍛えられるよ。MGC は、そうだね。ルイシーナかメラニアが詳しいかな。おーい。メラニア」
「はい。どうなさいました?」
カリストさんがメラニアさんを呼ぶと、メラニアさんが爆乳を揺らしながら走ってきた。
それに反応して向かいそうになる俺の視線の前にフラウが割り込んできて俺の視界を覆う。
『ディーノの浮気者ー! ダーリンにはあたしというものがあるのにっ!』
いやいや。男の本能なんだからしょうがないじゃないか。
「どうなさいました?」
「ディーノ君がステータスを強化する方法を知りたいらしくってね。魔法に関することはメラニアのほうが詳しいだろう?」
「わかりました。ディーノ様、MGC を強化するには瞑想をして魔力を自在に操る練習をすることですわ。そして MND は魔法を受けることで強化できますわ」
「あの、MP はどうやって増やせばいいんですか?」
「MP は限界まで使い切れば少しだけ増えますわよ。一度 MP が 0 になるまでお使いになってみればわかりますわ」
「え? あの、俺、 MP が 0 なんですけど……」
「まあ、それですと瞑想をして少しずつ鍛えるしかありませんわね。きっと一年もすれば MP が芽生えるはずですわ」
「そう、ですか……」
どうやら☆5の魔法スキルをすぐに活かすためには『MP強化』を引く必要があるようだ。一点狙いは闇だがこればかりは引き当てるしかないだろう。
「大丈夫ですわ。ディーノ様はまだ成人の儀を終えたばかりなのですから、これからどんどん成長しますわ」
「そうだね。僕もそう思うよ。ディーノ君、僕たちで良かったら訓練に付き合ってあげるよ」
「本当ですか? ありがとうございます」
やはりCランク冒険者というのは人格面も優れている人が多いようだ。こういった人たちの事は大切にしないとな。
****
俺たちは森の中へと突入した。ここから先は魔物が良く出る領域を突っ切ることになるので最大限の警戒をして進んでいく。
そして森に入ってから三十分ほどでメラニアさんが警戒の声を上げた。
「来ますわ。右から邪悪な気配がやってきます」
その声に反応して『蒼銀の牙』のメンバーはさっと隊列を整えた。商隊の人たちも剣を片手に厳戒態勢を取っている。
俺の役割はカリストさんとリカルドさん、そしてルイシーナさんが討ち漏らした魔物を止めるのが役割だ。特に、貴重なヒーラーであるメラニアさんは死守しなければならない。
俺も銅の剣を構えるとメラニアさんを守る様に前に立つ。
ちなみに今日は鉄の盾ではなく皮の盾にした。その理由は長距離を歩く時は荷物を軽くしていざという時に動けなくなる事態を防ぐためだ。
実はセリアさんにそういうアドバイスを貰ったので素直に従ったのだが、今のところあまり疲れてはいないので正解だったように思う。
「フォレストウルフだ。目視できただけで六匹だ!」
リカルドさんが大声で叫ぶと隊列から一歩前に出てウルフを牽制した。
するとがさり、と茂みから物音がした。よく見るとたしかに大きな狼がこちらを睨んでいる。ゴブリンなどとは違う本物の獰猛な魔物の姿と強烈な殺気に俺は思わず息を呑む。
「ディーノ様、あまり気張らずわたくしに向かってきた魔物だけに集中して頂けば大丈夫ですわ。それに、怪我をなさってもわたくしが治しますわ」
「はい。ありがとうございます」
俺が緊張しているのが伝わったのか、メラニアさんは優しく声をかけてくれた。
男としてこれは情けないが、やはりありがたい。おかげで少しだけ緊張がほぐれて周囲の状況を冷静に見られるようになった。
そんなピリピリとした緊張感をルイシーナさんの鋭い声が切り裂いた。
「そこっ!」
ルイシーナさんから放たれた水の矢が森の中、茂みの中へと撃ち込まれた。そしてそれが着弾すると同時に六匹のフォレストウルフたちが茂みの中から飛び出してきた。
「オラッ。てめえらの相手はこの俺だ!」
リカルドさんが大声で叫ぶと六匹のうち四匹がリカルドさんの方へと飛びかかっていき、そのうち一匹はルイシーナの放った水の槍に撃ち抜かれて地面に転がった。
そしてルイシーナさんが水の槍を放ったのとほぼ同時にカリストさんがは駆け出していた。カリストさんは自身に襲い掛かろうとしていた一匹を鮮やかな一撃で首を落とすとリカルドさんに向かっていた三匹のうちの一匹を横からこれまた見事な一撃で斬り捨てた。
そしてリカルドさんは重戦士らしく持っていた巨大な盾を使って襲い掛かってきた二匹を受け止めた。
盾とぶつかった衝撃でフォレストウルフたちの動きが一瞬止まる。
カリストさんにはその一瞬の隙を見逃さずにリカルドさんに襲い掛かっていた二匹をあっという間に斬り捨てた。
これで五匹倒した。あとの一匹はどこに行った?
「ディーノ様、お疲れ様でした」
「え?」
メラニアさんがそう言って俺を労ってくれたが、リカルドさんはさっき六匹と言っていたはずだ。
「ディーノ様、ルイシーナの最初の一撃で茂みに潜んでいたフォレストウルフのうち二匹は倒れています。そして周りにはもうフォレストウルフの気配はありませんので安全です」
そうなのか! やはりCランク冒険者というのは本当にすごい!
これだけすごい人でもCランクということは、Aランクのトーニャちゃんは一体どれほどすごいのだろうか?
「ディーノ君、怪我はないかい?」
感心している俺にカリストさんが声をかけてきてくれた。
「はい。やはり皆さん、さすがですね。俺の出る幕なんて……」
「ははは。フォレストウルフはDランクの魔物だからね。それに群れの規模が大きくなればCランクだ。いくらなんでも大事なルーキーに大怪我をさせるような馬鹿な真似はしないさ。でも、Eランクの魔物が出てきたら僕たちは少し楽をさせてもらうからその時はしっかりと頼むよ。それから素材の剥ぎ取りを手伝ってもらえるかな?」
「はい」
それから俺はカリストさんたちに手ほどきを受けながらフォレストウルフの死体を解体して毛皮と魔石を剥ぎ取ると、残る肉と内臓は穴を掘って埋めた。肉も内臓も恐ろしいほど臭いため、よほどの飢饉にでもならない限り食べる人はいないのだそうだ。
こうして後始末を終えた俺たちはハモラの村へと急ぐのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます