第8話 ゴミ箱にくしゃくしゃボール
ぺら……ぺら……
1人だけしかいない部屋に、紙を何度も表と裏にめくる音だけが聞こえる。
表にしては考え込み、裏にしては窓の外を見つめるなどの挙動不審な行動を繰り返す。
――いっそ捨ててしまえばいいんじゃないか!名案。
とうとう自分自身に痺れを切らした宮中は、急に思いついた名案とやらをさっそく行動に移す。
ぐしゃっと、“誓約書”と書かれた紙を拳程度の大きさに一気に丸め潰す。
してやったりという顔でそのまま、机の足元にあるごみ箱に投げ込んだ。
まるで、今まで悩んでいた心のぐるぐるとした毛玉みたいなものが一気になくなった気分だ。
「ご飯だよー!」
母の少し声を張った甲高い呼びかけが1階から聞こえてくる。
小一時間座り込んでいた椅子からやっと腰を上げ、今日の夕飯はなにかなと考えながら軽い足取りで階段を下りて行った。
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「おはよう~」
「何?なんか今日ご機嫌じゃん」
「え、そうかな」
珍しく朝から機嫌がいい宮中に対して、青柳が怪訝な目を向け小突いてきた。
「1限からだと口数少なめなくせにぃ」
「しいて言うなら、気になっていたことがすっきり解決した」
「へぇー、その内容が気になるけどあえて聞かないでおこ」
「聞けよ」
まだ、人が少ない正門からのキャンパス内の大通りを2人で茶番劇を演じ、ゆっくり歩を進める。
すると、突然青柳が思い出したような顔でハッとする。やべぇと小声で呟くと今度は対照的に慌てて大声になる。
「今日の9時までにコンビニで決済しなきゃいけないの忘れてた!!ごめんなんだけど、先に席だけとっといてくれるかっ」
「お前また、通販で服買ったな。買いすぎ」
急いでるためか、宮中の話を半分も聞かないうちに頼んだぞ~と言い残し、東門あたりにあるコンビニに向かって走り出して行ってしまった。
仕方がないといった様子で、一応全速力の青柳の背中にガンバと声をかけてやる。
――あいつ間に合うか?
ふと、心配になりスマホのホーム画面を開く。
8:55
「うわ、やべ」
青柳の心配をしている場合ではなかった。
宮中はリュックを揺らしながら、小走りで2棟先の社会学部棟を目指した。
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