第4話 また食堂で...

「今日はもう一つの方の食堂行ってみない?」

先ほど2限の基礎演習を終えたいつものメンツ4人。まだ完全にキャンパス内の位置を把握し切れていない宮中ら。中庭にあるキャンパスマップを見ていると、魚住うおずみが提案する。

「お、いいね。空いてるかもしれないし」

「なんでお前ちゃっかりいるんだよ」

なぜか当たり前のようにいる田中。宮中の高校からの友人である。偶然、学部は違うが同じ大学に受かっていたのだ。基礎演習は全学部1年次必修科目。クラスを学部関係なくランダムに振り分けている。そこで田中と同じクラスになったのである。

「いいじゃんか、田中めちゃくちゃ面白いし」

ザ・大学デビュー金髪の塩崎しおざきが楽しそうな口ぶりでそう言った。

「みんなも俺にいてほしいみたいだからいいよね。まんいちくん~」

宮中の右腕に田中は腕を絡ませる。

「その呼び方と腕絡ませるのやめろって」

「なになにその新しい呼び方」

高校の時からの茶番に田中と宮中はいつも通りという感じだが、今度はメンツのもう一人、青柳あおやなぎが目をキラキラさせて聞き返す。

「なにって」

「あだ名だよん。本当は万一かずひとっていうんだけど、それじゃ面白みがないからまんいちくん。どう?変態そうでいいあだ名だよね」

自分が生みの親であるかのようにニッコニコの田中。高校生の頃と変わらず常におちゃらけている姿にしょうがない奴だなとクスリと笑ってしまう。

「確かに変態そう」

「男はみんな変態だよ」

「風評被害なんだけど」

悪ノリし始めた塩崎と青柳の頭を軽くはたく。

「じゃあ、俺は逆に万一かずひとって呼ぼうかな」

魚住が真面目なトーンでキリっとした顔を作って言う。

「禁断の学園ラブロマンスが始まっちゃう始まっちゃう!」

そんな雰囲気に今度は田中が、手を口に当て声をわざと高くして茶化しだす。

「本当にお前と同じ学部じゃなくてよかった……」

「お疲れ」

田中、塩崎、青柳の3人はキャッキャッしたままでいる。そんな3人を横目に、宮中と魚住の2人は苦笑いし、呆れる。

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カツカレー、味噌ラーメン、日替わり定食、カルボナーラ、タコライス。

各々の好きなメニューがテーブルに並んでいる。

「そういえば、俺らの先輩が宮中達と同じ学部にいるんだよ」

「社会学部に?どんな先輩なん」

いち早くカレーを食べ終えた田中が思い出したように話題を変える。

「とにかくイケメン。文武両道、人当たりもよくて友達も多いって感じの完璧人間でみんなの憧れの存在だったよね」

「うん、そうだったかな。多分今でもモテモテだと思うよ」

急に藤代の話題になったためか、歯切れの悪い返しをしてしまう。

藤代、B棟――

「……202」

「え、なんか言った?」

いや、別にと言いかけるが騒がしい集団が横切ったせいで口をつぐんだ。

「宗は何でサークル入ってないんだよー」

「いやぁ、何かと忙しくてさ」

「うちの軽音サークルどう?藤代くんが来れば新しいバンドが組めるし!」

「確か1年にすごいかわいい子が入ったんだって。お前イケるよ!」

カースト上位詰め合わせといったところだろうか。男女混合の煌びやかなグループが楽しそうに歩いてきた。その中でも1人抜きん出ている人物がいた。藤代だ。

高校の時と変わらない少し薄いミルクティーの色が入っているような黒髪と目。日本人にしては薄い色素の肌。美少年という印象を抱くが背も高く、程よく筋肉もついているため“男らしい”ともいえる。誰もがかっこいいと思うような要素しかない、芸能人のようである。

――そうだ、この人だ。B棟202。

モヤモヤとしたものが一気にはっきりとし出す。

デジャヴだ、そう直観したが外れた。

今回は、こちらを一度も見なかった。気づいていないといってしまえばそうである。

「……あの人だよ」

田中がこそっと他のみんなに教える。

「マジで言ってる?俳優みたいにかっこよかったけど」

「俺、芸能人初めて見た!」

「ちーがうよ。藤代先輩は一般ピーポー!」

信じていないみんなに本当だと身を乗り出し、力説する。

「ね、本当なの?万一」

「……」

「おい、万一」

うわの空でいる宮中は魚住に肩をたたかれる。

「……うわー、見ちゃったよ最悪」

テーブルに肘をつき、頭を抱える。

――見ちゃったからには見ちゃったからには。

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