第21話 カリン襲来 カリン2

「カリン、今日の夕飯は私が作るわ。手伝ってくれる?」

「それはいいけど、その足で大丈夫なの?」

「ユヅキさんが作ってくれた、二本杖があるから大丈夫よ」


 寝室の隣の部屋までアイシャと一緒に行って、夕食の準備にかかる。

 外にいたユヅキも呼んで夕食を作っていくけど、アイシャがかまどに火を入れた時、


「%$$※☆☆※~!!」

「アッハッハ、なにあれ。魔法見て尻もち突いてるじゃない。おっかしい~」


 爆笑しているとユヅキが「お前もやってみろ」とばかりに指を鳴らしてこっちを見てくる。


「いや、私はね。あの~、ちょっとね~」


 なおもユヅキがこぶしを握って挑発してくる。


「私だってね、魔法くらい使えるわよ」


 指をパチン、パチン鳴らしたけど発動しない。使えるけどちょっと下手なだけなんだから!

 何度指を鳴らしてもやはり発動しなかった。


「$ⅹ※ー☆」


 私を馬鹿にするように笑われた。


「こっのお~、バカにすんじゃないわよ! 私だってやればできるんだからね~」


 ボンッ。

 爆発が起きて黒い煙が出た。


「カリン。落ち着いて、落ち着いてね」


 アイシャが手を握ってくれている。


「う、うん」


 また魔法を暴走させてしまった。魔法は使えるけど、うまくコントロールができない。酷い時には手に火傷を負ったこともある。



 食事が終わった後。あの男がアイシャの前にきて、魔力が吸われるような不思議な踊りを踊っていた。


「☆☆※○・ +&%・ %☆※X・ $※△・ X%☆・ ※XX&&%」


 何やら呪いのような呪文も唱えている。何なのかしらこの男。あんた魔物なの?


「分かった! 魔法を教えてほしいのね」


 えっ! 言ってることが分かったの?


 その後、アイシャの魔法講座が始まった。私も横に座って聞いておこう。

 魔力の説明の後、男が魔法を発現した。小さな小さな炎だったけど、あれは確かに魔法だ。


 男は驚き、アイシャは喜んでいる。初めての魔法なのに2属性目の魔法も使った。

 こんな奴に負けてられないわ。私は全属性が使えるのよ。今は下手だけど……、今はね。


「アイシャ、私にも教えて」

「うん分かったわ。あのね……」


 アイシャに教えてもらっていると、男が隣で膝を突いてうずくまっている。


「まあ、大変、魔力切れだわ。カリン、肩を貸してあげて」

「仕方ないわね。大方嬉しくて使いすぎたのね」


 小さな子供がしてしまう失敗のひとつね。ベッドに寝かせてしばらくすると、男は起き上がってきた。


「ま~、よくあることよ。気にすることないわよ」と、肩をポンポンと叩いた。



 翌朝まだ早い時間なのに外で物音がする。外に出ると、ユヅキが前後に飛びながら剣を振っている。人族の剣術なのかしら、変な動きね。

 稽古が終わったのか、こちらに近づいて来た。


「くっさい! あんた汗臭いわよ。服からもなんか臭うし。ちょっとこっちに来なさい」


 いくらなんでもこれは酷いわ。食料庫の奥の洗い場まで手を引っ張って連れて行った。


「ここで体洗って、服も洗濯しなさい」


 急にユヅキが服を脱ぎだす。


「何してんのよ。レディーの前で。この変態~」


 寝室に戻るとアイシャも起きてきたようで文句を言う。


「アイシャあいつ、すごっく臭いの。洗い場で洗うように言ってきたわ。あんた今までよく我慢できたわね」

「そういえば、少し匂ってたかな。でもあんまり嫌な臭いじゃなかったわよ」


 えっ、なんで。狼族の方が嗅覚優れてるんじゃなかった? 私がおかしいの?


 食料庫から出てきたユヅキは上半身裸だった。やっぱ変態だよ。

 朝食の時のユヅキも変な格好をしていた。裸に革のジャケットだけ着てる。洗濯しろと言ったのは私だけど、着替えくらい持ってないの?



 朝食の後、ユヅキがまた不思議な踊りを踊った。


「分かった! 薬草がいるのね」


 いや、なんで分かるのよ、アイシャ。


「カリン。眠りの薬草を採りに行ってほしんだけど、お願いできるかしら」

「その薬草なら採ったことあるから分かるけど、林をひとりで歩き回るのはちょっと無理だよ」

「ユヅキさんに護衛してもらえば大丈夫だと思うわ」

「え~、あいつに! まあ家の近くで採れるから、何かあってもすぐに帰って来れるけど」


 仕方ないか、アイシャのためだもんね。


「あんた、しっかり私の護衛しなさいよ」


 薬草を採りに林に入る。薬草は群生してるから見つけやすいし、この辺りに沢山生えている。

 ウロウロと探していると、小さなウサギが飛び出してきた。ユヅキがビックリして剣を構えているわ。本当はコイツ弱いんじゃないの?


「あっ、あった。これなら籠いっぱいに採れるわ」


 帰ろうとユヅキを呼んだ時。


「キャッ」


 ヘビに足を咬まれた。赤い縞模様のヘビだ、毒ヘビかも!


「%☆※X!」


 ユヅキが何か言ったけど、ヘビはもう逃げていた。

 私のズボンの裾をたくし上げて、ヘビに咬まれた傷口に口を付けて吸い出している。毒を吸い出しているの? 少し痛いけど何度か血を吸って吐いている。


「カリン、※☆☆※&&%」


 大きな声で名前を呼ばれたけど、何を言っているのか分からない。早くアイシャの元に帰らなきゃ。家の方角を指差す。

 私を背負って家の方に走り出す。速い! 落ちないように首にしがみついた。


 油断していたわ。ズボンは穿いて来たけど、街中で穿く丈の短い生地の薄い服だ。

 アイシャの事が気になって、そこまで気が回らなかった。どうしよう。

 ユヅキに背負われて寝室に走り込む。


「アイシャ! 毒ヘビに咬まれたの。どうしよう!」

「カリン落ち着いて! どんなヘビだった」

「赤い縞模様の小さなヘビだったわ」

「頭は赤かった?」

「いいえ。黒い色だったわ」

「良かった。それなら大丈夫よ。毒ヘビじゃないわ。カリンごめんね。私のせいで怖い思いをさせて」

「いいえ、いいのよ。私も迂闊だったわ」


 そういえば籠をギュッと握りしめていた。


「良かった。薬草はあんまり零れていないみたい。はい、アイシャ」

「うん、ありがとう。カリン」

「それにユヅキさんも、ありがとうございました」


 その後、ベッドに座ってユヅキに足の治療をしてもらった。何やら白い小さな石のような物を手渡された。少し光っていて綺麗で、宝石かなと思っていたら、


「それ、お薬なの。水と一緒に飲んで」

「えっ、そうなの。飲んでいいの? じゃー」


 ユヅキは私のために、傷口から毒を吸い出そうとしてくれた。あれは確か自分も毒を受ける危険な行為だわ。

 毒ヘビじゃないと分かってからも、貴重な薬を使って治療してくれた。

 本当はいい人かも。


「ありがとう。ユヅキ」


 小さく呟いた。

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