第8話 治療2
戻ってきた俺は、アイシャの眠っている様子を見てから、残り少ない水を使って食事を作って食べた。後4、5食分作るだけの水はありそうだが、アイシャが起きたらどうするか聞いてみないとな。
椅子に座ってウツラウツラと微睡んでいると、寝室からゴソゴソと物音が聞こえた。アイシャが起きたようだ。
「アイシャ。食事をするか」
ご飯を食べる身振りをして尋ねたが、今は要らないらしい。水だけでいいようなのでコップに水を汲んでアイシャに渡す。
そこで俺はアイシャに水が少なくなったことを伝えようとしたのだが、
「アイシャ・ 水瓶・ 中・ 水・ もう無い・ どうすればいい?」
身振り手振りでジェスチャーゲームのようなことをするが、なにかMPを減少させる不思議な踊りのようになっている。
アイシャもキョトンとした顔でこちらを見つめている。
だからね……。
「アイシャ・ 水瓶・ 中・ 水・ もう無い・ どうすればいい?」
うん~。大の男がクネクネと獣人の娘の前で踊っているのは、シュールな光景だと思えてくる。
「※○△※、☆☆※◇◇※」
おおっ! なんとか分かってくれたようだ。
アイシャが部屋の壁際の棚を指差す。そこにあるのは長さ20cm程の
それをアイシャに手渡すと今度は「抱っこ」というように両手を広げて俺の目を見てくる。
「え~、どういうこと。抱き上げるの??」
アタフタしているとアイシャは体を起こして、なおも両手を広げて小首をかしげこちらを見つめてくる。よく分からんが、アイシャをお姫様ダッコして立ち上がる。
奥の扉、食料庫の方を指差しているので、扉を開け中に入る。
洞窟の壁がむき出しの倉庫は薄暗くなっているが、その奥のもっと暗い所に行くようだな。
どんどん進んでいくと、手に持っていた木の燭台の丸い上部から光が溢れ出て辺りを照らしだした。
「おお~、光ってるぞ~。何だこれは!」
俺はビックリしてアイシャの顔を見ると、クスリと笑ってもう少し先だと伝えてくれる。
ここで降ろすようにと言っている場所は、つるつるで平らな岩の床。足を怪我しているアイシャを直接洞窟の岩に降ろす事になると躊躇したが、アイシャの言うまま座らせるように降ろした。
奥には柵がありその下に、ロープで括られた手桶のような物が置かれている。その手桶を柵の向こうに投げるように言っている。
言われるまま2、3m先に手桶を投げると、ポチャンという水音がした。ロープをたぐり寄せると手桶にいっぱいの水が入っている。
どうもこの先には地下水脈があるようだな。
横には小さめの樽があり、そこに水を溜めて樽を転がして運ぶらしい。なるほど、川に行くよりもこの方が楽だな。
やり方が分かったので、アイシャにはベッドに戻ってもらおう。後は俺がやる。ランプだけここに置いてもらって、お姫様ダッコして寝室まで戻る。
倉庫奥の水場に行き、さっきの続きをする。樽がいっぱいになったら、栓をしっかり閉めて転がして水瓶まで持って行き、水瓶に水を移してまた水場に戻る。
その繰り返しだが、途中ベッドにいるアイシャに「働く男はすごいだろう」と、ニッと白い歯を見せ親指を立ててアピールすることは忘れない。
3往復すると水瓶の水はいっぱいになったが、なかなかの重労働である。だがこれでしばらくは水の心配をしないで良くなるな。
そろそろ日が暮れてきた。アイシャの元に行って「食事はするか?」と身振りで尋ねるとウンと頷いたので、食料庫から肉を切り取ってかまどに行く。
今回は肉を少し大きめに切って煮込む形でご飯を作ろう。鉄鍋に火をかけ肉を入れ焼いた後煮込み、火を落としてから非常食の粉を入れておかゆを作る。鉄鍋ごと寝室へ持って行こう、これなら温かいまま食べれるだろう。
2つのベッドの間にある小さな机に、鍋敷きを置き鉄鍋を乗せる。俺も隣のベッドに座って一緒に食事をする。
やはり食事は一人より二人の方がおいしいからな。おかわりもあるのでアイシャにはたくさん食べて早く回復してほしい。
今回のご飯もアイシャは気に入ってくれたのか、2杯食べて満腹したようだ。
食器を洗ってからアイシャの元に戻ると、なんだかモジモジして俯きながら両手を広げてダッコのポーズをしてくる。
「どうしたんだ。またお姫様ダッコか?」
アイシャを抱き上げると、今度は隣の部屋の出入口を指差している。扉を開けて外に出ると左手の方に行くように伝えてくる。
今まで気がつかなかったが岩のくぼみの所に木で組んだ小さな部屋がある。言われるまま扉を開けると、中には椅子のような物が1つだけあって上に蓋が乗っている。
「あ~。トイレか」
どうりでモジモジしているわけだ。蓋を取ってアイシャを座らせて外に出る。
しばらくしてトイレのドアをノックすると、扉が開いて真っ赤な顔でダッコのポーズをしている。
水の流れる音がしていたので水洗トイレじゃないかと、気になってトイレの方を振り返ると、怒ったように俺の耳を引っ張って反対の方向に顔を向けさせた。
「ごめん、ごめん。気になるお年頃だものな」
少し配慮が足りなかったか、今後は善処しよう。
寝室に戻り、アイシャをベッドに座らせて、カプセル錠剤を飲んでもらった。薬が効いたのか熱もない。少し横になってもらい足の傷の状態を見させてもらう。
包帯に血が滲んだ跡はあるが、出血は完全に止まっているようだ。これなら食事をして寝ていれば回復していくだろう。
日も完全に落ち暗くなってきた。アイシャに眠るように言って隣の部屋に行こうとした俺を呼び止めて、隣のベッドを指差した。
「☆☆※◇、☆☆※○△※☆※○」
言っていることはよく分からないが、このベッドのシーツはガーゼや包帯代わりに切ってしまって、植物由来のクッションがあるだけだ。
ベッドの下を指差し、布を広げる仕草をする。ベッドの下には薄手の毛布と掛け布団があり、それをベッドに取り付けてほしいようだ。
毛布はシーツ代わりになりベッドを包む。布団をベッドにセットすると、俺にここで眠るようにと身振りで伝えてくる。
「いや、でも、女性の部屋だし。俺は隣の部屋で寝るよ……」
と言う間もなく、腕を引っ張られてベッドに座らされた。
疲れた顔をして心配させてしまったのかもしれないな。それでゆっくり眠れるベッドを用意してくれたんだろう。
そうだな。確かに疲れているし、アイシャの容体を見るにもここの方がいいか。
俺は靴を脱ぎ、上着の革ジャケットだけ脱いで柔らかいベッドに潜り込む。ここ何日も堅い床で寝ていたので心安らぐ寝心地だ。
隣のベッドではアイシャがこっちを見て微笑んでいる。
「○☆※○、ユヅキ※☆」
「おやすみ、アイシャ」
疲れていたのか、すぐに睡魔が訪れ深い眠りに落ちた。
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