第1章 異世界暮らし 山の家

第1話 白い部屋

【まえがき】

 この小説は現在、改訂中で順次更新しています。

 完結指定されているため、更新の通知等は届かないと思いますが、基本、毎日更新で改訂済みの話を投稿しています。

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 目を覚ますと、そこは白い部屋だった。なんだか酒に酔ったみたいに頭がふらつく。


「ここは、何処だ……」


 立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。

 どれくらい時間が経ったのか分からなかったが、朦朧としていた意識が徐々に覚醒し始め立ち上がり少し歩くと、上の方から語りかけてくる声が聞こえる。かなり若い女性の声だ。


「・・目覚めましたか? あなたは・・この世界を・最後の・・なんとしても・」

「ん~、まだ頭がハッキリしていなくて、よく聞き取れないのだが……。ここは何処で、なぜ俺がここに居る?」


 女性の姿は見えないが、どういう状況なのかまずは確かめねば。まだふらつく頭のこめかみを押さえつつ尋ねる。


「あなたは、・・ここに生まれ直し・・たのです。この世界・人類にとって・・お願いです・人々を救ってください」


 いきなり何てことを言うのだ、この女は!!

 俺が生まれ直した? 転生か? 人類を救えだと!

 いったい何の事だかさっぱり分からないが、俺の聞き違いではないだろう。


 俺は何の特技もない、ただのサラリーマンだぞ……それよりも俺は死んだのか? 記憶を遡っても死んだ憶えはないんだが……。

 いや、待て待て。たしか大きな地震が来て、何か家族が叫んでいたような記憶がある。


 徐々にだが過去の記憶が蘇る。……そうだ、俺は大学をなんとか卒業し第三志望の光学系会社に就職したのは良かったが、希望した研究部門ではなく営業を兼ねた事務職に回されてしまった。


 理系の俺は慣れない仕事をなんとか続けていたが、残業につぐ残業で過労死ラインを彷徨い、家に帰れば泥のように眠る日々が続いていた。

 結婚することもなく実家で暮らし、親や妹達にも心配をかけ続けた。あの日、地震が来ても起き上がることができず、もしかしたら逃げ遅れたのかもしれない。


 最後の記憶では自宅のベッドで寝ていたのは確かだが、その後の記憶が曖昧だ。こんな白くて、何も無い部屋を俺は知らない。


 すると今喋っている女性は女神様か何かなのか? ここは死後の世界か、異世界の入り口か?

 だが体はちゃんと動くし生きている実感もある。これから先、俺は異世界をひとりで生きていくことになるのか!!

 ならば。


「おい! 女神様か誰だか知らないが、人類を救えなど仰々しい事を言うからには、俺に何かチートのような物を授けてくれるんだろうな」


 ラノベの転生ものは読んだことがある。色々なチート能力をもらって異世界で生き抜くという展開があったはずだ。


 何も分からない状態で異世界に飛ばされて、すぐ死んで終わりというのは堪ったものではない。できれば、魔法とか強い武器とか特殊能力とか、もらえるものは何だってもらっていきたい。


「わたしは、この世界・・管理者。わたしの権限では・・あなたに渡す物を・。お願いです・人々を救ってください」


 いや~、だからね。人類を救うなんて無理、無理、無理~、と思っていたら、後ろの方でロッカーのような扉がプシューと音を立てて開いた。


 近づいてみると鞄と剣、それとローブのような衣類がロッカーの中にあった。取り出した鞄の中には鞘に納められたサバイバルナイフや筒状の金属、それと黒い布の袋? 袋の中には何か入っているようだが用途がよく分からんな。


 剣はショートソードのような西洋の剣だ。全てを取り出すとロッカーの扉は音もなく閉まった。

 これで異世界を旅しろと……。だが俺は勇者じゃないんだからな、冒険とかして人類を救うなんてできるわけないぞ。


 転生したと言うなら、どこかの片田舎で庭のある広い家に住みたい。犬とか猫とかペットでも飼って、ゆったり星を見ながら過ごしたいものだ。前世の社畜のような人生は懲り懲りだ。

 ちなみに俺は犬派でも猫派でもない。可愛くてモフモフであれば何でも受け入れるぞ。


「おい! 女神様。これがチート武器なのか。他にエクスカリバーとかアカシックレコードとかチートっぽい派手目な物はないのか」


 そういえば俺の格好も勇者っぽくないぞ。厚手の綿のズボンに、ゴワゴワの長袖シャツ。上着はポケットの付いたノースリーブで焦げ茶色の革ジャケットだ。

 靴は編み上げのショートブーツ……俺は木こりAなのか?


「今のわたしでは・・ここにある・・それだけ・・この世界を・・ 先にはまだ・・大丈夫です」


 ん~。どうも女神様の声はキンキンとノイズのようなものが混じって聞き取り難い。まだ俺がこの世界に順応していないのかもしれんな。


「あなたに幸多かれと祈っています」


 突然、背中を預けていた壁が音もなく開き、下に向かう通路が現れた。俺はなすすべもなく荷物を持ったまま、滑り落ちて行く。


「うわ~、何だこりゃ~。チュートリアルはこれで終わりかよ~。このダ女神~~」

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