遺跡の入り口

「これで最後の一匹ぃ!」


 最後のウルフを切り倒して、ようやく辺りは静かになった。今日だけでもタチバックウルフの群れに遭遇するのは五回目だ。


「さすがにこうも連戦が続くとな……」


「それだけ淫魔石に近付いているということですね」


 ガルの話によれば平原の真ん中にあるという遺跡の付近が怪しいという。その遺跡に確実に近付いているということだろうか。


「もう遺跡は目の前だゾ! 俺の方向感覚に狂いはネェ!!」


 ……だそうなので、やっぱり遺跡は近いようだ。この先さらにタチバックウルフ以上の淫魔たちがウヨウヨいるかもしれない。


「ピンチになったら助けてくれよ、バプラス」


「フン、なぜ用心棒が依頼主に助けを求めているんだい。あべこべだろう」


 あの日馬車で(無理矢理)契りを結(ばされた)んで、バプラスも何かしらの勇者の力を得ているはずだ。だが敵がザコばかりだというのもあってか、バプラスは未だ一度も戦闘に参加していない。


「契りを結んだ時点でルール的には仲間判定なんだから、もう依頼主じゃないだろ」


「ほう、では君の右腕の傷をもう一度開いてあげようか。その糸は私の商品なのでね」


「脅しかよ……」


 もう二日ばかり経つが未だに二の腕の感覚はない。幸い(勇者パワーか何かか)左手でも辛うじて剣が振るえるのでなんとかなっているが、下手をすればすぐに傷が開きそうだ。


「でも聖水が欲しいなら結局俺を生かしとくしかないだろうからな。そうやすやすと俺を見殺しにはしないだろ」


「さァね。それを決めるのはその時の私さ」


 これはつまり、バプラスなりの降参の言葉である。口喧嘩でバプラスに勝つのは少し癖になりそうだ。


「お二人とも急に仲良くなられて。楽しそうでなによりです」


「「どこがだ」」


 ハモってしまったが、俺は普通にバプラスが苦手だ。美人なのはさておき一緒にいたいタイプではないな……。


「……くだらない話をしていれば。見てみろ」


「また淫魔か!?」


 バプラスの一言で咄嗟に腰の剣に手をかけたが、前方に見えたのは淫魔の群れではなかった。むしろ俺たちが今の今まで探していたもの。


「あれが……遺跡か?」


「そーだ! 古い古いぶんめーのそれがすごい遺跡なのだ!」


 ガルの説明からは何の情報も得られなかったが、確かにそれは遺跡の入り口のようだった。何もない平原にポツンと土色の煉瓦が積まれていて、中が空洞になっている。


「ふむ……これは地下に続いているのか」


 いつにないスピードでバプラスが先行して遺跡を覗き見る。地上にあるのは立方体の入り口だけで、中には地下へ続く暗い階段があるのみ。


「これはファンタジーっぽさが溢れてるな……」


「私が先頭で進みましょうか!?」


「スピカが行ったらトラップを踏んで巨大な岩が転がってくるのが目に見えてる」


「岩???」


 現実世界のネタが仲間に一切通じていないが、まあとにかくスピカを先行させたらやばい。最悪みんな死ぬ。


「アナ、先頭を行ってくれるか。俺も後ろで構えてる」


「心強いです、ヒロキ様」


「今回は私も行こう。金目のものがあるかもしれないからな」


 こうして遺跡へはアナ、俺、ガル、スピカ、バプラスという編成で入っていくことになった。暗い階段とトンネルは真っ直ぐに真っ直ぐに続いていく……。

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