出立の日
俺たち三人がクロス村を発つ日、村の入り口にたくさんの人が集まってくれていた。その中にはクララやイルナ、もちろんジータの姿もある。
「しっかり淫魔たちを成敗してきてよ、ゆ・う・しゃ・さ・ま!」
ジータはそう言って俺の胸を人差し指で突いた。数日前に熱烈な別れの挨拶(白目)をしたからか、そこまで寂しそうではなかった。……念話したときに子供生まれてたらどうしよう。
「助けが必要なら遠慮なく呼べよ」
イルナはわざわざソフィをおんぶしてきてくれていた。正直俺より何倍もイルナは強いから、いざとなればすぐにでも呼ぼう。死にたくないからな。
「それじゃあ皆さん、行ってきますね」
アナが最後の挨拶をすると村の人たちが口々に別れを惜しんだ。親が既にいないことやその優しさも手伝って村全体から愛されていたんだろう。村の人たちのためにもアナのことは大切にしなきゃな……(新婚早々不貞を働いたのは許してほしい)。
「ここからが本当の冒険、か」
「勇者らしくなってきましたね!」
ゲームで言えば恐らくクロス村はチュートリアルの範疇。まさにここからがスタートというわけだ。
クロス村の淫魔石を破壊したおかげで森の中の淫魔はきれいさっぱりいなくなっていた。そういえば俺が最初にアナと出会ったのがこのあたりだったな。その次の日にアナがタチバックウルフに犯されたのもほぼひと月前のことだ。
「それでこの先にスピカの言うメイランの町があるんだよな?」
「は、はい! このまま森を抜けてもっと行ったところです!」
スピカが一人で来れたのだから歩いていけないことはないんだろうが、一か月さまよっていたことを考えるとまっすぐ行っても一週間以上はかかるかもしれない。
「スピカちゃんは途中砂漠を通ってきましたか?」
「いえ? 多分ずっと森の中だったと思います」
「だとしたら相当遠回りしてきたんですね。メイランへは砂漠を突っ切るほうが早いですから」
「え、これから砂漠に行くのか」
旅の序盤でいきなり砂漠か……いくらか水と食料があるとはいえ炎天下の中歩き続けるのはきついぞ……。
「大丈夫ですよ。一週間もあれば着きますから」
やっぱり一週間かかるんじゃねえか。ファンタジー世界の住人は逞しいよなまったく……。
「あ! 勇者様! おいしそうなキノコを見つけましたよ! さっそく味見してm」
「まてまてまて!!!」
スピカのドジっ子属性もあるし。この旅本当に大丈夫なんだろうなあ。
代り映えのない森の中を歩きながら俺は深くため息をついた。
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