平原の遺跡編

女の子にガチ泣きで土下座された件について

「よろじぐおねがいじまずぅぅぅぅ!!! なんでもじまずがらぁぁぁぁ!!!!」


 俺の目の前で女の子が土下座して泣いている。……別に俺が何かしたとかそういうんじゃない。……やめろ、俺を疑うな。確かにクララを無理矢理仲間に引き入れたけど本当に今回は違うんだ。誤解するな読者よ。


 遡ること5分ほど前のこと。俺とアナはいつも通り朝食をとっていた。


「うぅ……全身が痛いですよぉ……」


「あぁ……俺もだ……」


 昨晩二人してハッスルしてたせいで主に腰回りが筋肉痛だ……。リア充ってこんなのを毎日やってるのかよ。すげーな。


「朝ご飯遅くなっちゃってすみません……今すぐに何か作りますね!」


「無理しなくてもいいぞ、ゆっくりで」


 アナもおばあちゃんみたいに腰をこぶしで叩きながらえっちらおっちらキッチンへ向かう。……さて、俺も顔を洗ってそろそろ起きようかな……。


 と思っていたその時だった。


 ガタンッッッ!!!


「たのもーー!!!!!!!!」


「なっ、なんだなんだぁ!?」


 突然玄関がすごい勢いで開いたかと思えば何者かが大声を発しながら家の中に飛び込んできた。まじでなんだぁ!? 新手の強盗かぁ!?


「あ! あなたが噂の勇者様ですね!!」


「え、俺?」


「ヒロキ様のお知り合い……ですか?」


「いや……」


 侵入してきたのはアナより一回り小さい女の子だった。ひらひらと風に舞うマントとローブの中間みたいな上着に魔法の杖らしきものを持っているのを見るに、どうやら魔導士か何からしい。そして、やたら服や髪の毛が汚い。


 それにしてもいきなりなんなんだ。俺に用があるらしいけど、少なくとも今まで一度も会ったことがないぞ。


「と、とりあえず話は後で聞くからまずは朝の支度を……」


「勇者様!! どうか!! 私を!! 仲間にしてください!! なんでもしますから!!!」


 女の子はそう言うや否や無駄のない動きでその場にしゃがみこみ、額を床の板材に打ちつけた。つまり土下座した。


「え、えぇ……?」


「よろじぐおねがいじまずぅぅぅぅ!!! なんでもじまずがらぁぁぁぁ!!!!」


 挙げ句引くくらい大泣きし始めた。やめるんだ。このままだと俺が何か悪いことをしたみたいに見えるじゃないか。


「とりあえず落ち着きましょう、ヒロキ様はどこにも行きませんから」


「がみざま゛ぁ゛ぁぁぼどげざま゛ぁぁぁゆうしゃざま゛ぁぁぁぁ!!!」


 まったく……朝から体だけでなく耳も痛い。少しは俺を休ませてくれ~~~。


※ ※ ※


「私ってば大変失礼なことをしてしまいまして……」


「とにかく落ち着いてよかったです」


 アナの尽力のおかげで女の子はなんとかクールダウンして、俺も朝の支度を済ませて、三人で食卓についていた。


「で、結局なんだったんだ」


 パンをかじりつつ女の子の話を聞こうとする。顔の広いアナが敬語で話しているあたり、やっぱりこの村の人じゃないんだろう。


「わ、私は魔導士のスピカっていいます。隣のメイランの町でとあるパーティに入って淫魔と戦っていたんですけど……」


「既にお仲間がいるなら、どうしてヒロキ様のもとへ?」


 さっき仲間にしてくれ、みたいなこと言ってたもんな。既に仲間がいるなら俺に仲間にしてもらう必要なんかないわけで。


 それに、もう一つ気になることがある。


「そ、それが……何十日か前、戦闘中に突然†赤い騎士†様の姿が忽然と消えてしまったんです! 本当に目の前で煙のように……」


 スピカはまたも半泣きになりながらその時のことを語った。……まあそいつの厨二くさいハンドルネームはさておき、数十日前というと俺がこの世界に飛ばされてきた時期と被るな……。


「他のお仲間はどうなされたんでしょう?」


「そ、その、私極度の方向音痴で……森の中だったので†赤い騎士†様が消えてしまってからすぐに周りを見たんですけど、誰もいなくなっていて……」


 パーティに勇者除き四人いるんだから三人のいずれかくらい見つかる気がするんだけどなあ。さっきから見ている限りこの子は少し(?)鈍臭い子なんだろう。


「しかも死にかけながらメイランの町に戻ったら安全地帯が破られて淫魔だらけになっていて……」


「安全地帯が破られた!?」


 シェリーの話では人の町は安全地帯になっていて淫魔は入り込めないという話だったが……どうもそう単純な話でもないらしい。


「私、パニックになって淫魔から逃げ回ってて、気付いたらこの村に辿り着いてました……そしたら近くに勇者様がいると聞いて……」


 逃げ回って……って、勇者が消えたのは一ヶ月前だろ……?


「食べるものとかは大丈夫だったんですか?」


「まともに食べられるものなんかなかったから、そこらへんにあるきのみとか……その……虫とか……ほとんど吐いちゃったけど……」


「大変! もっとご飯食べてもいいんですよ? おかわりはいっぱいありますから、ね? 食べ終わったらお風呂も使っていいですから!」


「あ……ありがどう゛ございばず……」


 想像以上に過酷な旅路を超えてきたんだな。さすがに同情する。


「それで仲間にしてもらうために俺のところへ来たわけか」


「はい……お金も何も持っていませんから……」


 だいたいの話の流れは読めた。淫魔王がこの世界をゲームから本当の世界に書き換えた瞬間にゲームのプレイヤーはこの世界から消滅し、アストロデューテの言う通り俺一人だけが現実世界から連れてこられた。そしてなんらかの異変が起きて隣の町が機能停止してこの子がとばっちりを受けた、と。


「とりあえず事情は分かったから、今は旅の疲れをとるんだな。食事も風呂も好きに使っていいから」


「は……はい!」


 女の子は泥だらけの顔でにっこりと笑う。この子のお願いを断ることは……できないわなぁ。


「髪の毛洗うの大変だから私が洗ってあげますね」


 アナはまるで子供ができたみたいにるんるん気分でスピカのお世話を始める。やっぱりアナはいい嫁さんになるわ……と思いつつ、俺は真昼間に朝ご飯をむさぼるのであった。

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