背に腹は変えられねえんだっ!!

「話しかけないで、と言ったはずだけれど」


 以前と全く同じ場所で全く同じように剣を振るうそいつのもとに俺は息を切らしてやってきていた。正直気乗りはしないが、アナたちの命がかかってしまっているのだから背に腹は変えられない。


「俺のせいでアナやジータが危ないんだ。力を貸してくれないか」


「言ったでしょう、私は弱い人間と組むつもりはない。私に勝てるほど成長したとでもいうの?」


「組む組まないの話じゃない。助けて欲しいんだ。俺が弱いのは分かってるから頼みに来てるんだよ」


 俺が逸る気持ちを抑えてそう言うと、イルナはやっと剣の素振りを止めた。


「……だから弱い人間とはつるみたくないのよ」


「……?」


「弱い人間は必ず周りを危険な目に遭わせる。あなたが弱い限りあなたの仲間は危険な目に遭い続ける」


「それは……」


 まさしくその通りだった。剣術的な弱さだけではない。戦術家としてもリーダーとしても、俺はあまりに弱すぎた。だからこのような事態も全く考えてなかった。


 急にゲームの世界に飛ばされてきたんだから弱くて当たり前だろうが!!! と思わないでもないが、しかしそれはアナたちが死にかけてる言い訳にはならない。元がゲームだろうがなんだろうが、この世界は現実に目の前にあるのだから。


「自分が弱いのは分かってる……と言ったわね。だったらなおさら救いようがないわ。分かっていて仲間を危険に晒しているのだから」


「……」


「せいぜい自分の至らなさを後悔することね」


 イルナはそれだけ言うとさっきと同じように素振りをしようとする。……このままでは本当に後悔するだけで終わっちまう。そんなことは……そんなことはあっちゃいけないんだっっ!


「……なんの真似かしら」


 俺は無心で額を地に擦り付けていた。現実の会社ですらこんなことしたことはない。でも身体が咄嗟にこの形に動いたのだ。


「俺が悪かった。予測を立てられなかったのもあいつらを守る力がないのも、全部俺が悪い。俺の責任だ。だから殴られろと言われれば殴られるし切り刻みたかったら黙って肉片にもなる。……だから責めを負うのは俺だけにさせてくれ……あいつらだけはなんとか助けてやってくれ!! 後生だ!!」


 何度も頭を地に打ち付けながら唾を撒き散らして叫ぶ。唾液が鼻に逆流してクソ痛い。それだけ必死だったということだ。


 イルナはしばらく俺の無様を黙って鑑賞していたが、何分としないうちに「はあ」という大きなため息をついた。


「そこまで言うなら彼女らを助けてあげましょう。ただし本当に今回だけよ。絶対にあなたを助けたとは思われたくないから、『助けられたのは自分ではなく仲間だけだ』とあとで村の人たちに自分で申し開きをして回りなさい。それが条件」


 そう言うや否や、イルナは蒼く長い髪を翻して俺が顔を上げるのも待たず村の出口へ歩き出した。


「……恩に着る」


 俺はパーティのリーダーとして、勇者としてあの場に行かなければならない。「俺を助けた」のだと疑われないように微妙な距離を取りながら、イルナについて森の中の坂を登った。

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