第50話やったもん勝ちっ
瞬時に車内の空気が引き締まり、身体が臨戦体勢になる。
「だいぶ遠かったな……」
カイリが窓の際からそびえる警視庁の建物を
「建物の中からかな?
反響しててよくわからなかったね」
ジュニアの声にイチが振り返った。
「庁内?
こんなところでぶっ放すなんてただのバカだろ。
暴発とかじゃねぇの?」
銃声はよく風船の割れる音と間違えられたりする。
でも、聞き慣れたあたし達からすれば間違いようなんて無いくらい、はっきりと銃声だった。
……あんまり慣れたいものじゃ無いけどね。
「どうする? 出る? 出る?」
「カエちゃん。ワクワクし過ぎ」
リカコさんにたしなめられつつ駐車場入り口から目が離せない。
「気になるっ。
たむたむ中にいるかな?」
LINEを開いてだいぶ下の方に追いやられてしまったたむたむのトーク画面を開いてみる。
「2発目とかは無いね」
動きの無い地下駐車場。ジュニアの一言に徐々に空気もだれてくる。
手に握るスマホが着信を知らせてきた。
「たむたむだ。
もしもし?」
『香絵ちゃん?
また本庁の中にいるの?
今物凄く立て込んでるから! 絶対にチョロチョロ動いちゃダメだよっ!』
電話の奥からも怒号が飛ぶ。
「たむたむ。何があったの?
さっきのは銃声だったよね?」
『詳しくはわからないけど……。
東田副総監が発砲したらしいんだ。
さっき、捜一の前の廊下を通ってっ、たまたまここに用事のあった女子鑑識官を人質にエレベーターに乗り込んだみたいで。
とにかくっ、終わったら連絡するから大人しく隠れてて。
いいねっ!』
一方的に通話が切れて、耳に虚しい無音が響く。
あたしに注目していたみんなに、大体の流れを伝え終え。
「あらあら、事情聴取に来た〈おじいさま〉の側近に牙剥いちゃったのね」
「ただのバカだったねー。
エリートはストレスに弱いから」
リカコさんとジュニアに言われたい放題。
「エレベーターに乗ったんだろ?
どこに出るつもりなんだろうな」
車内を振り返るカイリにジュニアが答える。
「正面からは出られないね。
出たとしても、囲まれて逃走は不利。
だとしたら、
東田は車持ってるんでしょ?」
リカコさんに視線を向ける。
「ええ。
一昨日は白いセダンで廃工場に来ていたわ」
「来るね、ここ。
捕まえたい人ぉっ!」
「はぁぁいっ!」
ニコニコと微笑むジュニアに、大きく手を挙げる。
「無理言わないの。
周りは警察官だらけなのに手は出せないわ。
大体捕まえたところで手錠もインシュロックも無いし、捕縛しておけないわ」
呆れたようなリカコさんの言葉に、楽しそうにジュニアは運転席の下を指す。
「カイリ。そこのドラムバック引っ張り出して。
リカコ。インカム貸して。
備え付けの道具箱からドライバーを出すと、リカコさんの放り投げるインカムをキャッチ。
「なんでリカコさんのインカムなの?」
「コレはホストインカムだからね。
周波数の設定ができるんだ」
パチンとインカムが2つに割れて、細かい部品の中のツマミを回す。
「確か、この辺り」
再びインカムを閉めるとゴホンゴホンと、わざとらしく咳払いをした。
「総員に告ぐ、総員に告ぐ。
犯人は人質を盾に1階正面入り口に到達の模様。
総員速やかに現場に集合し待機せよ。
なお、犯人は拳銃を所持している。
注意されたし」
いつものふざけた軽い声ではなく、男の人を思わせる低くドッシリとした渋い声。
うん。ジュニアは男の人なんだけどね。
「さてと、上はしばらく持つでしょ」
いつもの声に戻って、リカコさんのインカムをポケットにしまった。
「動き出しちゃったから、クレームは受け付けませぇん。
諦めてサクサク行きましょう」
膝立ちで宣言するジュニアに、リカコさんが頭を抱え、慣れた様子でカイリとイチが腰を上げる。
「このドラムバック。黒スーツとヤリあった時の?」
見覚えのあるバックに記憶が蘇る。
「そ。あの時の捕縛機。
開けていいよ」
ジュニアの声に、勢いよくファスナーを開けた。
「うっわ。
何これ? ロケットランチャー?
どこで買ったの」
あたしの一言にバックを覗き込んだリカコさんが目を
「どこで買ったかなんて。聞きたいの?」
にぱぁっと笑うジュニアにちょっと引いちゃう。
「……やっぱり、いい」
「一応聞くけど、誰が撃つのよ」
「あたしやりたいっ!」
リカコさんの確認に、あたしはピシッと手を挙げるけど。
「ダメぇ。
飛距離伸ばすために単発にしちゃったから、チャンスは1回だけ。
撃つならリカコだね。
ライフル用のスコープ付けといたから問題ないでしょ?」
むぅ。銃火器は確かにリカコさんが一番上手。
「ライフル用スコープが付いてるならいいけど」
渋々と頷くリカコさんにジュニアは満足げに頷く。
「日の目が観れてよかったよ。
作戦説明するからね」
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