第48話胸の内
「行きたいっ! 明日の捕物」
「明日は金曜日よ。学校」
「別に俺たち皆勤目指してないし」
あたしとリカコさんのやりとりにイチも加勢してくれる。
「〈おじいさま〉が表の仕事を見学させてくれるなんて、そうそう無いよね。
まっ。越智への嫌がらせが半分以上を締めている気がしなくも無いけど」
ジュニアもこちらを振り返る。
「これはリカコの負けじゃないのか?」
静観していたカイリもやれやれと言った顔を見せる。
「んんんっっ。」
「そんなリカコにちょっと時間をあげる。
越智雄介の調書あったよ」
ジュニアがデスクからイスをずらすと、デスクトップが見えるようにしてくれた。
「当時は連日ニュースのネタにもなってたみたい。
僕たちはまだ10歳くらいだね。
事は外務省職員宅の非公式なホームパーティ中に、テロリストが乗り込んで来たのが原因だったみたいだよ」
画面の見える位置にそれぞれが移動して、大きな屋敷の写真と、関連の記述に目を向ける。
「公安部参事官が数名の部下とSAT《サット》の精鋭を連れて交渉と鎮圧に乗り出したんだけど、無理な制圧に踏み出して死者を出したみたい」
「それが、越智雄介」
リカコさんが調書に目を通していく。
「と、他数名。
外務省の役人も犠牲になったみたい。
でもね。その後、裏では越智雄介殺害説が暫く流れていたみたいなんだ。
当時越智ダヌキは警務部長になったばかりで、東田も警務部長候補の1人だったみたいだよ。
東田公安部長が無理な突入を指示して、参事官にやらせたって。
で、当時の参事官がなんと拉致の時に車を運転していたあの男。
工藤参事官」
カチカチッとマウスをクリックすると眼光鋭い見覚えのある顔に、リカコさんが嫌な顔をする。
「この男、道路にタバコの吸殻投げ捨てたのよっ……。
参事官なんてエリート街道を棄ててまで、東田に着いていく意味があるのかしら?」
「責任取らされて、降格したみたい。
全責任を被っても東田に着いて行く。
どんな裏取引があったのかなぁ。
ワクワクしちゃうね」
にまぁっと、ジュニアの悪い顔。
「越智ダヌキは、真相究明したかったのかな?」
あたしの脳裏に、いつも仏頂面で嫌味しか言わない越智の顔が思い浮かぶ。
あたしにはまだわからないけど、子供に先立たれるのって相当辛いって聞くし。
「どうかしらね。
胸の内まではわからないけど、同じ事が繰り返されないようにしたいとは、思っているみたいね」
リカコさんも心なしか優しい空気で越智をフォローしてくれる。
「だからこそ、危ない現場に子供は出るなって思うんじゃないの?」
はっっ。
「いやいやいやいや。
リカコさんそこはまた別」
危ない危ない。
まぁ、1人でも行っちゃうけど。
「僕は諦めてみんなで行ったほうがいいと思うよ。
ダメって言ったって、カエこっそりと行っちゃいそうだもん」
「はっ!
心読んだ?」
ジュニアの一言に両手で胸を押さえる。
「うーん。カエはすぐ顔に出るからね。
多分みんなにバレてるよ」
あれ?
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