第36話潔白の証明

 昼休み。

 深雪達のニヤニヤを背中に感じながら教室を後にする。

 分かってる。あたしが過剰反応するからいじられるんだって……。


 特別教室の並ぶ階に上がると、生徒会室の前でリカコさんが丁度鍵を開けていた。

「リカコさんっ」

 小走りに近づくと、リカコさんが笑顔を見せてくれた。


「お疲れ様。

 カイリから聞いたよ。カエちゃん、襲撃されたんだって?」

 ドアを開け、先にあたしを通してくれる。


「ありがとう。

 ホント危うく大惨事だよ」

 なんとなく決まっている窓際の席にお弁当を置き、パイプ椅子に腰を下ろした。


「今回はイチとジュニアが気づいてくれたから良かったけど、ちょっとどうにかしないとなぁ」

 リカコさんもお弁当と鍵を置き、窓を開けにくる。


「イチと仲直り出来たんだ」

「えっ……」


 一瞬。昨夜の寮での出来事が頭をよぎり、リカコさんと合った目が固まった。

「……。

 ジュニアが仲直りするように仕向けたみたいだって。聞いたけど……。

 今、違うこと考えてたでしょう?」

 っ。ショッピングモールの事だ。


 明らかに目が泳いじゃったあたしの隣に、にっこり笑ったリカコさんが腰を下ろしてくる。

「カエちゃんはホント素直よねー」

 リカコさんが怖いよぉ。




 廊下から徐々に近づく話し声が生徒会室の扉を開ける。

「何してんの?」


 くすくすと楽しそうな様子のリカコさんと、その隣で長机の上に突っぷすあたし。

「女の子だけの秘密」

 リカコさんが唇に人差し指を立て、疑問を口にしたジュニアに答えると、名残惜しそうに正面の席に戻っていく。


「さてと。みんなそろったわね」

 リカコさんのいつものセリフもなんだか締まらない。

「ああっ。だめだ」

 楽しさが堪え切れないリカコさんが急に背を向ける。


「カエちゃんが可愛い過ぎて……。

 ジュニアごめん。データ出しておいて」

 大きく深呼吸をして、パタパタと顔を扇いで気持ちを落ち着ける。


 もういいもん。なんとでもしてください。

 あたしもムスッと顔を上げる。

 カイリとイチが顔を見合わせて肩をすくめている横で、ジュニアがノートパソコンを取り出した。

「変なのぉ」


 ノートパソコンにUSBメモリーを差し込んでジュニアがマウスを操作する。

「6月4日。

 とりあえず榎本のパソコンに入ってたこの日の資料と、関係ありそうなもはピックアップして来たよ」

 ジュニアがあたしを見る。


「昨日巽さんのお使いで署に顔出したんだけど、たむたむと会ってね。榎本課長の6月4日の行動がちょっと気になったんだ」


 課長クラスが出るには不自然な小さな一件、たむたむと四六時中しろくじちゅう一緒に行動していた事、逮捕時の課長の一言。

 とりあえずあたしの見解を話していく。


「なるほどね」

 リカコさんはうなづいて、頭の中で情報を整理していくみたい。


「もしカエちゃんの考え通りだったとして、代わりに製薬会社に入ったのは誰だったのかしら?

 結局真影さんの潔白の証明にはならないわ」


 まぁね。


「真影さんがその日何をしていたか、どこにいたのか分からないかなぁ」

「6月4日。

 僕達は何してたかなぁ」

 あたしのつぶやきにジュニアが自分のスマホを取り出すと、パソコンとケーブルで繋ぐ。


「内偵の前日だろ?

 テナントビルに新しく入ったケーキ屋に行ってた」

「ノエルねっ。フルーツタルト美味しかった」

 イチとジュニアと3人で出かけてる。


「ん。私も放課後由美と行ったわ。

 飾り付けが可愛らしいのよね」

 リカコさんの一言にカイリがうなだれる。


「あれ。行ってないの俺だけ?」

「あはは。今度行こうね。カイリも一緒に」

 パシパシとカイリの背中を叩く。


「見ぃつけたっ」

 パソコンのキーボードを叩いていたジュニアが、クルリと画面をみんなに向けた。


「6月4日の真影さんの行動。

 スマホにアクセスして、ISOの中に残ってたデータを引っ張ってきた」

「ISO?」


 あたしの問いかけにジュニアがにこっと笑う。

「スマホはね、自分が今どこに居るのかって事を覚えているんだ。

 それがずっと蓄積されてる場所がISO。

 GPSの履歴みたいな感じかな」


 パソコンの画面をめくる。

「この日は朝4時に家を出て、〈おじいさま〉の家に寄ってからゴルフ場に向かってる。

 前日にゴルフ場までのナビが検索されてるし、そこを出たのは午後3時くらい。

 ついでに〈おじいさま〉のショットの動画が撮られてるけど、確認しとく?」


「第3者が真影さんのスマホと一緒に〈おじいさま〉とゴルフって可能性もあるわ。

 確実に真影さんだった証拠が欲しい所ね」

 リカコさんが髪を耳にかける。


「リカコは疑り深いよねー。

 あんまり友達のスマホの中はいじりたくないんだけどな」

「友達って……。

 でもよく真影さんのスマホに入り込めたね」

 榎本課長は、巽さんからたむたむを通って入り込んだんだろうけど、真影さんや〈おじいさま〉は孤立してるイメージ。


「僕、真影さんとLINE繋がってるもぉん」


『ええっっ!』

 ジュニアのカミングアウトに一同騒然っ!

「そう言えばジュニアって、本庁からの帰りは必ず真影さんに送ってもらってるわよね。

 じゃあ、動画は私とジュニアだけで確認しましょう。

 個人情報ダダ漏れてるけど、せめて。ね」



 廊下に出ていたあたし、カイリ、イチが、リカコさんに呼び戻される。

「動画の中に真影さんの声と、姿を確認したわ。

 真影さんはシロ」


 ほぉっ。

「よかった」

 イチとのケンカの原因にもなっちゃったけど、やっぱり疑い晴れてよかった。


「また1から解析ね」

 面倒な一言だけど、リカコさんの声も安堵の表情を見せてくれた。

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