11#‥方向転換

 ここはグレイルーズ国内にある、サンバの街の近隣の森の中。リッツとタツキは歩きながら話をしていた。


「本当に魔獣はいないみてぇだな。いるのは獣と小動物ぐらいか」


「タツキ……何か退屈そうだね」


 リッツがそう言うとタツキは溜息をつき、


「ああ。前に召喚された時と世界観が違いすぎてな」


「世界観が違うって……昔はどうだったの?」


 不思議そうにリッツはタツキを見た。


「そうだな。この辺は、なんとなく見覚えがある。昔この辺りには魔獣や怪鳥などがいて、ここを通る者を襲っていた」


「そうなんですね。でも何でだろう?」


「さあ、リッツが知らねぇのに、俺が知るわけがないだろう。流石にな……」


 タツキはそう言い、ふと何かを思いつき、


「リッツ。直接オパールに行こうと思ってたんだが。すまない、気が変わった!」


「タツキ。どうしたの?」


 リッツがそう言うとタツキはバッグから地図を取り出し、そのままの態勢で広げた。


 そしてタツキは地図を見ながら、


「ここから近い国の城下街は、ラウズハープが近いな」


「もしかしてそこに行くの?」


「ああ。後にしようと思っていたが、少しこの世界の事を知りたくなった」


 そう言いタツキはラウズハープがあるであろう方角に視線を向けた。


「僕は構わないけど。タツキは大丈夫なの?」


「……多分、大丈夫だと思う。連絡しとけばな」


「連絡って誰に?」


 そう言われタツキはリッツの方を向くと、


「俺の仲間だ。オパール付近で落ち合う約束をしている」


「仲間って……まさか女の人ですか?」


 リッツがそう言うとタツキは、フゥーと息を漏らし、


「リッツ。そうだったら良いんだが。……残念なことに男だ」


 それを聞きリッツは心の中で、ほっと胸をなでおろした。


「タツキの仲間か、どんな人だろう。やっぱり異世界の人なのかなぁ?」


「いや違う。ヒューマンで、確かホワイトガーデンのルーンバルス城で、元は働いていたと言っていた」


「そっかぁ。僕は、ヒューマンとは一度も会った事がないから、会うのが楽しみだなぁ」


 そうリッツが言うとタツキは首を傾げ、


「一度もって……そこまで国は閉鎖的なのか?」


「ううん。そういうわけじゃないんだ。国と国の間に境界線や関所はあるけど、さほど厳しいわけじゃない」


「ん?それって、どういう事なんだ」


「過去に何があったのか良く分からないけど」


 今まで見聞きしてきた事を、リッツは思い出しながら、


「お互いの国の人たちが警戒してるらしく、よほど興味がある人とか以外は、他国には寄り付かないらしいよ」


 それを聞きタツキは俯き、今と昔の事を比較しながら考えてみた。


(昔は、よほど他種族との交流がない街や村でない限り、他の種族の者たちは自由に行き来していた。だが今は……)


「……タツキ。急に黙ってどうしたの?」


「あ、ああ、すまない。ちょっと考え事をしていた。さて、ここで立ち止まって話をしていてもしょうがない」


 そう言いタツキはリッツを見ると、


「とりあえず街か村まで行き一晩やすんだら、そのままラウズハープを目指そうと思う」


「そうなるとボカロ村が、最もラウズハープに近いけど。今から向かって夜までに着かないといけないから……ルンバダの街が良いかも」


「ルンバダか。まだ街が残っていたんだな」


 そう言うとタツキは微かに笑みを浮かべた。


「結構あの街は古いみたいだけど、200年前ってどんなだったの?」


「そうだな。その事については、ルンバダに着いて街の様子を見てからの方が良いかもな」


 タツキがそう言うとリッツはコクリと首を縦に振った。


 そしてリッツとタツキはその場を立ち去り、話をしながらルンバダの街へと向かった。

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