第69話51.ドワーフの娘。1

私にとって一番古い記憶は、何処かの建物の前で父と母が抱き合って泣いていた事だ。

只、漠然と覚えている。

それからの記憶は断片的。

馬車に揺られて向かった先で、おじさん達と何処かで建物を建てていた。

雪が降っていた記憶がある。

住処は屋根と壁が有って暖かかった。

それから、建物が完成すると。

馬車に乗って森の中にやって来てのテント暮らしだった。

雪が所々に残って居たが暖かい家から出たので少し文句を言ってお父さんに叱られた覚えがある。

毎日、お父さん達は森の木を切って行った。

わたしは、女の人達と料理を作るのを手伝った…。

毎日。

毎日、泥だらけ。

ある日…。

大勢の汎人の人達がやって来て大きな家を建てた。

全部の家が繋がった様な…。

長い家で何か懐かしい形だった。

大きな汎人の人は今までも時々やって来た…。

ソレ迄は馬車一台で道具や食料を運んで来ていたていどだった。

驚くほど沢山の馬車がやって来てあっと言う間に大きな長い家を建ててしまった。

そして次の日、お父さん達が切った木を馬車に積んで帰っていった。

皆でテントをたたみ、出来た家に住む事に成り…。

困ってしまった。

汎人の人が作った家は汎人の寸法だった。

扉もベッドも机も椅子も…。

広くなった調理場も腕が高くて疲れるとお母さんがボヤいていた。

数日後に来た汎人のお役人さま…。

村長さんが申し訳なくはなし。

汎人のお役人さまは今、気が付いた様な顔をしていた。

ご領主様の使いの方は村長さんの話を聞いて驚いた顔が可笑しかった。

建てた家はご領主さまの物で、わたし達が家を建てたら。

将来、お役人の住む家だと後で聞いた。

なので、手を入れて良い部屋と悪い部屋を決めてもらい、皆で椅子と机の脚を切る仕事をした。

男の人達が台を作ってもらい。

竃を使うのも楽に成った。

それから、しばらくして弟が生まれた。

わたしは村の中でも最年長の子供なので子供達の面倒を見るのが仕事に成った。

森の切り株に茸が生えると村のみんなで収穫した。

収穫した沢山の茸を干して乾燥させた。

沢山あるので。

父に付いて馬車で町に売りに行った事もある。

町は家が多くて汎人の人がいっぱい居たので驚いた。

父の知り合いも多いのか、笑顔で声を掛けてくる汎人も居る。

”はい”と”いいえ”。

”ご領主さまのおかげで…。”

わたしは、汎人が話すこの言葉だけが解る。

帰りの荷馬車の中で父がその事を知ると。

村長さんと村の男の人達が集まり、困ってしまった。

父も母も…。

村長さんは直ぐにお役人にお伺いをたてに荷馬車で町に向った。

帰ってくると沢山の本を積んでいて、村の人に一人一冊づつ渡された。

本には”―カルロス帝国語・ロジーナ王国語、会話対応表―”と書いてあり。

絵と文字が両方書いてあった。

大まかな帝国と王国の地図もあり、国王陛下の名前を始めて知った。

わたし達はロジーナ王国ビゴーニュ領に住んでいて。

その時、初めて私達が話している言葉が帝国語で、汎人の言葉がこの国ロジーナ王国の言葉だと理解した。

村長さんは。

「これから村では帝国語を話してはいけない。」

と言い。

女の人達は困った顔をしていた。

わたしが帝国語しか話せないのは

「女の人達が帝国語で会話しているからだ…。」

そうも言われた。

文字も書けない女の人も居るのに…。

但し、そう言って居たのは初めだけで。

帝国語で話をしても王国語で復唱すれば良い…。

程度に変わってきた。

本には絵が描いてあり、”梨”が”箱に”、”入る”、”出る”、”隠れる”で王国語を覚えた。

自然に帝国語の文字も何となく覚えたが、”梨が逃げて箱を突き破る”と言う表現はたぶん使わないと思う。

周囲に伐採した切り株の土地が広がると。

時々、汎人の人達が大勢やって来て、何か仕事をして帰って行く。

ドワーフの男の人達も手伝っている。

森が草原に変わり、水路が繋がった。

水路が繋がると、泉とお風呂が出来た。


汎人はお風呂が好きみたい…。

わたし達はあまり好きではない。

何故かお風呂とトイレは令があって、守る事が多い…。

村長さんも首を捻っていたが、お役人が真面目に叱るので。

みんなが守っている。

汎人の男の人達が来て大きな荷馬車で草原を掘り起こす。

あっと言う間に草原が耕作地に変わる。

その数日後、わたし達は総出で豆を蒔いた。

その豆が収穫できた頃には妹が生まれた。

冬になると一面真っ白で…。

毎日、豆ばかり食べていた。

男の人達は、文句も言わずに食べている。

村長さんの”文句が在るなら猟に出ろ、来年は麦を植えるぞ!”の言葉で耐えている。

雪が解けて春になると…。

遂に麦を蒔いた。

そこからは順調だった。

弟達が走り回る様に成ると。

遂にわたしたちの家を建てる事に成った。

汎人の馬車で木材が運ばれてくる。

男の人達がどんどん家を建てて往く。

同じような家が通りの両脇に出来て往く。

簡易炊事場と共同水路と洗い桶、水を処理する水槽もある。

庭に個人の畑とトイレ。

完成した家を見てお父さんが、

「これでやっと…。皆の仕事が出来るな…。」

「ええ、そうねぇ…。」

「ああ、大丈夫だ、道具を作らないといけないが…。先ずは蜂箱からだな…。先は長い。くず鉄はその内集めて…。先に炉を作るか。」

初めてお父さんが鍛冶屋だと知った。(正確には鋳物屋:ロストワックス鋳造)

建てた家は空いた場所は多いので荷馬車用の納屋か各仕事をする小屋を建てた人も居る。

村の農地は村人総出で耕作している。

何とか生活が出来るように成って来た頃、わたしは父の背を越えた。


(´・ω・`)番外編で…。(時間を稼ぐ)

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