第67話50.王宮にて

「そうであったか…。」

王宮の奥、嘗てはワシの執務室で息子と話す。

もうワシが主でないが、部屋の中はあまり変わっていない。

国王である息子から全てを聴いて妙に納得してしまった…。

”ハイデッカーの男は必ず目的を果たす…。”

国軍将兵の噂だが、あの魔法使いもハイデッカーの男だったのだ。

「どうしたら良いのでしょうか?父上。」

「うーむ。」

ワシは若くして父が亡くなった、若くして王と成ったので一人で悩んで居た事が多かった。

周り大臣等と相談もしたが有る程度、方針を決めてから相談したことが多かった。

無論、想いもしなかった良い方法を見つけた者の案には素直に従った。

「状況を整理せよ…。」

息子国王が決めねばならん事だ。

「はい。帝国は我々との交戦を望んでいません、我が王国は帝国と共に繁栄を望む相手と成りました…。」

誇らしげに話す息子…。

重要な所はソレではない。

「我々が単に強くなった…。帝国を滅ぼせると見せつけてしまったからだ…。あの魔法使いがな。」

あのデブは魔法使いで軍人で軍略家で教師で賢者で辺境伯なのだ…。

「はい…。ビゴーニュ辺境伯が…国軍での働きが大きいです。」

困ったものだ…。

「帝国大使の反応はどうだ?」

「クロデラート大使は本国の指示を仰ぐと…。方々に手紙を出している様子です、又、フランチェスカ女男爵の屋敷に何度も使いを出しています。」

「ふむ…。」

「恐らくマルカ殿との面会を望んでいる様子です。一応…。警備の兵を増やしておりますが…。」

帝国は先の世継の混乱で死亡していた皇族の一人が見つかったのだ…。

帝国貴族達は何を望むのか…。

消すか、攫うか…。

恐らく家族に害を成す者はあのデブは許さないだろう。

今でも切っ掛けが出来てしまえば、あのデブは速やかに軍を整え帝国に攻め入るだろう。

ソレを害するのが王国であっても。

辺境伯の家族は王国に取っての人質のだったが、辺境伯にも…。王国に取っても完全な弱点扱いに困る存在に成ってしまった…。

「辺境伯軍は単独で帝国に勝てるのか?」

「恐らく今の現状では不可能だと思います…。10年後は解りません。」

「あの男は酷く冷酷な男だ…。無理はしない。割の合わないカケもしないだろう…。」

「はい。確かに。但し、我々の知らない方法で何かをされると…。」

答えは出ない。

サイコロの出る目が解る方法を知っていればどんな割の合わないカケでも進んで行うだろう。

あの男の知識と行動力は…。

「…。」

ため息を付く息子。

やはりあの男は危険だ…。

対応を誤れば王国に害を成す。

「その、ビゴーニュ辺境伯は王の命は聞き及ぶのか?」

「はい…。あくまで個人の事として復讐を望んでいる様で、王国辺境伯としての責務は果たしております。」

だが、平時には王国に繁栄をもたらしている。

「個人か…。貴族の狭義か…。」

個人の持ち物で辺境伯はポケットが大きすぎる。

「はい。現状はビゴーニュ辺境伯が暴走しても止める方法が無いのが現状なのです。」

「あの男が領地を選んだ理由だな…。」

自分の女の復讐を代わり、女の幸せを守る為に…。

それが、帝国への復讐でも。

帝国に勝つ為に王国を作り変え強い国軍と豊かな国をつくる…。

個人で帝国を亡ぼす程の兵力を揃える…。

気が狂っている。

だがあのデブの魔法使いは着々と準備している。

我々は生き残るためあの男の言葉ソレに乗ってしまった。

長い冬は終わったが、あのデブの働きが無ければ半分の汎人も生き残れなかっただろう…。

あのデブは今は未だ辺境伯だが20年内に完全に独立してしまうだろう…。

未だ開拓が始まったばかりと聞いているが、森を切り開き…。

考えられない速さで帝国との国境まで進んでしまった。

噂では、谷を埋めて水を溜め、水路を作って農地を用意していると聞く…。

恐ろしい速度だ。

正直、王国から切り離した方が良いのではないか…。

そんな馬鹿な事を考えてしまうほど…。

「他の貴族たちの反応はどうだ?」

「特には…。あくまで国境の小競り合い程度と考えている様子です。流石に南方の国境際の領主達は素早く軍を起こした様子です。それ以外は何も。」

「南方は以前に痛い目に合っている…。領主は義務を果たすだろう。」

「はい、あくまで守る事に動いただけです。王国軍はハイデッカー家の影響が強く、対帝国の考えで染まっております。無論、コレは現状、王国国土を脅かす存在が帝国以外無いのが理由です。」

「国軍の考えは国土の保全の為には仕方が無い…。軍人将軍だけを押さえておけば暴走は無いだろう…。」

「現状は商人達は利に走っており、王国内でも帝国との交易は増えています。我が王国は国土を守れるなら帝国とは事を構える気は無いのです。」

なるほど…。

「ならば、辺境伯は王国の法を守っている、王国は辺境伯の復讐の邪魔をしなければ歯向かう事も無い。」

「辺境伯自身も目的を明確にしています。王国の一部であるが、敵は今の帝国皇帝。それだけです。」

ソレが復讐の為に巨大な帝国を倒す事だとしても…。

「では、何を悩む?」

「どうやって辺境伯を王国に従わせ続けるか…。ですね。」

答えは出ないのだ。

あの男は辺境伯としての地位を剥奪しても一人で戦争を完遂しそうだ…。

しかも、死なない。

「ならば…。捨てておけ。」

最早、ドラゴンより質の悪い魔物だ…。

「はい?」

「息子よ…。子供達は見ておるか?」

「はい。毎日。」

「孫達はすくすくと育っておる、あの中から次の辺境伯を出せば良い。」

「はぁ…。」

「クロウくんも利発だ…。ヘンリエッテも良く懐いている。末のリーゼロッテもな。」

「未だ早いかと…。」

不機嫌になる息子…。

ワシとよく似とるな。

娘が可愛いのだ…。

「辺境伯は恐らく10年は動けん、20年先には交代だ…。若い者を育てて託そう。」

「そんな…。無責任な。いえ。そうですね。」

「ワシらで次世代の王国の中核を育てるのだ…。コレも国王の務め、国王の椅子も王冠も借り物である事を忘れるな。」

問題は消えないが蟠りは消えた顔の息子。

「はい。解りました。」

そうだ、国王でも答えを出さないと言う選択肢は有るのだ…。


どうせ、あのデブは誰にも止められない。

国王でもだ、ソレがこの王国の…。

大魔法使い大デービスの扱いなのだ。

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