VS ラスト‐マン‐プレミアム (対戦相手(作者さま):負け犬アベンジャーさま)

【前哨戦】 【VS:『ワールドプレジデント』ジョセフ=バイコディン】 【ダイス:『2』】 【戦名:『こうしょう』】

(約1700文字) その一 誘拐犯たち

【前哨戦】

【VS:『ワールドプレジデント』ジョセフ=バイコディン】

【ダイス:『2』】

【戦名:『こうしょう』】


 どこかも分からない山奥の丸太小屋の前に、その男は立っていた。

 男の名は『ボーイ』。レストランやホテルにいるウェイターのような服装を身にまとい、懐には小型だが鋭利な果物ナイフを忍ばせている。

 男の頭の中に直接語りかけるように、何者かの声が聞こえてくる。

『その建物が、今回の前哨戦の舞台です。対戦相手はすでに中に到着しています。対戦の概要については中にいる『協力者』から聞いてください。なお私はこれ以後、この語りかけも含めて一切戦いに関与しませんので、あしからず』

 チッ。男は舌打ちを漏らした。

 いまのは天使とやらの声だ。たとえ相手が誰であれ、従うのはシャクだが、戦いに勝てば望みのものが与えられるというため、仕方ない。

 丸太小屋の入り口には、地面に横たわり大量の血を流している、兵士のような格好をした二人の人間がいた。出血量からして、もはやこと切れているだろう。

(邪魔なやつらだ)

 男は殺されている兵士を蹴り飛ばして、丸太小屋の中へと入っていく。

 中には、性別も年齢も国籍も、服装さえバラバラな何人もの男女プラスアルファがいた。そのうちの一人が、入ってきた男――ボーイに近付き、説明する。

「やあやあ、よくぞいらっしゃいました。これから『神』と『天使』が仕掛けた戦いを始めますが、その前にある程度、簡単に説明しておきますね」

 ボーイの返事も聞かず、その『協力者』の一人は話し続ける。

「まず、あなたの対戦者はそこの椅子に座っている、ご老人となっています」

 協力者が指さす先を、男は見やる。

 そこには木製の椅子に座る白髪蒼眼でスーツ姿の老人がいた。よぼよぼで体力がないのか、手にする立派な剣を、杖のようにして床についている、というか刺している。

 協力者が続ける。

「今回の戦いは『こうしょう』となっています。クリア条件は、このあと五分くらいしてから帰ってくる男に、『OK』という単語を言わせることです」

 別の人物が次の語を引き継ぐ。

「細かい説明をすると、これからあたしたちがここにいる女の子を誘拐するから、その男にとある宗教国の大統領を暗殺するように頼むこと。その男は、この子のお父さんってわけね。国名については、別に言わなくても、その男ならピンと来るはずだから、心配しなくても大丈夫よ。ね、簡単でしょ」

 三人目の協力者が言う。

「しかし注意点があるからの、ちゃんと聞くんじゃぞ。注意点の一つ目は、OKを言わせたあと、すぐに殺されてしまった場合はノーカウントになるということじゃ。目安としてはそうじゃのお、一分くらいかの」

 四人目が口を開く。

「じいさんや、他にもあるじゃろうて。わたしゃらはこれから車で逃げるわけじゃが、おぬしらがわたしゃらを殺したら、やはりその時点で敗北にさせてもらうからの。わたしゃらも、命は惜しいからのう」

(車なんてあったか?)

 ボーイが疑問に思うのと同時に、その腰の曲がった老婆の後ろにいたものが口を開く。ロボットだった。

『ピピ、超高性能ロボットであるワタシを車呼ばわりとはヒドイデスネ。まあ、いいですけど』

 そう言って、そのロボットは丸太小屋の外に出ると、ウィーンガシャンという機械音を響かせながら、一台の車に変形する。

 丸太小屋の中にいた協力者たちがその車へと乗っていく。老婆の後に続いた、メガネと蝶ネクタイをした男の子がボーイへと振り返る。

「あ、それと、これからやってくる男は元特殊部隊で、めちゃくちゃ強いから、たぶんきみたちじゃ勝てないと思うから注意してね」

「ああ……⁉」

 男の子の言葉にキレそうになったボーイの横を、えっさほっさと縛られた女の子を担ぎ上げながら、一人、いや一匹と表現した方が的確か、人間の子供ほどもありそうな巨大なネズミが通り過ぎる。

「チュチュ、ダメでチュよ。僕たちを殺したら、チュミの負けなんですからねー」

 そして、さるぐつわをされて、目に涙を浮かべる女の子を自動車に入れると、協力者たちはその場から離れていった。


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