怪獣の食物事情

「というわけで、尻子玉しりこだまのおいしい調理方法について急募」

「なんでやねん!」


 セーラ達と昼食をとりながら午前の相談の時にあった内容をかいつまんで説明する。

 ちなみに今日のお昼はミートスパである。

 まぁ、大体通じたでしょ。


「つまり、そのホモの彼氏が幸福感に満たされてるって話ですよね。聞いて損しました。というかそんなくだらないことで通報させたのかよ」


 唾でも履きそうなノリでそう吐き捨てる、アカリ。

 あれ、通じてなかったらしい。

 解せぬ。


「私はレビィ経由で大体わかってるけど。ユウちゃん、あなた本当に説明下手ね」


 そういうとセーラが要点をかいつまんでアカリに再説明してくれた。


「なるほど、やっとわかりましたよ」

「ほほぉ、そんな話だったんか」

「あんたは分かれよっ!」


 切れるアカリにレビィが深く頷く。


「なんやホンマ大変やな」

「今後はあんたにもこのアホ姉の面倒押し付けてやるから」

熨斗のし付けて返すで」

「倍返しにして返してやる」

「ならその三倍や!」


 ぐぬぬとうなるアカリ。

 ははぁ、あれやね。


「人気者はつらいさね」

「「「それは違う(ちゃう)」」」


 妹たちの声がきれい被った。

 さて、セーラの再説明があらかた終わったあたりで私は再度切り出した。


「でだ、まじめな話、尻子玉ってのは実在せんのね」

「ないわね」

「私も聞いたことないですね。少なくとも妖怪はいますが河童自体が沙羅さら姉以外には見たことないですし」

「え、カッパさん沙羅おねーちゃんしかいないの?」


 黙って聞いていたリーシャが目を丸くして聞いてきた。

 そんな妹の仕草に微笑みながらセーラがレビィのほうを向く。


「いないわよね、レビィ」

「おらんな。基本的に海におる幻想種はワイの眷属や。川は分からんけど少なくとも海では見たことないで。それにや、たまに生まれても怪獣が美味いエサや思ってすぐに喰うてまう。せやから大体生きのこってんのは海から発生して陸に生き延びた連中や」


 なるほど、そういうことになってるのか。


「そも怪獣ってなんで幻想種食べるのよ」


 私がレビィにそう聞くとレビィは器用に肩をすくめるような仕草をした。


「お前さんらはなんでパンやご飯を食べるねん」

「なるほど」


 根っこからして、そういうものらしい。

 それじゃしょうがない。


「食べるのって他の怪獣とか幻想種、精霊にアンデッド、それと魔獣や魔力の強い人間に亜人全般だっけか」

「せやな。たまにしか食えへんけど星神ほしがみもやで。上位の星神をたらふく食えればワイら怪獣も深度変わるときがある。ごっつい稀やけどな」


 そこらへんは本当に捕食関係なのね。


「つーことはレビィも食べたことがあるのね」

「あるで。せやけどワイは古いから食うてもいまいちやな。よーある権能は大体揃うとるし」

「ふーん、なんかその言い方を聞いてるとレビィってまるで日本の神様みたいだわね」

「なんや知らんのかいな。ワイみたいな古代怪獣は星神も兼ねとるんやで。昔は古神とか旧神ともいわれたもんやが、ワイとメティスで星神に振り分けし直したねん」

「ほぉ」


 レビィと話しながらセーラ、アカリを見やる。

 二人とも驚いた様子もなく食事を続けてるとこを見ると、このこと知ってたね。

 レビィがサメみたいな量産怪獣と違って、きっちり考えて喋るのって星神だってのもあるのかね。

 つーか神にして怪獣か。

 ますますもってやばいね、それは。

 正攻法で挑んだら瞬殺だったかもしれんわ。

 そんなことを考えていると横にいたリーシャから声がかかる。


「ユウおねーちゃん、ほしがみってなに?」

「そりゃお星さまの神様よ、レビィ星になるんだってさ」

「ワイ、神さんやで。そしていつか星に……ってなるかい、ボケっ!」


 レビィとじゃれつつリーシャには適当に説明する。

 さて、星神ほしがみとはこの世界固有の上位存在のことである。

 ぶっちゃけ言うと幽子も星神の一種に該当するらしい。

 その星神なんだけど位置づけ的には幻想の最上位近くに該当するそうだ。

 そしてその星神を創作したのは白の龍王で、例によって王機をその動作の裏付けに利用してるらしい。



「アカリちゃんや、星神って白の龍王の創造物なのよね」

「そうですよ。星神用の王機おうきがありますし」


 星神用の王機ねぇ。


「それって神殿とかにでも収納してるんかね」

「いえ、というか毎晩見てるじゃないですか、青い月。アレが王機ですよ」

「あー、あれか」


 この世界には私らの世界でいう白くて大きい月がない

 その代わりぼんやりと見える小さな赤い月と青い月が存在する。


「あれ、王機なのか」

「あれ言ってませんでいたっけ」

「聞いてないわね、というかシャル、意図的に黙ってたわね」


 私がそういうとアカリが考え込む仕草をした。


「んー、シャル姉が言わなかったということは、言わないほうがいいんですかね」

「いや、いい機会だから聞いとく。あの双子の月ってどっちも王機なん?」

「そうですよ。青い月が白の龍王の所有物で星空王せいくうおう。赤い方の月が虚構王きょこうおうといって赤の龍王の私物でギルド関係の追加ステータス管理とか全般を担当しています。それぞれ所有者の手で大規模改修されていて今だとメビウスイーグルとワルプルギスって名称でも呼ばれてるんですが、私はなんとなく旧名の方で呼んでますね」

「ほぉ。そりゃまたなんでよ」

「星空王の方は神聖術しんせいじゅつが絡む仕事の関係で縁があったんですが、内部処置マジックコードの名前が古いままで直せてないのが結構あったんで。それでなんとなくですね」

「なるほど」

「ついでに言っておきますと神聖術は凡そ二系統で、以前言ったように月華王に依頼して発行する月系の神聖術と、月華王げっかおう経由で星空王に依頼する星系の神聖術で構成されています」


 なんかどっかの歌劇団の月組とか星組とか思い出すわね、それ。


「私達四聖の神技、あれのコマンドも星空王に収納してるわ」

「なんでよ。セーラたちはそもトライよね」

「そうよ、だからこそ普通だと肉体拡張が難しいの。神技、人によってはアーツって呼び方する人もいるけどあれのコマンドを収納する場所が足りないのよね。私たち四聖は呼び出された後で白ちゃんから改造手術を受けていて、全員星神としての形質も持ってるのよ。沙羅ちゃんの場合には本人に収納ができそうだったからアカリちゃんに手伝ってもらって沙羅ちゃん自身のMPに覚えせたけど」

「まぁ、コマンドの叩き込みには慣れてます。肉体に直焼き付けは普通はやりませんけど。沙羅姉の場合には半幻想種なのでやりやすかったですね」


 沙羅が姉妹によってしれっと人体改造されていた件について。

 まぁ、アカリとセーラがやったなら大丈夫か。

 それにしても星神ねぇ、セーラがみずがめ座とかレビィが蛇使い座とかみたいに星座に紐づいてたりとかするんかね。

 ここ、幻想世界アスティリアは基本的には牧歌的でポエミィな割には、サクッと食べられたり殺されたりするという初期の童話じみた世界だ。

 通常だとインナー世界がにじみ出る場合には風邪の時に見る悪夢のように、意味もなく訳もなくただ残酷に無意味にグロテスクで無秩序になることが多い。

 そこを秩序立てているのは初代、青の龍王が作ったとされる八柱の王機だ。

 その一機が星神、つまりは幻想の頂点である自我を持った独立駆動体を担当するというのは、まぁ納得できる話ではある。

 私のスキル、妹転生もそこら辺に絡んでるかもしれんわね。

 それにしても今まで幽子以外、影も形もなかった星神がここにきてオンパレードやね。

 セーラやレビィが星神兼任ねぇ、そうなると四聖ってのは人工的に作り上げた神って側面もあるのか。

 随分と酷い無茶をしたもんだわね。

 あー、いや逆か。

 本気でテラの銀色の巨人を再現したいなら、それくらいはしないと無理だと白の龍王が考えたってことか。

 きっときっかけは多分セーラのアレだわね。


「まぁ、そこらはいいか。セーラ、アカリ。私的には沙羅って線はないかなと思うんだけどどうよ」

「私、河童の子は初めてだからわからないわ」

「私もですね」


 ふーむ、二人は意見保留か。


「とりあえず午後はリーシャと散歩がてら、アルドリーネちゃんとこでも行ってみようか思うんだけど、二人はどうかね」

「私はパスです。午後はちょっと稼ぎのいい作業があるので」

「ごめんなさい、私も今日はお洋服のお仕事で予約が入ってるの」


 ありゃま、午後も駄目か。


「そりゃしゃーない。レビたんはいくよね」

「しゃーないな、二人はワイが見とくわ」


 なんか私も面倒みられる側みたいに言われてるけど、まいっか。

 食事が終わりセーラが片づけに下がると、アカリが私の傍に来た。


「優姉、これ持って行ってください」


 そういうと何かの板を渡してきたアカリ。

 例によって魔導回路が仕込まれて光っている。


「なによこれ」

「私の身内だという証明です。私が魔導認証しないと明日には光らなくなる仕組みになっています。あっても無駄な気もしますが、一応念のため渡しておきます」

「なる。これで上層でも話が通じるんね」

「はい。ただあんまり変な……」


 そう言いつつ私のオンミョウジルックスを上から下まで一瞥したアカリ。


「恥ずかしい行動はしないでくださいね」

「ムリやろ」


 何故私が答える前にレビィが答えるかな。


「おねーちゃん、上層行くの?」

「せやね。リーシャも一緒よ」

「ほんとっ! わーい、上行くの初めてっ!」


 初めてなのか。

 このレビィティリアは緩いとこは緩い癖に時折はっきりとした格差を見せつけてくる。

 商店街などが立ち並ぶこの中層に来るのは下層でも定職のある人か、上層の貴族の従者や家の者が基本。

 各層の兵士なんかは夕方になると中層で見かけるわね。

 それと歓楽街、夜の花街なんかがあるのも中層。

 ただ、上層のお偉いさんは力と金に物言わせて家に呼びつける形が多いらしい。

 そのまま家に囲ってとかもあるみたいね。

 で、囲っていた子が身ごもった後でどうするかというと、こそっとおろして地下水道に流してしまうと。

 リーシャにはこの辺りは聞かせられん話だけど、みんな私には普通に教えてくれるんよ。

 私のことなんだと思ってるんだかね。

 そんな状況でアルドリーネちゃんやそのお父さんみたいに、お付きの護衛をつけてまで中層に来る人ってのは多分珍しい部類に入る。

 そういやアルドリーネちゃんの護衛やってた人もそこそこいい身なりしてたね。


「リーシャ、後でおめかししてあげるからちょっと待っていなさい」

「はーいっ!」


 あらま、リーシャもお着替えか。


「ユウちゃんもよ、その服だけじゃ箔が足りないだろうから少し色を付けるわ」

「いや、別にこれでいいんじゃ」

「優姉、上層の夜会では中層に出没した謎のオンミョウジの話題で持ちきりです。いっそ歌舞いた格好のほうが『ああ、あれが』とか言われて納得されますよ、きっと」


 そんなもんかね。

 いくだけ行ってみますか。

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