ねじれた町
「やっとやね」
町の入り口にある検問に並んでいた列が進み、そろそろ私とアカリの番がくる。
ふと後ろを振り返ると減ったはずの人の後ろにまた人が並んでいた。
「アカリちゃんや、あの人らってどっから湧いてくるんかね」
「そんなのわかりませんよ。
そういうアカリと一緒に足元にいる白兎を見た。
うちらのだけじゃなくていろんな人の足元にも複数の白兎がうろついてるんだけど、だれも気にしてない。
というか見えてないね、あれは。
「少なくとも月華王の端末が付いてる人は今でも生きてる人ですね。いつも傍にいるわけではないのであくまで目安ですけど」
「なるほど」
そうそう、三日ほど町の外をうろついてた際に気が付いたことがある。
「オープンザウィンドウ」
私がそう宣言すると明らかに後ろに隠せない大きさの木でできた立て看板を月華王がにゅるんと取り出した。
そこには見慣れた表示が並んでいる。
<安藤 優>
MP:135561843
種族:トライ
龍札:勇者
スキル:妹転換
妹:幽子、キサ、シャル、ステファ、アイラ、フィー、マリー、リーシャ、沙羅、ナオ、エウ、アカリ
<幽子> スキル:─
<神楽キサ> スキル:トライ招来、王機操作
<シャルマー・ロマーニ7世> スキル:─
<ステファリード> スキル:金操作
<アイラト> スキル:火操作
<フィーリア> スキル:地操作
<マリーベル> スキル:木操作
<リーシャ> スキル:水操作
<沙羅> スキル:河童化
<ナオ> スキル:炎上
<エウ> スキル:霊樹共感、霊樹育成、霊樹統括
<アカリ> スキル:魔導
例によって増えてるMPはスルーする。
どうもこれ妹たちのMPの大体の合算が出てるっぽいのよね。
他に注目すべきは三点。
一つは今こうして月華王がステータス表示をしてくれてるということ。
確証はないけど以前シャルが言っていたステータスは青の龍王が知性ある種に埋めこんだという話、実装はこの子なのかもね。
次に私の妹リストにヤエや兵士から転換した子たちとかがいない件について。
ヤエについてはエウに、他の兵士の子たちについてはアカリに妹の欄が増えていてそこに表示されてるそうだ。
つまり妹の入れ子構造になってるってことなる。
今後はもしかしても増えても同じ形になるのかもしれない。
私個人としての感触としては十二人で打ち止めかもしれんわね。
最後はっ……と検問の順番が来たね。
「次の人、そこの表示板に触って」
「はーい」
まず先にアカリが検問に設置されている黒板を触る。
月華王がひょこひょこ走り寄って行って板をぺしぺしと叩くと黒い板の上に光る文字が複数浮かび上がった。
「トライで魔導士、ですか」
怪訝そうな顔をする検問の職員にアカリがスマイルを浮かべながらメダルを見せた。
たしか龍札の保管証だっけか、あれ。
「はい、これが預かり証です。魔導に関するスキルなんですよ」
関するも何もこの子の龍札の文字『魔導』なんだけどね。
「なるほど、確認しますので少しおまちください」
そういうと職員がメダルを同じ形のくぼみのある金属板にはめる。
板に複雑な文様が出ると職員はメダルを外してアカリに返した。
「ありがとうございます、それではそちらの方どうぞ」
「はいはーい、はいよっと」
今度は私が板に触ると同じく月華王がぺしぺしと黒板を叩いた。
文字の書式が違うから読めんけどさっき見たのと同じ内容なのかね。
ずいぶん少ないみたいだけど、そう思ってるとアカリがそっと耳打ちしてくれた。
「やっぱり妹やスキル、MPは表示されていません。名前と種族だけですね」
なるほど、ここら辺は事前に話した通りか。
「そちらもトライの方でしたか。では保管証か代わりになるものをご提示ください」
「はい、これでもいいのよね」
私がおもむろに龍札を差し出すと相手がぎょっとした表情をした。
「え、いや、トライであることが証明ができるものであればいいんですよ。トライの指名手配一覧にあなたの顔がないことは確認できていますし」
「なら龍札が一番早いですよね。信用してますんでちゃっちゃっと確認してください」
マジかよという職員さんのボヤキが聞こえる、いやわるいね。
「おい、あれもってこい」
「わ、わかりました」
後ろに控えてた他の職員がバタバタと奥から何か大きめのものを運び出してきた。
何て言えばいいんだろうね、ほらゲームセンターとかでアクションとかシューティングみたいな体動かす奴の時に、コイン入れる奴がちょっと離れた場所にあるよね。
あんな感じの形をした四角い石柱で上が斜めになってるやつ。
で、その上部の平たいところに王機で見たのと同じ龍札をセットできる場所があった。
「こちらに」
「はいな」
私は龍札をそこに張り付けると同時に月華王の動きを見ていた。
よし、月華王は動かない。
職員が石柱の横にある模様を押すと石柱が光ってそれに合わせるように龍札も光った。
仕組みとしては龍札に魔導が効かないのを利用してるそうな。
「これは……問題ありません。ありがとうございました」
「はい、お疲れ様です」
ふむ、行けたね、この辺りはアカリの読み通りなわけね。
私は職員をねぎらうと『
他の職員が石柱を片付ける中、対応していた職員が私とアカリに印の入った用紙を手渡してきた。
「仮滞在の期間は一月です。延長や居住に切り替える場合には町の上層にある役場で手続してください」
「わかりました」
事前にアカリから聞いてた情報によると、この町は海から遠い順に上層、中層、下層と別れているらしい。
「そちらからどうぞ」
「どーもー」
アカリと私がそのまま町に入ろうとすると、確認用の石柱を片付けてきた職員に呼び止められた
「あの、ちょっといいですか」
「なんでしょう」
あ、ばれたかな。
「その『陰陽』って龍札名鑑でも見たことないなとおもって」
「おい、それは失礼だろ」
慌てて止める他の職員を私が笑いつつ「いいですよ」となだめる。
「私、前世では我流
「いやー、助かったわ。さすがアカリちゃん」
懐から出した『陰陽』の龍札に見せかけたただの光る魔導回路を仕込んだ紙をアカリに手渡そうとする。
「ばれた時にめんどいんでそれそのまま持っててください」
「ところであの石のやつ、なんで騙せたん?」
少し小首を上げる形で見上げるアカリ。
「原理上、魔導というのは深度の深い上位魔導には歯が立たないんですよ。なので内部に深度二の魔導回路を練りこんでおくとあの石柱みたいな深度一の検査装置では検査できないんです」
アカリはこういう
「結構ざるなのね」
「普通はああいうとこで龍札出す奴もめったにみませんし、ましてや捏造とかやりませんからね。ばれたら結構重めの罪に問われます」
「まぁ、夢だし」
そう答える私をアカリがジト目で睨みつける。
「大体、我流陰陽師って、それ、ただの中二設定ですよね」
まーそうともいうわね。
「せやね。まぁ、一応古書店で見つけたそれっぽい本に、私なりにアレンジ加えて試しちゃいたから全部出まかせってわけでもないんだけどね」
「なんであんなこと試したんですか」
「この夢の世界、どこまでリアリティがあるのかと思ってね」
そういって周囲を見渡してる私の目には遠くからではわからなかったこの町ならではの変わった風景が飛び込んできた。
まず、この町、運河というか用水路というか、とにかく水路が多い。
検問を出てすぐのとこに川がありそこを船が往来してることからもその多さがわかるかと思う。
それだけなら水の都ってだけだったと思うんだけどね。
「アカリちゃん、この水路ってさ」
私の視線が坂を上る水に向かうとアカリもつられてそっちを見た
「そこの坂、水が上に逆流していってない?」
「そうですよ。この町、レビィティリアはこういった下から上に逆流する水路が最大の特徴の町なんです。上りと下りの水路も場所によっては横でつながってるので素人が下手に船に乗ると迷子になってぐるぐる回ったりするんですよ。いろんなとこでねじれてるのがこの町なんです」
すごいね、これ。
普通、水は高いところから低いところに流れる。
だが私の目の前で水路の水が明らかに下から上に流れている。
じゃあ全部がそうかというとその向こうにみえる水路は普通に上から下に流れてるっぽい。
「なるほどなぁ」
ここ、レビィティリアは海の傍から山の方面に向けて斜めに伸びる上が狭まった台形の形をしてる。
一番上のところには水が溜まってて黒い色になってる。
逆流する水路を見て納得したわ。
海水が町のてっぺんに組み上げられて深い人口湖になってるんだわね。
多分結構深いんだわ、だから黒に見えるんじゃないかな。
町全体としてはちょいちょい植物はあるけど全体としてはクリーム色のレンガの建物が目だつ。
なので、てっぺんが黒っぽい色で横が比較的クリーム色、そして台形の形をしたこの町の第一印象、それは。
「だから町が歪んだプリンになってるのね」
「プリンいうなし」
周囲を見わたすと結構釣りしてる人がいる。
水路にも魚が跳ねてるのが見えた。
餌もなしにやってる人でも結構釣れてるみたいね。
餌を目当てにしてるのか猫があちこちに見える。
それとは別にちょいちょい白兎もいる。
「それで優姉、この後はどうします」
「まずは住む場所かな」
「ご職業は……オンミョウジ、ですか」
「ええ、それっぽい占いとかできますよ」
「ああ、なるほど」
後ろからアカリのジト目を感じるがあえてスルー。
ここは中層にある不動産を案内してくれる店だそうな。
女子二人では雑な対応されるかと思いきや今んとこ丁寧な対応をしてくれてる。
ちらちらとアカリのほうを見てるとこを見ると胸かな。
そう思いつつアカリにジェスチャーで伝えると睨まれた。
「ですが、そのうちで魔導士様にお勧めできるような物件といいますと。他とお間違えでは」
小太りの店の人が汗を手で拭いつつ私らにそういってきた。
なるほど、そっちか。
「いや、ここであってます。ありますよね、中層の水路の傍で隣が服屋で間に木が生えてるとこ」
「え、そんなとこあったかなぁ……」
そういいつつ店の人が資料をあたってくれる。
夢の中だからかもしれんけど紙が当たり前のように使われてたり、不動産仲介業があるってのが豊かさを感じさせるね。
「ああ、あそこか。よくお分かりになりましたね」
「オンミョウジですから」
「な、なるほど」
よくわかんないままに言いくるめられた店主。
よし、この夢の中ではこのまま大体オンミョウジで押し切ろう。
しばらくののち私たちは仲介のおじさんと一緒に中層の建物に案内されてきた。
隣が女性向けの服のお店、目的の建物を挟んで隣は水路、そして建物の間に少し高めの木が植えてある。
「ここはそこの店をやってるセーラさんがお持ちの建物なんです」
「へー、いいですね。じゃあここにしたいと思います」
即決する私におじさんとアカリが目を剥いた。
「ちょっと、優姉、中は見ないんですか」
「まーね」
そういいつつ私は建物全体を視界にいれるようにそのまま数歩後ろに下がる。
するとドンっという音とともにぶつかった感触がした。
「きゃっ」
倒れる前にその子をつかんで抱きかかえる形で寄せる。
「こら、リーシャっ! お店の前で走らないの。ごめんなさいね」
店の中から背の高い女性の服を着た奇麗な人が出てきた。
「ご、ごめんなさい」
怒られた女の子が私に謝った。
「いや、大丈夫よ。怪我無い?」
「はい。お姉ちゃんも大丈夫ですか」
「うん、大丈夫。でも気をつけようね」
私はそういってリーシャの頭を撫でた。
「ああ、ちょうどいいところに。セーラさん、この人たちがそちらへのご入居を希望されていまして」
「まぁ、そうなんですか」
おじさんとセーラさんが話し込んだところで私の耳がアカリに引っ張られた。
「ちょっと、これどういうことですか」
「どういうもこういうも陰陽師ってこういうもんよ」
「んなわけないっ、そんなん創作の中だけだ」
ぼそぼと話す私とアカリをロリなリーシャ、そうこの夢の主が不思議そうに見ている。
「それにあの人」
「セーラさん? 奇麗でかっこいいよね」
「そうじゃなくてですねっ」
視線をセーラさんとおじさんに向けるとちょうどこっちを見たところだったのでアカリとの会話を打ち切る。
「どうも、私、トライのユウと言います。ちょっと一月ほどこの町にお世話になることになりまして」
「まぁ、短期滞在なのね」
「ええ、まぁ」
「そちらは魔導士ね」
「あ、はい。アカリです」
慌てて頭を下げるアカリの態度が固い。
まー、そうもなるわな。
「失礼ですけどユウさんのご職業は?」
「陰陽師です」
ブフッ!
噴き出したセーラさん。
リーシャとおじさんは何に対してセーラさんが噴き出したのかわからずにいるみたいね。
そのすきにアカリが私の近くに寄ってきてささやく。
「本気ですか、優姉。この人、そのアレですよ」
「だろうねぇ、だからこそなんでこうなってるのかぐらいは理解しないとあかんやろうね」
「そも、なんで急にこんなに察しよくなってるんですか」
「そりゃまぁ、この夢の中では『私は陰陽師のトライ』ということにしたからよ」
「そんなでたらめな」
まぁ、種もしかけもあるんだけどね、アカリへの説明は明日とかでいいでしょ。
ようやく立ち直ったのかセーラさんが目じりの涙を拭って微笑んだ。
「ごめんなさいね。私もトライだったものでつい」
「ああ、そうなんですか。なら同郷ですね」
「そうね。歓迎するわ」
握手を求めてこられたので手を握り返す。
しっかりとした手で少しだけ硬い。
「改めて、私はセーラ、この子はリーシャよ」
セーラさんに促されてリーシャが頭をさげる。
「はじめましてリーシャです」
「はい、初めまして」
アカリはあきらめたのか空気と化したおじさんと契約の話をしてるようだ。
「あっちのおっぱいでかいのが私の妹でアカリ」
「魔導士ってことはこっちでの妹さん?」
まぁ、普通トライは魔導士になれんしね。
「まぁ、そんなとこです。これが私のです」
そういいつつ私は『陰陽』の札を見せる。
「龍札をそんな風に見せびらかすと危ないからしまったほうがいいわよ」
「ありゃま、しかられちゃいましたね。ちなみにセーラさんの札ってどんな文字なんですか」
普通は聞かんのかもしれんね、こういうのは。
ぶしつけかもしれない私の質問にセーラさんが笑いながら答えた。
「『
はは、そりゃまた因果な龍札なことで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます