第33話 酔っぱらい

 薬師と墓守に話をつけて家に戻るとベスは既に酒で出来上がっていた。

「お~。ウルルス、酒がないぞ~」

「ご主人様。もう、蒸留酒しかありません……」

「この酔っぱらいに飲ませる酒なんてねぇよ。水でも飲ませとけ……」

「なんだとぅ、誰のお陰でロドリゴをおびき寄せたと思っている!」

 お前が情報を流したのかよ。思わず顔に手を当て天を仰ぐ。確かに手間は省けたが、味方を売ったも同然の行為を平然とやってのける情報屋に腹が立つ。

「ちょっと、待ってろ。酒蔵に良いのがあるのを思い出した」

「おう、早めにな!」

 上機嫌なベスには、お仕置きが必要だ。飲みやすくて、比較的安い酒をたくさん提供してやろう。明日の朝、二日酔いで悶絶するがいい。



「待たせたな、これで心行くまで飲んでくれ」

「なんだ、あるなら最初から出せ。エールもいいがワインも蒸留酒も酒には変わらんからな!」

 この野郎、俺の酒をなんだと思ってやがる。ただ酒だからっていい気になりやがって。

「これで情報料がチャラになるとは思って無いから安心してくれ」

「なんだ。気前がいいな!」

 ああ、明日のお前がどんな無様な姿を晒してくれるか想像するだけでお釣りがくるから安心するといい。

「ご主人様、私も飲んでいいですか?」

「止めないよ、ただ……」

 こっそりとティアの耳元で囁く。

「二日酔いで悶絶したくなかったら、ほどほどにすることだな」

「なんだ、飲みやすいなこの酒は! 蒸留酒も悪くないな!」

「ベスは明日ベットから降りる事も出来んからな……」

 ティアの笑顔が思わず引きつった。怒らない人が静かに怒ると物凄く怖い事を身をもって痛感したようだ。

「ティアちゃんが知りたがってた、ウルルスの初めての相手の事でも話しちゃうぞぃ?」

「ほう、それは興味深いですね……」

 酒を一滴も飲んでいないローガンが興味津々と言った顔になる。

「冒険者ギルド近くの花屋の娘だよ。お陰で花言葉には詳しくなったな」

 傷口は小さい方がいい。自分で話した方がまだマシだ。

「ウルルスにもスレてない時があったのね……」

「なんじゃ、儂が言おうとしとったのに……」

「うるせえよ、酔っぱらいども」

 ウルルスも仕事モードなので酒は飲んでいない。グラスのお酒が減っていない事に誰も気付いていなかった。

「ティアちゃんも、飲んで飲んで」

「は、はぁ」

 ウルルスの方をチラチラ見ながらお酒を飲んだ。

「確かに、飲みやすいですね……」

「こんなお酒を隠しておくなんて、ウルルスも意地悪ね」

「まあ、あんまり味は好きじゃないんだよな……」

 そう言いながらお酒を飲んだフリを続ける。

「お酒なんて酔えればいいんじゃ!」

「その通りですね!」

 この師弟は明日地獄を見る事になる。飲みやすいがこの酒の度数は高い。心の中で笑いながらその様子を静かに眺める。ティアはお酒をチビチビ飲みながら微かに震え、ローガンは何ひとつ気付いていなかった。



 




 




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