第128話 信頼
クレアが魔神と戦闘をしていた頃、他の者たちも同じように魔神と戦闘になっていた。
「そんなんじゃ、私を斬るなんてできないわよ?」
アランの前で、おかしそうに笑う小さな女の子。
愛くるしい大きな目は、竜と同じ瞳孔をした赤い瞳。
ユスティアと同じような服装で、フレンドリーに話しかけてくる人型の魔神。
アランは再度、魔神との距離を詰めにいく。
「意味ないのに」
笑顔で呟いた魔神は上から振り下ろされたアランを剣を、その細い腕で受け止めてしまう。
白い肌にある真っ黒な鱗が、アランの剣を止めていた。
「――っ」
すかさずアランの顔を突き刺しにくる黒い竜の尻尾。
すぐにそれに反応し、アランは振り下ろして受け止められた剣を横に払って軌道をずらしにいく。
多少ずらすことはできるが、それでも尻尾の勢いが衰えることはない。
アランはとっさに顔を傾けて直撃を避ける。
頬には尻尾がかすったときの摩擦で、火傷のような傷跡ができていた。
「ぐっ――」
そのあと腹部に走る激痛。
アランの剣を受けた反対の腕で、腹部に強烈な拳を魔神が放つ。
とっさに後ろに跳んだアランだったが、それでも魔神の拳はアランを捉えていた。
「ねぇ~、だいじょうぶぅ~?」
地面に片膝をついて立ち上がろうとしているアランに、魔神が心配そうに声をかけた。
アランは片膝のまま魔神を睨みつけ、どう戦うべきかを模索する。
すでにスピードは全開で戦っており、それは剣の威力にも乗っている。
それを硬い鱗の部分で受け止められ、振り抜くことができなかった。
レーヴァテインでさらに剣速をあげることもできるが、あれは剣だけさらに加速させる技。
振り抜くことは可能かもしれないが、確実に大振りになる。
それで仕留められなければ、逆にアランがやられてしまうだろう。
「いや……ルイを相手に訓練していたことを思えば、これくらいはやらないと文句を言われるな」
アランが立ち上がると、魔神は無邪気にうれしそうな顔を向けてきた。
「まだ大丈夫そう。うん、せっかくそれぞれ強そうなヤツのところに来たんだから、そうこなくっちゃ」
「それぞれ? お前の他にも魔神が来ているのか?」
「うん。そのうち異世界の武器を使ってるヤツも殺られて、魔力効果もなくなっちゃうかもね。
でもお兄さんはラッキー! 私みたいなかわいい子に殺られるほうがいいでしょ?」
魔神は心底そう思っているのか、楽しそうに言っていた。
そして同時刻、ユスティアも魔神との戦闘に入っている。
「やりにくいわね――――フレイムバースト」
ユスティアが剣を滑らせるように振ると、火と風の複合魔法が発現した。
炸裂する炎は魔神の進路と視界を遮る。
その間にユスティアは、別の方向にいる魔神へと向かう。
「グレーターロック」
魔神の魔法で、距離を詰めにいっていたユスティアに大小ある岩が押し潰しにくる。
「インパクト」
それを半分はインパクトで相殺し、距離を詰めるのを変更して残りを回避する。
だがそうしているうちに、フレイムバーストで妨害しておいた魔神が視界に入ってきた。
「ジャベリン」
鋭く尖ったいくつもの氷の破片がユスティアに降り注ぐ。
いつも余裕をどこかに持っているようなユスティアだが、対応した瞬間から先手を取られ攻勢に出ることができずにいた。
「ファイアーストーム」
ユスティアの魔法が氷の破片を巻き上げて蒸発させる。
左右で挟み込むように立つ魔神に対し、ユスティアは簡単には動けない。
「分身は私自身なのだから、そうそう隙などできはしない」
人型の魔神ではあるのだろう。
だがその姿は異質。ユスティアには、靄のような影にしか見えないからだ。
それが分裂したことで、ユスティアは二体の魔神を相手にしていた。
そして魔神を相手にしているのは、クレアたちだけではない。
「
周囲に雷を撒き散らしながら、ルイの打刀が魔物を斬り裂いていく。
そしてもう一方の太刀で、魔神の腕を斬り落とした。
斬り落とされた腕は地面に落ちると霧散する。
だがその瞬間から斬り落とした部分は再生が始まっていた。
ルイは一度距離を取ると右手を伸ばし、
「人にしては強いのがいるようだが、ソヤツらもじきに死ぬ。
我らが母も目覚め、お前たちのような存在が許されることはない」
まるでゾンビに見間違うようなしわがれた魔神。
目は落ちくぼみ、赤い光がルイを見ている。
この魔神が言ったことは、ルイも気づいていた。
ルイがいる中央の後衛では、クレアが魔神と戦闘に入っている。
両翼のアランとユスティアは距離がかなり遠いので視界に入ることはないが、きっと同じように戦っているのだろう。
だが、クレアたちが魔神に負けることなどないとルイは思っている。
「俺たちが負けることはない。クレアたちは必ずリリスを倒すさ」
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