第74話 やさしさは途切れない
魔神をルイが倒した翌々日、エドワードの葬儀が行われた。
これにはルイも参列したのだが、葬儀が終わるとカレンがルイから離れなかった。
家では違うのかもしれないが、葬儀中にカレンが泣くことはなかったので、ルイにはその対比が余計に苦しかった。
「泊まっていただいてしまって、ご迷惑ではないですか?」
「そっちがよければ、気にしないでくれ」
カレンが泊まってほしいとせがんだので、ルイは泊まることにする。
泊まったからといって、それで気が紛れるのは一時的なことはルイにもわかっていた。
それでも、一時的なことだったとしても、ルイはそうしたかった。
「ねぇ? ルイは聖遺を召喚できるの? 聖遺は神騎様しかないんじゃないの?」
カレンに連れられ、ルイはカレンを寝かしつけるために横になっている。
任務で聖都を離れていないときの、エドワードがいつもやっていたことだった。
「エドワードから聞いたのか?」
「うん。パパがね、ルイは聖遺も召喚できるって、言ってた」
「そうか。応えてくれるかわからないが、見てみるか?」
「見たい! 出して!」
無邪気に好奇心を向けてくるカレンに、ルイは軍旗を召喚する。
戦闘ではないが、きっと召喚に応じてもらえるだろうとルイは踏んでいた。
光の粒子が集まり、軍旗の形となって具現化する。
淡く輝いている聖遺を目にして、カレンは目を輝かせた。
「すごい! 綺麗だね⁉」
淡く輝いている軍旗の光は、カレンをやさしく照らす。
だが、カレンの顔は陰りをみせた。
「聖遺が召喚できたら、パパは死ななかった? パパはすごくないのに、どうして魔神と戦ったの?」
ルイは少しだけ責められているような感覚を持った。
カレンにそんなつもりがないことはわかっている。子供だから疑問に思ったことをただ訊いてきただけだ。
それがわかっていてそう感じてしまうのは、ルイが今までリリスについてなにも動かなかったからだ。
動いていたら、今回のことを回避できたのかはわからない。
だが違う可能性があったかもしれないということが、ルイにそう感じさせていた。
「エドワードはすごかったぞ?」
「そうなの? でもパパは、強くないって言ってた」
「三騎士は知ってるか?」
「うん。神騎様のね、次に強い」
「そうだ。聖都に来た魔神は、その三騎士と同時に戦って返り討ちにしている。
そのあとエドワードが戦っていなかったら、西地区だけじゃなく中央地区も大変だったかもしれない。
カレンのお爺ちゃんとお婆ちゃんか? お店あるだろ?」
「シュプリーム!」
「ああ。カレンはあの日、シュプリームにいた。あそこも西地区に近いから、あの辺に住んでいた人も被害にあっていたかもしれない。
エドワードはカレンたちと、他の人たちを助けるために一人で魔神と戦ったんだ。
三騎士だって三人掛かりだったのをだ。な? エドワード、すごいだろ?」
「ルイもすごいと思う?」
「ああ。エドワードはすごいヤツだと思う。それにな、俺たちはリリスも倒す」
「ホント? ルイが倒す?」
「クレアの班には聖女様が二人だろ、あと神騎がいて、アランと俺だ。
エドワードはリリスを倒す班のメンバーだったんだぞ? カレンもすごいと思うだろ?」
「う、うん。……パパ、すごぃ――う、ぅ…………」
そのあとカレンは小さく泣き、そのまま疲れたのか寝てしまった。
寝るまでカレンを照らしてくれていた聖遺は消え、ルイは一階へと下りる。
「ルイさん、カレンのためにありがとうございます」
「俺がしたいからやったことだ。本当に気にしないでくれ。
エドワードには、これ以上のことをしてもらっていたからな」
「お茶のご用意をしますね」
ニアがキッチンへと向かい、ルイの飲み物を用意する。
今までクレアとエリス、三人で話していたのだろう。
クレアたちもカレンのために、泊まることになっていた。
ルイが座ったところで、クレアがカレンの様子を訊いてくる。
「カレンちゃんはどうですか?」
「最後に少しだけ泣いて、そのまま疲れて寝た感じだ」
「五歳では、なおさらつらいことですね」
エリスが言うと、ニアがカップにミルクティーを入れて戻ってきた。
それを一口飲むと、エリスが初めて討伐任務に就いた日に飲んだミルクティーと同じ味がする。
ルイがニアを見ると、ニアは思い出し笑いのような笑顔を向けてきていた。
「エドがルイさんから教えてもらったって、よく遅い時間にはこうやって飲むようになっていたんです」
四人で静かに飲むんでいると、クレアがニアに訊ねた。
「これからニアさんは、どうするんですか?」
「できればカレンをこの家で育てたいというのはありますが、難しいかもしれないですね」
エドワードの家は男爵家で貴族だ。収入はそれほど多いわけではないが、それでもそれなりの家に住んでいる。
むしろ貴族であることで、逆に経済的には厳しいということだってあるのだ。
とはいえ、殉職した騎士の家族へはそれなりのものは用意されている。
だがそれは一般的な領民の生活水準として考えればで、とても今の家を維持できるだけのものではなかった。
「よければ、メディアス家で働いてみませんか?」
クレアの誘いに、ニアは驚いた顔をしていた。
「エドワードさんが以前言っていましたが、カレンちゃんは騎士になりたいとか。
そういうことならメディアス邸には模擬訓練の設備もありますので、カレンちゃんの訓練にも使えるでしょう。
それに騎士になるのであれば、メディアス家の繋がりは悪くないと思います。
カレンちゃんは子供ですから、騎士にならなくても、いろいろ選択肢を用意できる環境にはできると思います」
「そこまでしていただいて、いいんでしょうか?」
「エドワードさんは、私が隊を初めて持ったとき、私にはできないことをしてくれていました。
軍の騎士ではないルイさんは、最初隊で浮いてしまっていました。
みんなの目もそういう感じでしたが、エドワードさんは私がしなくてはいけないことをしてくれていたんです。
そしてワイズロアでは、彼だけがルイさんに戻ってくるように言ってくれたんです。
それに私たちは、同じ班の仲間ですから」
「――どうぞ、よろしくお願いします」
すべてはエドワードがこれまでにしてきたことによることだった。
ルイはこのとき、人のやさしさは繋がっているんだと実感させられていた。
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