第26話 小隊の底上げ

 三日目の討伐任務を終えて、予定していた任務をクレアの小隊は完遂した。

 その間に呪いにかかった者は現れず、クレアたちはルイが言っていた経過を少しの間滞在して確認することとなった。

 経過を見守る間、エリスはルイからウイルスについての聞き取りをしている。



「ウイルスに感染した人が現れた場合、潜伏期間のあとに発症したことになる。

 つまりその間に感染は広がっているから、潜伏期間が過ぎた患者が一気に増え始めるってことだ」


「なるほど。だから教会に来た患者さんを治療するだけでは止められないってことなんですね」


「そういうことだな。本当は発生原因の特定ができればいいんだが、これには情報を集める必要があるからすぐは難しいだろうな」


「もう少し検証して確かめたい部分もありますが、ルイ様から教えていただいたことで大きく変わるはずです」



 今回の呪いに関することはエリスによってまとめられ、聖都の神殿に報告することになっている。

 これからパナケイア教団が検証を交えながら、呪いに対する新たな対処の仕方を作っていくことになるとエリスは言っていた。



「じゃぁ、この辺にして訓練に出るぞ」


「……はい」



 さっきまでと違って、少し肩を落としてエリスが立ち上がる。



「ルイ様の訓練、ちょっと厳し過ぎませんか……」


「聖都に戻ったら、またいつ任務が降りてくるかわからないからな。

 魔力を使い果たしても問題ない期間なんて早々ない。

 この機会を逃したらないかもしれないから諦めろ」



 呪いの経過を見るために滞在する間、クレアの小隊は身体強化だけに絞った訓練を行うことになった。

 ルイの強さは、身体強化の魔力コントロールによるところが大きい。

 また、曲がりなりにもクレアとアランがカースナイトに弾かれなかったということも大きかった。

 エリスの成長も早く、身体強化が小隊としての底上げになるとクレアが考えたからだ。



「あぁ――ルイ……助けてくれよ。隊長が身体強化を解かせてくれないんだ」


「エドワードさん、早く位置に戻ってください!」



 エドワードがルイの脚にすがって助けを求めてくる。

 ルイが知る限り、軍の訓練施設でもこんな姿をみたことがない。

 他の隊員もなんとか続けているが、みんなエドワードと大差ない感じだ。



「クレア、今日はどのくらいやっているんだ?」



 クレアもそれなりに疲れを感じさせているが、それでも他の隊員よりかは涼しい顔色で身体強化をしているようだ。



「お昼の休憩を取っているので、今日は四時間くらいですね」


「エドワード、いいことを教えてやる。エリスは俺と一緒にいたんだが、六時間くらいぶっ続けでやってるぞ?

 今まで訓練をしたことがなかった、一五歳の女の子より短い時間で助けてほしいのか?」



 ルイの言葉に、凍りついたような表情でエドワードがエリスに視線を向ける。

 その視線にエリスは、やさしい笑顔を返した。

 さすが聖女といったところだろうか。

 今にも音を上げそうになっていたエドワードを奮い立たせていた。

 他の隊員もエリスが同じ訓練をしていることを知り奮起している。



「ルイ様、ちょっと意地悪ですね?」



 さっきと変わらない笑顔でエリスがルイに言ってきた。

 確かに意地悪というのはあたっている。

 この訓練を一番長くできるのは、今のところルイを除くと小隊ではエリスが一番だからだ。

 だからといって、エリスが一番身体強化を扱えるかというと実はそうでもない。

 動きのなかで使いこなすのとはまた変わってくる。

 慣れなどもそうだし、感覚という部分でも経験というものは大きい。

 こと戦闘ということでいえば、クレアやアランの方がエリスよりも数段上回る。



「聖女の笑顔でみんなやる気になったんだからいいだろ」



 その後はルイも訓練に加わり、順番に隊員たちの剣に付与された魔力に干渉していく。

 全力でルイが干渉してしまうと、その瞬間に相手の身体強化が弾けてしまうので加減をしてのものだ。

 それでも一〇秒経たず、剣に付与された魔力が次々と弾けていく。

 そして次に干渉するのはアランだ。

 アランもルイに干渉されて、それを遮断できたことはなかった。



「カースナイトと渡り合えたんだ。少し強めでいく」


「望むところだ!」



 ルイが剣に触れると、アランの魔力が荒々しく固定されているのがわかった。

 アランの魔法適性は炎属性であるため、それがルイには感じられたのかもしれない。

 ルイも身体強化をして、触れている剣先から魔力を付与していく。

 さすが副隊長に抜擢されるだけあり、この訓練を始めた頃よりも格段に魔力を固定できていた。



「いくぞ」


「――――」



 ルイが魔力を強めると、一気にアランの顔が険しくなる。

 だがそれでもルイの魔力に抵抗し、なんとか身体強化を保っている。



「副隊長すげぇ」



 他の隊員が感嘆の声をあげていることすら聞こえていないようで、顔には汗が吹き出している。

 そして時間にして三〇秒ほどで、アランの身体強化は解けた。



「これだけやって……三〇秒……だけなのか」


「いや。精度があがれば三〇分、一時間と抵抗できるわけじゃない。

 精度があがれば魔力の出力の方も同時にあがってくるだろうから、抵抗できるようになるときは一気にくるはずだ。

 前は二~三秒だったことを考えれば、格段に精度があがっていると見ていいと思う」



 このあと、エリスとクレアもやることになるのだが、どちらもみんなから注目されていた。

 エリスは長時間の身体強化ができることで注目されていたようだが、結果は一秒というところ。

 クレアがやるときには、みんな訓練そっちのけで周囲を囲む始末だった。

 時間は四〇秒と、アランを上回る結果となった。

 元々クレアは魔力コントロールが得意というのと、エリスの次に身体強化を長く維持できていたので順当な結果でもあった。




 その日の夜、ルイは部屋を抜け出して町の外に出た。

 昼間小隊が訓練していた場所だ。

 ルイが以前生きていた世界とは違い、光源が少ないからか星の輝きが強く感じられる。

 パッと見た限りでは見渡す限り草原。

 月の光が草を照らし、なにかのイラストのような風景だ。


 そこでルイは剣を抜き、カースナイトを斬ったときのように魔力を剣に集中させた。

 剣は高密度に固定された魔力で白く輝く。

 それをしばらく維持していると、後ろから声をかけられた。

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