第6話 『やきゅうけん』の準備
美冬はまずスポーツ用品店に行った。
そこで仕入れたのはスクール水着。
これなら、最後の一枚として非常に頼もしいと考えたからだ。この店では、サービスで名入れをしてくれるという。美冬はひらがなで『いづもみふゆ』と入れてもらえるよう依頼した。
美冬が次に選んだのは、冬用のセーラー服。黒にえんじ色のラインが可愛いと思ったからだ。ネクタイもえんじ色だ。プリーツスカートは短めの物を選んだ。膝上20㎝ほどで、ちょっと風が舞うだけで下着が見えてしまいそうな長さだが気にしない。だって、スカートの下は下着じゃなくてスクール水着だから、ちょっとくらいスカートがめくれたって恥ずかしくない……と思いたかった。
これで三枚。後二枚をどうするか。
ここはオーソドックスに白のハイソックスと黒のローファーにした。
全て身に着けて鏡の前に立つ。
「大変よくお似合いですよ。この色を選ばれるセンスが素晴らしいですわ」
中年の女性店員がべた褒めする。
美冬自身もまんざらではなかった。彼女は学校には行かず、教会で身寄りのない子供の世話を続けてからだ。学校に通いたいという願望は少なからずあった。おまけで手提げにもリュックにも使える学生カバンもつけてもらった。
美冬はブラウンの学生カバンを背負い、ポーズをとる。
店員はパシャリと写真を撮って、プリントアウトしてくれた。その写真をカバンに仕舞ってから店を出た。約束の時間までは後60分ほどある。美冬は、どこで時間を潰そうかと思案していたところにコーヒーショップを見つけた。
そこに入ってカウンターの席へと座る。二つ隣の席に、美冬と同年代の女子生徒を見つけた。高校生らしい服装だった。紺色のブレザーにグリーン系のチェックスカートだったのだが、美冬はその服装に違和感を覚えた。彼女は白いスニーカーを履いているのだが生足で、ストッキングも靴下も履いていなかった。そしてブラウスの下には何も身に着けていない、いわゆるノーブラ状態だった。ブレザーのボタンをとめていない状態で羽織っていたので、彼女が身をよじった時にうっすらと乳首が透けて見えたのだ。
美冬は瞬間的に衣類の枚数を計算する。
上半身はブレザーとブラウス。下半身にはショーツとスカートとスニーカー。これで計五枚。無理に五枚に抑えているのは美冬と同じだった。
このモールにいるという事は、当然、美冬は自分の対戦相手なのだと考えた。美冬は臆せずに彼女に挨拶をした。
「こんにちは。出雲美冬です。えっと、もしかして『やきゅうけん』で対戦される方ですよね」
「ええそうです。
突然声をかけられて少し驚いていた彼女であったが、気を取り直して自らも名乗った。
そして二人は握手をする。
「正々堂々と」
「戦いましょう」
何故か二人は意気投合したようだ。
「じゃあちょっと、何か食べようよ」
「そうね。うーん。さっきからメニューを眺めていたのだけど、ホットドッグが美味しそうなのよね」
来朝は美冬にメニューを見せる。数種のパンと数種のソーセージの組み合わせが選べるようだった。美冬はメニューを眺め即決した。
「本当ね。美味しそう。私、プレーンホットドッグにします。飲み物はクリームソーダで」
「私はお米パンのホットドッグとアイスコーヒーにします。お米パンは小麦使ってないですよね」
カウンター内の親父は笑顔で頷いていた。
しばらくしてホットドッグと飲み物が用意された。二人は和気あいあいとそれを平らげた。
「ほんと、美味しかったね」
「うん。でも、勝負は手を抜かないよ」
「わかってる。本気出すから」
二人の間に火花が飛んでいるかのような緊張感が漂う。
コーヒーショップを出た二人は集合場所へと向かう。
今より、若い二人の『やきゅうけん』が始まる。
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