第27話『口に合わない食事会』
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列車の暴走を止め、無事に乗客と政治家の娘さんであるマリナ=エンライトを助け出す事に成功した俺たち『ジェネシス』は、その成功報酬でご馳走を食べようと計画していたのだが、そのマリナ=エンライトに今回のお礼に、と食事に誘われた。
金貰いながら美味しいもん食べれるとか、こんなにも美味しい話はないと思った俺たちはその誘いを受ける事にし、エンライト家の豪邸に招待されることとなった。
素敵なお庭があって、白塗りのお城の様な建物に招かれるには場違いなラフな恰好をしている俺はものすごく恥ずかしくなったが、まぁそれはロディも一緒なので気休めではあるが安心できた。場違いである事には違いないのだが……。
そしてだだっ広い部屋の長テーブルで食事を開始する。ここにはマリナとその父のブライアンも同席している。
「さぁ、ジェネシスのみなさま、遠慮なさらずどうぞお食べになってください」
ブライアンさんがそう言うが、正直テレビの向こうでしか見たことがない料理を出されても、どうやって食べればいいのかも分からない。だって、肉料理でもよく分からない薄い膜みたいなのが乗っかっているんだもん。どうやって食べるのさこれ?
「なぁ、なぁナオシ」
小さな声で呼びかけてくるロディ。何が言いたいかは何となく分かるよ。
「正直食べ慣れてないから美味しく感じねぇ……。フライドポテトとか分かりやすいのはないの?」
「そりゃ分かるぜロディ。だが諦めろ。本当はちょっと贅沢なステーキだったところを、俺たちが手を出せないフルコースを食べれるんだ。理解できなくても味わって食っとけ」
「そ、そうだよなぁ……」
だが、手が動かない。食が進まない。そりゃあ、どんだけ高級なものでも美味しく感じなけりゃ、もったいないの一言に尽きるってもんだ。
「どうしました? お口に合いませんでしたかサカイ様?」
マリナさんがそう聞いてきた。正直言うと口に合わないが、ここは取り繕う。だって、マズいですとか言ったら失礼じゃん? 今後のビジネスのためにも、ここは仲違いするわけにはいかない。
「いえ、とても美味しいですよ。こんなの食べたことがない」
「そうですか……。あまり口に合わないんですね」
「ファ!?」
どういう……ことだ……。俺は完璧に笑顔で、とても美味しそうに答えたはずなのに、なぜ俺の嘘が分かったんだ!? あれか、政治家の娘は小賢しい奴をたくさん見てきたから人の嘘を見抜く力があるとかか?
「ハハハ! マリナに嘘を突こうとしてもムダだよ。マリナは人が言っている事が嘘か本当かを見極める力に長けている。メンタリズム……とかいう技術だそうだ」
「めんた、りずむ?」
「そうですよ、サカイ様。性格や癖、表情、手や口などの体の動き、発汗などを見て真偽を確かめることが出来る技術です。決して魔法といったものではありませんよ」
「はぇー。何だかよく分かりませんが、簡単に真似出来ることではない事は分かります」
さすがは政治家の娘さん。決して常人ではないところは、選ばれし人間って感じか。リリーは魔法の才に恵まれ、ロディは人並み外れた度胸とドライビングテクニックの才を持ち、そして俺は……よく分からない剣になる事ができるフェルトに選ばれた。
こうして上に立つ者に近づくことが出来るのはそういう選ばれた人間だけに許された特権だと俺は思ってる。じゃなけりゃ、ドロップアウトしちまった俺が今この場にいること自体ありえないのだから。
「例えば、ロディさん」
「え、俺?」
「はい、あなたには大切な人がいますね?」
「…………」
「その大切な人は……そうですね、女性、かな」
「……なんで?」
「それでもって、その女性は……小さな女の子で、うんうん、年齢は一〇歳前後と言ったところでしょうか」
ちょっと待ってくれ。それロディだけの情報じゃないだろう。なんでエリカちゃんの情報まで分かっちまうんだ……? それもロディの表情とかから分かっちまったってのか。こうやって目の前で見せつけられちゃ恐ろしい事この上ないぞ。
「おいおい、すげーな。エリカの事なんて教えてねーのに分かっちまうのかよ」
「お気づきではないと思いますが、私が新しい情報を出す度に手を握りしめる力が変わっていましたし、視線がちょっと鋭くなりました。他にも判断する仕草はたくさんありましたが、そういった事ひとつひとつが積み重なってその解が出たんですよ」
「やべーぞナオシ。これじゃ俺たちの内に秘めてる隠し事とかスケスケになっちまう。もしかしたら、エロい事とかも悟られちまうぞ!」
「ちょっとピットマンさん! こんな場でそういうシモを言うのやめてくれますか!? せっかく美味しいディナーを頂いているっていうのに!」
「そういうリリーもぼっちだってことが筒抜けになっちまうんだぞいいのか?」
「今その瞬間、メンタリズムとか関係なしにこの場にいる人たち全員にその情報が拡散されてしまったんですが! てか私はぼっちじゃないですよ! ちゃんとマーガレットという親友がいますからッ!!」
「ふふふ……。とても賑やかで楽しいチームなのですね、ジェネシスは」
そういう風に、マリナ=エンライトは俺たちの事を評した。
確かに、俺とフェルトの二人でやってた頃とは違って賑やかになったもんだ。ロディがエリカちゃんを助けた後に手伝いたいと言ってきて、そして依頼者だったリリーは依頼達成後アルバイトとしてジェネシスに入った。俺を含めてこの四人は本当に見事なバランスだと思っていて、フェルトと二人きりだった頃とは違って仕事もより様々な事をできるようになった。
二人だった頃は掃除か、ちょっと危ない戦闘絡みの仕事の二択しかなかったけど、ロディが入ったことによって、車を使った荷運びや、移動のために使われたりされるようになった。リリーが入ったことによって、家事とか子守りが出来るようにもなったし、危ない仕事をする際は魔法による支援も受けれるようになったことで、より安全に仕事を終えることができるようにもなった。
そして、何より、マリナさんが言った通り、楽しいのだ。
「えぇ、最高の仲間たちですよ」
俺はそう返した。これが正直な気持ちだし、このジェネシスなら何でもやってのける自信がある。今日の暴走列車を止めたときに、よりそう思うことができた。
そのとき――。
「遅れてすまないな、ブライアン」
この部屋の扉が開かれ、一人の男が現れた。
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