十六国春秋51 後燕后妃

段元妃1 後段后

慕容垂ぼようすいにはふたりの段皇后だんこうごうがいる。

とはいえ、前の段皇后は前燕ぜんえん時代に

亡くなっているので、省略。

後ろの段皇后を紹介する。

ちなみに後段后の父、段儀だんぎ

前皇后の兄に当たるのだという。


段元妃だんげんき遼西りょうせい鮮卑の名門の生まれだ。

若い頃から窈窕淑女。しかも聡明。

そんな彼女は、妹の段季妃だんきひと語っている。


「ザコの妻はいやよねー」

「お姉さま、ほんとにそれ!」


こわい姉妹である。


隣人がそれを聞いて笑ったそうだが、

こんなん下手に笑ったら

どんなとばっちり来るか

計り知れんやつですやん。


のちに張定ちょうていという人相見の達人が

段元妃と段季妃を目の当たりにすれば、

ビビる。そりゃもうビビる。


段儀パパに言っている。


「あなた様のお家は栄えます、

 そう、あの姉妹によって!」


パパさん、おそらくご満悦である。

なので当時は通常、二十歳前には

縁談が決まるのにも関わらず、

この二人の縁談については

宙ぶらりんなままとなっていた。


そのことを段儀の子、段倫だんりんがとがめる。


「張定なんぞが

 何を理解しているというのです!

 どうしてあれの言葉に乗り、

 縁談を断られるのですか!」


ふふ、と段儀は答える。


「あれらはヤバいぞ。

 だから、あえて踏み出さずにおるのだ。

 まぁ見ておれ、とんでもない縁を

 拾ってみせようさ」


そうこうしている内に慕容垂ぼようすいのもとに

輿入れが決まり、しかも寵愛された。

それが 384 年のことという。


そこからあれこれあって、

慕容垂が燕帝即位を宣言。

そこで段元妃が皇后とされた。

なんつーか、くっそやべえ政争の末の

皇后冊立にしか思えない。


一方で、妹の段季妃。

彼女は慕容徳ぼようとくの正妃となった。

ともなれば、南燕の皇后だ。


姉妹どちらも皇后となったわけである。

彼女らは宣言通りの栄達を得た、

と言えるのだろう。




垂后段氏,字符妃,遼西鮮卑光祿大夫段儀之女也。少而婉慧,有節操,嘗謂其妹季妃曰:我終不作凡人妻。季妃曰:妹亦不為庸夫婦。鄰人聞而笑之。內黃人張定善相,見儀二女,大驚曰:君家大興,當由二女。儀深異之,至年二十餘而不嫁。儀子倫謂儀曰:張定何知,而拒求者?儀曰:吾女輩志行不凡,故且踟躕,以擇良配。既而垂納元妃為繼室,遂有殊寵。及僭即帝位,冊拜為皇后。范陽王亦聘季妃姊妹皆為皇后,卒如其言。


垂が后の段氏、字は符妃、遼西鮮卑の光祿大夫、段儀の女なり。少きに婉慧にして節操有り。嘗て其の妹の季妃に謂いて曰く:「我、終に凡人が妻作らざらん」と。季妃は曰く:「妹も亦た庸夫が婦為らざらん」と。鄰人は聞きて之を笑う。內黃人の張定の相ぜるに善かれば、儀が二女に見ゆるに、大いに驚きて曰く:「君が家の大興、當に二女に由らん」と。儀は深く之を異とし、年二十餘に至りても嫁せしめず。儀が子の倫は儀に謂いて曰く:「張定が何ぞを知りて求せる者を拒まんか?」と。儀は曰く:「吾が女輩の志行は凡ならず、故に且しく踟躕し、以て良配を擇ぶべし」と。既に垂の元妃を納め繼室為れば、遂に殊なる寵有り。僭じ帝位に即くに及び、冊拜し皇后為る。范陽王も亦た季妃を聘じ、姊妹は皆な皇后為れば、卒に其の言が如くす。


(十六国51-1_為人)




慕容垂のもとに嫁いだ 384 年がどこに由来してるのか読み取りきれない……ぐぬぬ。


と言うか鮮卑段部ってかなりやべー勢力なのに、なんでこの辺の史書は段氏姉妹の個人的才能に帰結させようとしてるんですかね? いや、彼女らが才能を持っていたことを敢えて否定する意味もないけど、そいつを活かせたのは明らかに「段氏の生まれである」ことだよね?


中国史を眺めてると、家格とゆう絶望的格差を「個人的才能」で埋めようとする「神話的演出」がそこかしこに見えてくんのがやべえよなって思うのです。実際にそいつが実現してしまうとまずいけど、そいつが実現した「っていう神話」を共有しておくのは悪くないよね、みたいな。 


わかんないでもないです。プロパガンダに必要なのは、わかりやすさです。

 

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