慕容楷1 燕の遺民を説く

慕容楷ぼようかい慕容恪ぼようかくの長男である。

前燕ぜんえんでの立場は慕容垂ぼようすい寄りだったようで、

慕容垂とともに前秦ぜんしんに亡命した。


おっ、あの慕容恪ジュニアなんや!

苻堅ふけんサマ、たちまち慕容楷を気に入る。

積弩將軍に任じ、ひいきした。

そういうとこやぞ覇王。


そんな覇王が東晋とうしん征伐の軍を立ち上げる。

このときと慕容楷と、弟の慕容紹ぼようしょう

こっそりと、慕容垂にいう。


「あれは諸々だめでしょう。

 この遠征から、叔父上。

 そのまま燕再興しちゃいません?」


「それな。

 お前らがいなきゃ

 無理だと思ってたとこだ」


そしてご存知、淝水ひすいでの大敗。

色々あってぎょうに赴いた慕容垂、

鄴を守る苻丕ふひから周辺の敵対勢力を

ボコせと命じられ、しかも人質として

慕容農ぼようのうや慕容楷らを鄴に留め置かされた。


その代わりに、苻飛龍ふひりゅうがつけられる。

慕容垂暗殺の密命を受けていた、あの。


慕容垂が苻飛龍を殺すと、

タイミングを合わせて諸慕容は脱出。


慕容楷と慕容紹は辟陽へきように到着すると、

そこで挙兵、慕容垂に合流した。

慕容楷は征西將軍に任じられ、

前燕時代に慕容恪が封じられていた

太原たいげん王の爵位を継承する。


とは言え、周辺の者たちは

すぐに慕容垂のもとに集まらない。

例えば東胡とうこ王晏おうあん鮮卑せんぴ烏丸うがんらだ。

彼らはどちらかと言えば

対立の姿勢を示していた。


そこで慕容垂、慕容楷らに討伐を命じる。

すると慕容楷、慕容紹に言う。


「鮮卑や烏丸、冀州きしゅうの民は元々燕の家臣。

 燕氏復興の大業が始まったとは言え、

 帝の威徳は未だ広く行き渡っておらん。


 細々とした反抗は、

 それこそが原因よ。


 ならば、我らは徳を示し、

 かの者らを安んじるべきだ。

 武力で抑え込むべきではない。


 おれがひとところにとどまり、

 拠点となろう。

 お前は民を、蛮夷を回り、

 大業の始まりを宣言しろ。

 そうすれば、かの者らは

 我らのもとに付き従おう」


こうして慕容楷は辟陽に駐屯。

慕容紹はわずか数百騎を引き連れ、

はじめに王晏を説得。

すると王晏は慕容紹とともに

慕容楷のもとに訪問、服属を誓う。


以降、鮮卑や烏丸、あるいは村単位で

自衛組織を編んでいたものらも

慕容楷らの元に集う。

その人数は、数十万人にも及んだ。




慕容楷,垂兄太宰恪之長子也。與垂同避難於秦,苻堅任為積弩將軍,甚見寵遇。建元末,苻堅大舉入寇,楷與其弟紹私言於垂曰:主上驕矜已甚,叔父建中興之業,在此行也。垂曰:然,非汝誰與成之?淮南之敗,垂起兵向鄴,楷為苻丕所留,聞垂殺飛龍,乃與弟紹同奔辟陽,發兵應之。拜征西將軍,襲爵太原王。時東胡王晏與鮮卑、烏丸等阻兵不服,垂遣楷與紹討之。楷謂紹曰:鮮卑、烏丸及冀州之民,本皆燕臣,今大業始爾,人心未洽,所以小異。惟宜綏之以德,不可鎮之以威。吾當止一處,為軍聲之本,汝巡撫民夷,示以大業,彼必聽從。楷乃屯於辟陽。紹率騎數百往說王晏,為陳禍福。晏隨紹詣楷降,鮮卑、烏丸及塢民降者數十萬口。


慕容楷、垂が兄の太宰の恪の長子なり。垂と同じく難を秦に避け、苻堅は任じ積弩將軍と為し、甚だ寵遇を見る。建元の末、苻堅の大舉して入寇せるに、楷と其の弟の紹は私に垂に言いて曰く:「主上の驕矜は已に甚だし。叔父の中興の業を建つるは此の行に在せるなり」と。垂は曰く:「然り、汝に非ずば誰と與に之を成さんか?」と。淮南の敗にて、垂の兵を起し鄴に向うに、楷は苻丕に留めらる所為たれど、垂の飛龍を殺せるを聞くに、乃ち弟の紹と同じ辟陽に奔り、兵を發し之に應ず。征西將軍を拜し、太原王の爵を襲う。時に東胡の王晏と鮮卑、烏丸らは兵を阻し服さずば、垂は楷と紹を遣りて之を討たしむ。楷は紹に謂いて曰く:「鮮卑、烏丸、及び冀州の民は本は皆な燕が臣にして、今大業の爾に始まるも、人心は未だ洽まらざる、小異が所以なり。惟えらく、宜しく德を以て之を綏すべし、威を以て之を鎮むべからず。吾れ、當に一處に止まり、軍聲の本為らん。汝は民夷を巡撫し、以て大業を示さば、彼は必ずや聽從せんん」と。楷は乃ち辟陽に屯ず。紹は騎數百を0率い往きて王晏を說き、禍福の陳ぜるを為す。晏は紹に隨い楷に詣で降じ、鮮卑、烏丸、及び塢民に降ず者は數十萬口なり。


(十六国50-17_寵礼)




うーん、これ、前秦の統治がどうこうというより、慕容の勢力拡大の余慶に与って南下した人々、という感じですね、やっぱり。いきなり横からやってきて「ワイがお前らのボスや!」とかいきなり言われても白けますわ。


やっぱり北部での暮らしが諸々厳しくなったところに「中華」の統制が緩んだ、って感じっぽいですね。中原の民にとっちゃ普通に魔族襲来ですわこれ、やっぱ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る